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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十二章 管理され悪意に満ちた

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第百八十三話

 タラップを使うまでもないと判断したのか、船上から人影が飛び降りてくる。

 俺とメルトの目の前に着地したのは、藍色のセミロングの髪をなびかせる小柄な女性。

 キルクロウラー第一攻略班の班長を務めるリヴァーナさんだった。


「シズマ、久しぶり」

「お久しぶりです、リヴァーナさん。大体四カ月ぶりですね」

「久しぶりねーリヴァーナちゃん。調査お疲れ様ね?」

「メルトも、久しぶり」


 嬉しそうに彼女の手を取るメルトと、表情がほぼ変わらないまま、それに付き合い少しだけ手を揺らして喜びを分かち合っているような様子のリヴァーナさん。

 やはり仲良くなったのだろう、よく見ると彼女の目が少しだけ笑っているのが分かる。


「出迎えてくれたのか。久しいな、シズマ君。今回は我々の要請に応えてくれて本当に感謝するよ」


「お久しぶりです、ガークさん。自分も元々、天然のダンジョンには興味がありましたから、渡りに船でしたよ」


 タラップで上陸してきた面々の中から、こちらに駆け寄ってくる生真面目そうな男性。

 第一攻略班の副班長を務めるガークさんが、まずはこちらに感謝の念を伝えてくる。

 こう言ってはなんだが、リヴァーナさんよりも彼の方が班長のように感じるな。


「それと今回、我々を引率するのはクランマスターなんだ。是非君を紹介したいと思っていた」

「俺も、お世話になる相手ですので、一度ご挨拶しておかなければと思っていました」


 さらにこちらに近づいてきたのは、キルクロウラーのリーダーにして、十三騎士の一人。

 既にセイムやシレントとして顔を合わせたことのある、アラザ・ミールさんだ。

 感情の読みにくい、けれども人を寄せ付けないような表情でもない、ただひたすらに冷静そうな印象を受ける、大柄の男性。


「初めまして、シズマと申します。この度は探索隊の末席に加えて頂き、誠に感謝致します」


「そう畏まらないでくれ。こちらが君に協力を要請した身なのだから。だが、正直こうして目の前にして、若干驚いているのは否定しない。想像よりも……だいぶ若いのだね」


「よく言われます。少し前に一七になったばかりですから」

「君については、ある程度話は聞いている。その力を疑ったりはしない。だが……想像以上だ。君はしっかりと『殺せる側』の人間のようだ。だからこそ、信用できる」


「……ご慧眼、恐れ入ります」


 何か、俺から感じるものでもあったのだろうか。

 シズマとしては初対面のはずなのに、俺の殺人の経験を言い当てて見せた。


「しかし、異世界出身の者は皆『粗暴で無礼な者ばかり』だと教えられていたが、どうやら違ったようだ。少なくとも君の態度も言葉遣いも、とても洗練されている」


 む……『教えられていた』とは? もしや、俺以外の地球人と関わりがある人を知っている?


「こちらの世界にも様々な人がいますからね。その粗暴で無礼な人間というのは……もしや他国で召喚された人なのでしょうか?」


「ああ、ここより遥かに離れた大陸出身の知り合いがいてね、そう聞いている。……うっかりしていた。私の方が礼を逸していたな。名乗り遅れたが、私の名前はアラザ・ミールという」


「はは、俺が話を別方向に持っていったせいです。しかしなるほど……他国でも召喚はされているのですね」


「そうだ。この大陸より遥か東、隣大陸ライズアークのさらに隣の大陸『エレーディア』出身のエルフの知人がいてね。まぁ寿命の関係でそれがいつの時代、何十年前の話なのかは分からないが『非常に粗暴で破天荒で気位の高い奇抜な髪型の勇者』がいたそうだ」


「なるほど……エルフですか。もしかしたら本当に大昔、俺の世界の戦乱の時代から召喚されたのかもしれませんね」


「ほう、君の世界の戦乱の世の話か。……一度、君の世界の話も聞いてみたいものだ」


 歴史や知らない世界の話に興味があるのか、少しだけアラザさんの目が輝いた気がした。


「さて、ここで立ち話もなんだ。野営地に向かおうか。我々のベースキャンプは前回の遠征時のまま残されているはず。先行した人間、確かバスカーが管理してくれているはずだ」


