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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十二章 管理され悪意に満ちた

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第百九十話

「すまないシズマ君。控えの鳥『バードXIII』も『ポッポ24』もここを通る最中に死んでしまった! 先の階層の安全を確かめる術が我々にはないので、念のために我々は抗毒薬を服用した。メルト君もシズマ君も服用してくれ、このままこの階層を抜ける」


「了解です」

「りょ……かい……あついあつい……」


 受け取った抗毒薬を飲み干し、階層の終わりを示す薄い膜を通り抜ける。

 途端に、呼吸がしやすくなり、身体にまとわりつく熱気が消えたのが分かった。


 空気も……特に何か毒が含まれているような、何か異常が身体に生じる気配はない。

 これは……急場をしのげた、いや、危機を脱したと言えるのではないだろうか?


「ふぅ……皆さん、平気ですか?」

「ああ、こちらは全員無事だ。後続も……皆、いるようだな」

「あつかったー! シャツがビショビショよー! 着替えよっと」

「こら、ここで脱ごうとしない」


 シャツをガバっと脱ごうとしたので急いで止める。

 ダメでしょ! 皆さんが見ているんですよ!


「えー? でもリヴァーナちゃんも脱いでるよ? 下着も外してるよ?」

「っ!?」


 一瞬確認してしまい急いで顔を背ける。

 ダメだ! 悪い見本だこの人!


「さっぱりした。私は気にしない」

「周りが気にするのでやめましょう。メルトが真似してしまうので」

「分かった」




 ひとまず、二二階層の灼熱地獄を脱したので、二三階層の入り口で一息つく一同。

 メルトが魔法で生み出す冷えた水を頂きながら、火照った身体を冷やし、しばしの休憩に入る。


 皆も着替えたり汗を拭きながら、行軍の再開の準備を始めたり、この階層の様子を観察したりと、あの地獄を潜り抜けた直後だというのに、次に向けて動き出していた。

 やはり、頼もしい。


「想像以上に消耗したな……予定では野営に入るのは四〇層の階層主を倒した後だったが、三〇階層に切り替える。皆、それで構わないか!」


 アラザさんの提案に、皆が若干元気をなくした声で返事をする。

 そうだな、なら今回は俺も奮発しよう。

 俺は、最高級ではないが、体力を回復するポーションを人数分取り出し、配って歩く。


「どうぞ、体力を回復させるポーションです。元々、使用期限が迫っていたものを旅団から俺が譲ってもらったものですから、遠慮なく使っちゃってください」


 遠慮されないように、そう文言を付け加えてみんなに配って歩く。

 恐らく、アクセサリーの効果で徐々に体力は回復するにしても、皆かなり消耗したのだろう。

 そもそも、俺のステータスは普通の人間よりも高い。なら、一般の人間は先程の灼熱地獄、俺よりも辛かったはずなのだ。


「サンキューシズマ。いやお前すげぇよ……このアクセサリーもすげぇけど……お前、装備とか預けられるなんて、信頼されてんだな」


「だといいな。キュベック、体調はどうだ?」


「このポーション飲んだらかなり楽になったわ。すげぇな、これも。旅団ってのはとんでもねぇ集団なんだな……今は何してるんだ?」


 一班で斥候をしている、同世代の青年であるキュベックが、自然な調子で話しかけてくれる。

 それがなんだか逆に新鮮で、ちょっと嬉しかった。


「たぶんセイム、元副団長が様子を見に向かってると思うけど、基本放浪してるんだよなぁ。今はこの大陸が気に入ってるからあちこち回ってるんじゃないかな」


「なるほど、まさに旅団だな。俺達も負けていられねぇなー。ダンジョン攻略、俺達のクランの悲願だからな。前は隣大陸まで遠征していたんだけどよ、このダンジョンの被害が大きくなったってんで、切り上げて戻って来たんだよ。もう三年前になるか」


「へぇ、そうだったんだ。俺もそのうち隣大陸に行ってみたいもんだよ」

「凄いぜ帝国の国営のダンジョンは。変わった仕組みがいっぱいあるんだよ」


「国が運営しているのか……ってことは過去にクリアされて、コアを使って国がダンジョンを管理してるってことなのかな」


「そういうものなのか? 俺には詳しいことは分からないんだけどよ」


 しまった、コアの活用法については国の機密扱いだったな。迂闊だった。

 だが……そうか、帝国は少なくとも既に管理しているダンジョンがあるのか。

 なら、そこをクリアしてもダンジョンコアは手に入らないのだろうか……?