「了解、バスカーさんですね。俺も人工ダンジョンでお世話になった方です」

「そうだったか。では、一緒に向かおう。君とも現在の人工ダンジョンの様子については情報を共有した方がいいと思っていたところだ。……リヴァーナ! そろそろ向かうぞ!」


 ふと、リヴァーナさんとメルトの姿が見えないことに気が付き、アラザさんが声をかけた方向を確認すると、二人が仲良く防波堤に座り、フルーツ串を食べているところでした。

 ……なんというか、仲のいい友達が出来たようですな? 見ていてほっこりしました。






 野営地の中をキルクロウラーと共に進むと、これまでとは明らかに規模の違うざわめき、ひそひそ声が四方八方から聞こえてくる。


「戻って来た……キルクロウラーの選抜隊だ」

「第一班と二班が揃ってるな……こりゃ今回は本気だ」

「な、なんであの二人組が一緒にいるんだ……まさか加入したのか……?」

「……こりゃダンジョンが休眠期に入るのも時間の問題だな」


 皆、キルクロウラーの中でもさらに選抜されたであろう面々に畏怖しているような様子。

 そこに加え、最近頭角を現してきたと自負している俺とメルトが加わっていることに、驚いている様子だった。


「シズマ、有名になった」

「かもしれません。昨日、少し問題を起こしましたから」

「……め!」

「いや、悪いことはしていないんですけどね?」

「……そう、ならいい」


 リヴァーナさん……なんだかまだキャラがうまく掴めない……!

 いや可愛い人だとは思うんですよ? 言動が少し天然っぽくて。


「リヴァーナちゃん? あのね、シズマは昨日ここで、悪い人と争いになって、相手を倒してしまったのよ。その時少し過激で恐かったから、みんな驚いているのよ」


「本当? シズマ、殺した?」

「……はい、必要でした。舐められたら終わりなので、俺達は若いですから」

「よくやった」


 怒られると思ったら褒められたんだが……!

 どうやら本当にこういうことはよくあるらしく、誰も俺を咎めようとはしなかった。

 そのまま、大勢の視線とざわめきに晒されながら、俺達はキルクロウラーのベースキャンプに到着したのだった。




「皆さん、お疲れ様です!」


 ベースキャンプに到着すると、この広い拠点を一人で管理していたであろう、バスカーが出迎えてくれた。

 そういえばセイムとして一緒にこの島に来てから、一度も挨拶に出向いたりしていなかったな。

 少し、悪いことをしたかもしれない。


「拠点維持ご苦労。感謝する、バスカー」


 アラザさんの労いの言葉に、舞い上がったかのような表情を浮かべ、そのまま彼は俺達と一緒に移動してきた他のメンバーの元へ向かう。

 面識のない人達だが、恐らく彼らが第二攻略班なのだろう。


「バスカーも参加してくれ。これから人工ダンジョンの調査結果を共有し、そのまま明日以降の我々の方針について決めるつもりだ」


 アラザさんの言葉に全員が短く返答し、その様子が『規律の厳しい軍隊のようだ』と、統率された組織特有の格好良さを感じた。


「なんだかみんなキビキビしてるわね」

「そうだね、これがクランで行動するってことなんだろうね」




 ひと際大きなテントに移動し、内部に設置された大きな長テーブルに集う。

 黒板も用意されているが、今回は使わないようだ。

 上座のアラザさんが、俺達を見回し、話し始める。


「では、我々は既に実地調査をしてきたところだが、その情報をシズマ君やメルト君、バスカーにも共有したいと思う。が、まず始めに結論だけ先に報告しよう。リンドブルムの巣窟は、この度正式に『新たな高難易度ダンジョン』として認められた」


 ! そうか、もうあそこは初心者用のダンジョンではなくなったのか……!


「しかし、人工ダンジョン特有の機能、途中から探索を再開する魔法陣も、内部での戦績をある程度可視化する機構も生きている。つまり、以前第一攻略班が遭遇したという『暴走状態』と非常によく似た状況になっている。この辺りは、シズマ君の方が詳しいだろう」


「なるほど……そうですね、暴走状態の五〇層まで出現した魔物の種類はギルドに報告しています」


「そう、その魔物と同じ種類の魔物が今回も現れた。三〇階層以降の魔物は、確実に翠玉、紅玉ランク以上の人間でなければ倒せない、強力な個体ばかりだった。が……少々品のない話だが『圧倒的な実入り』も確認できた」


 アラザさんが、少しだけ頬を緩めたような気がした。

 どうやら他の隊員も同じ理由からか、少しだけ楽し気な声が漏れ聞こえる。


「まず、深部には強い魔物が出現するのは確認できたが、同時にこの大陸では見かけない強力な個体だ。倒すことができれば、その素材を入手する可能性がある。これが、なかなか良い値段で取り引きされている。国は今の人工ダンジョンを正式に新たなダンジョンとして周囲に発表するそうだ」


「なるほど。それで、最下層には辿り着けたのですか?」


「いや、途中で切り上げることにした。というのも、どうやらこれまでとは違い、ダンジョンは五〇階層で終わりではないようでな。確認できただけで七一階層、いくら途中から再開できるとしても、これ以上は調査が長期化するため切り上げさせてもらった。だが、どうにも出現する魔物の分布を見るに……『一定の階層と同じ構成に戻された』と感じた。内装や雰囲気的に」


「なるほど……ループ構成になっている可能性、無限に続くダンジョンですか」


「我々もその可能性を考えて調査を切り上げたのだ。ダンジョンは一種の異界、しかし人工ダンジョンは実際の地形に影響を与えたりはしていなかった。もしかすれば、実戦に近い訓練を続けられ、かつ稼ぎを得られる終わらないダンジョンになったかもしれない」


 それは……非常に良いのでは? 観光資源としても、素材や財宝を稼ぐ財源としても、探索者を育成するという面でもこれ以上ない、最高のダンジョンではないだろうか?

 難易度が上がっているとはいえ、途中離脱は一定間隔で可能、途中再開も可能となれば、人気が出ても不思議ではない。


 前回の暴走状態とは違い、正式に『高難易度のダンジョンだ』とあらかじめ周知すればトラブルも避けられるだろうし、低階層のうちには訓練にも利用できるだろう。

 俺はその考えを口にする。


「ああ、国としてもしばしの間、一定の実力を持つ探索者にダンジョンを開放し、それでイレギュラーが発生しないのを確認した後に、大々的に周知するつもりだと言う」


「なるほど。リンドブルムの巣窟については了解しました。情報共有、感謝しますアラザさん」


「どういたしまして。やはり君は聡いな、国の方針と同じことを言う。リヴァーナとガークが君を欲しがるのもよく分かる」


「恐縮です。では……いよいよ明日以降の『大地蝕む死海』の攻略について、打ち合わせを始める、ということで良いでしょうか?」


 ここまでは事後報告のようなもの。

 本題はここからだと、俺は姿勢を正しアラザさんに訊ねる。

 が――


「いや……その前に食事の時間だ。既に果物で胃を膨らませているリヴァーナはともかく、我々は飲まず食わずで移動していてな。すまないが先に食べさせてくれ」


「あ、もちろんです。では屋台に繰り出しましょうか。いっぱい買い込んで、ここで食べましょう」

「賛成。シズマ、メルト、行こう」


 どうやら皆さん腹ペコだったみたいです。

 もしかして……俺を待たせているからと、強行軍で移動していたのだろうか……だとしたら申し訳ない。


「行こうリヴァーナちゃん! 私のおすすめ買いに行こう?」

「メルト、何好き?」

「私はエビが大好きよ!」

「そうなの。私はイカ」

「へー! イカって美味しいわよね、おっきな足をシズマが焼いてくれたの、美味しかったわ」


 はい、はずれ扱いの階層主ですね。美味しかったです。

 醤油がないので塩とニンニクのタレを塗りながらこんがり焼きました。

 リヴァーナさんに連れられ、日が沈み始めた野営市に繰り出そうとする。


「シズマ、早く」

「置いていくよー」

「はは、すみません皆さん、お先に失礼します」

「うちのリヴァーナがすまないね。我々も後から向かうよ」


 このクランの人達と一緒なら、きっとダンジョンを踏破できる、そう思った。

 具体的な理由なんてなくても、そう感じたのだ。


「シズマ。ダンジョンはイレギュラーが付き物。油断しないで」

「了解です。そうですね、準備はしっかりしておきます」

「どうしてイレギュラーは発生するんだろう」

「どうしてかしらねー?」


 ダンジョンマスターの悪意か、それとも……。

 天然のダンジョンである以上、ダンジョンマスターも確実に存在しているのだろう。

 しっかり……その対策も練らないとな。

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