「シズマ、ポーションご馳走様。空き瓶、いる?」

「あ、邪魔なら俺が回収しますよリヴァーナさん」

「地上に戻ったら私に頂戴。今は預けておく」

「空き瓶、集めているんですか?」

「そう。趣味に使う」

「趣味……ですか?」


 キュベックと話していると、リヴァーナさんがポーションの空き瓶を『抱えて』やってきた。

 どうやら、他の面々の空き瓶も回収してきてくれたらしい。

 しかし瓶を集める趣味……?


「ああ、シズマは知らないか。うちの班長はガラス職人でもあるんだよ。オフの日は工房に籠って趣味のガラス細工作りとかしてんだ。リンドブルムの教会にあるステンドグラスなんかは、班長も制作に関わってるんだぜ」


「手伝っただけ。本職のステンドグラス職人の手伝いを依頼された」

「へぇ、凄いじゃないですか。分かりました、空き瓶は全てお譲りしますね」

「感謝。この腕輪のガラス玉も見事。誰の作?」


 すると、彼女は自分の借りたアクセサリーにも興味を持ったのか、ガラス部分を光にかざしながら聞いてきた。


「旅団の鍛冶職人のシジマっていう人ですね。武具だけじゃなくてアクセサリー作成にも精通しているんです。俺の鍛冶仕事の師匠のような人ですよ」


「興味深い。シズマ、このガラス細工の仕組み、分かる?」


「えーと、確か銀箔をガラス玉に張り付けて、その上から色の濃さにむらのある青いガラスで丸くなるようにコーティングするんだったかな……」


「なるほど。ありがとう、興味深かった」


 そう言い残すと、心なしか楽しそうに立ち去っていく彼女。

 辛いダンジョン攻略のはずなのに、もう外ですることのことを考えているあたり、彼女は相当タフなのだろう。流石に頼もしい。


「へへ、班長はシズマといると楽しそうだな。よし、んじゃそろそろ出発の準備すっか!」

「すっかり体調も戻ったみたいだね、みんなも」

「ああ。ポーションのおかげだ」


 キュベックに続くように、他の人間も出発の準備に入る。

 さぁ……今は二三階層、今日の野営地予定の三〇階層まであと七階層だ。






 灼熱の階層を過ぎてからは、特別過酷な環境が現れることはなかった。

 だが、先の階層の安全をチェックする小鳥がいないのはやはり不安で、それを解消するために道中の小型の魔物を一体、ロープで捕縛して連れて行くことになった。


 が、二九層に入る時にその魔物を先に移動させた時、その変化は起きた。

 境界の向こうで、魔物の姿が急激に変化し、今の今まで小型の狼だった姿が、唐突に鱗に覆われた亜種に変化したのだ。


 それはもしかしたら、環境に適用するように魔物側にルールが付与されていたのかもしれない。

 なら、この二九層は特殊な環境なのだろうと覚悟しながら足を踏み入れると、確かに若干の硫黄臭さと、目がひりひりする感覚に包まれたのだった。


 結果、どうやら二九階層は若干の有害ガスが充満している階層だったらしく、抗毒薬とアクセサリーでほぼカットすることができたのでそこまで問題ではなかった。

 が、魔物は安全確認には使えないと判明し、若干の暗雲が立ちこめたような気がした。


 ともあれ、俺達は無事に今日の目標である三〇階層の目前に辿り着いたのであった。




「さて……二〇階層では肩透かしを食らった形になったが、その後に二三層では油断していたところにあのような仕打ちを受けた。ここも油断はできない。二〇階層と同じように速攻の構えで突入、開幕の集中砲火で削りつつ目くらまし、リヴァーナは背後に回り込み、私とガークで正面から様子を確認しつつ対応。その後は押し込めそうなら押し込む、異常を察知したらすぐに退避しろ」


 再び攻めを優先した布陣。

 恐らく、既に階層主の予測を立てられない以上、下手に後手に回ると逆に被害が大きくなると踏んでいるのだろう。

 若干、安直過ぎる気もするのだが……。


「魔法を反射してくる可能性はありませんか?」


「あるだろうな。だが、反射された魔法に反応できないような使い手は我々にはいない。心配させてしまったな」


「なるほど、お見それしました。なら……メルトは魔法班に組み込むと良いかもしれません。彼女は魔法の操作に秀でていますから。むろん、それが反射された魔法であろうとも」


 そう、メルトは『現象が場に存在していたら操作可能』なのだ。

 それがたとえ『自分以外の存在、敵が放った魔法であっても』。

 つまりメルトは存在そのものが、対魔法のメタ対策になるのだ。

 ……普通に強力過ぎると思います。


「限度があるけれどね? でも最低でも勢いは弱められるから、みんなで協力したら相殺できると思うわ。じゃあ私は魔法使いのみんなと一緒にいるね」


「そうか、では任せよう。シズマ君は……そうだな、遊撃で敵の様子を観察してくれ。君の観察眼は素晴らしいからな……安心して指令役を任せられる」


「大役ですが、全力を尽くします」

「ああ。では……行くぞ、みんな」


 そうして、俺達は三〇層に足を踏み入れたのだった――






「いやはや……驚きましたね。想像よりも少人数です」


 フロアに入った瞬間、ありえないことが起きた。

 俺達以外の人間の言葉がフロアに響き、一気に全員の警戒レベルが最大まで引き上げられる。

 同時に、驚きのあまり一瞬だけ攻撃が遅れてしまった。


「っ! 放て!」


 一瞬遅れて魔法の集中砲火が『その存在』に殺到する。

 だが――


「ああ、安心してください。高難易度エリアを突破した集団の様子を直接見にきただけですから。まだ私が直接手を下すようなことはしませんよ」


 魔法が炸裂する最中、平然とその存在……ダンジョンマスターの声が聞こえ続けていた。

 俺は、魔法の切れ間から見えたダンジョンマスターの姿を【神眼】で確認する。



『フェルシューラー』


『非常に強大な力を秘めた上位存在』

『使用中の干渉アバターも彼女の力に呼応し凄まじい能力を誇る』

『権能によりダンジョンを操作することができるがその規模も効果も大きい』

『本来であればグリムグラム以上の力を秘めるが彼女に残虐性はない』

『純粋にダンジョンの運営を楽しみにしている』




 ダンジョンマスターを、こういった力で鑑定したのは初めてだった。

 だが、新たな事実が判明した。

 やはり……こいつらは『上位存在』という、この世界よりも上の世界の住人だ。

 そしてこのダンジョンマスターという存在は、彼らが世界に干渉する為の肉体だ、と。


「おや……こちらを覗き見る悪い子がいますね? ふむ……ほう……これは興味深いですね。貴方……『既に二人殺しましたね』?」


「っ! それについてはノーコメントです、お姉さん」


「いいでしょう、目を瞑ります。さて……いい加減攻撃を止めてください。私はこの階層では貴方達の相手はしません。まだまだ下の方でお待ちしていますから」


「っ! 打ち方止め――」


 そうアラザさんが号令を出した瞬間だった、ダンジョンマスターの背後から迫る影が、鋭い一撃を加える。

 リヴァーナさんが、作戦通り背後から階層主、この場合はダンジョンマスターを狙ったのだ。

 だが――


「無駄ですよ。中々育っていますが、貴女ではまだ足りない」

「っ!」


 ダガーの一撃が、背後から首を落とそうとした一撃が、後ろ手にキャッチされていた。

 まるで自分の長い髪でもいじるように首の後ろに回された手で、完全にダガーを受け止めていた。

 そのまま、前方、こちらに向かいリヴァーナさんを無造作に投げてよこす。


「さて、面白いものも見れましたし、これで失礼しますね。最下層でお待ちしています。ああ……今のこのダンジョンは全部で『一二三階層』までありますよ。ワンツースリーです」


「……本当ですか?」


「本当です。中々面白そうなので……貴方達が辿り着けるように、強制終了のような階層は用意しないと約束しますよ。ただし相応に難所はあります、是非とも頑張って乗り越えてくださいね」


「……ヒント、ありがとうございます」

「どういたしまして。では、本来の階層主が現れますので、よき戦いを」


 そう最後に言い残し、ダンジョンマスター『フェルシューラー』の姿が消える。

 ……ダンジョンマスターって女性型もいるんだな。


「シズマ君! 次が来るぞ!」

「っ! 了解です!」


 突然のダンジョンマスターとの遭遇で乱れた心を引き締めなおし、本来の階層主に備える。

 ……一二三層か。絶対、辿り着いて見せる。

 だからこんなところで負けてなんてやるものか――

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