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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十二章 管理され悪意に満ちた

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第百八十二話

 ある日の夕暮れ。

 ダンジョンからほど近い、探索者の仮拠点として大きなベースキャンプが乱立し、パーティ単位のテントも設置されたりと、探索者のためにヤシャ島に用意された広大な野営地。


 そこには当然、探索者相手に商売をしている様々な出張店舗としての屋台や、飲食物を取り扱う屋台、さらには武具の修繕や売買、ダンジョンからの出土品の買い取りを行う店など、多種多様な店が軒を連ね、ある種『もう一つの市街地』とでも呼べそうな様相を呈していた。


 そんな野営地に現れた二人の人物に、周囲の探索者や屋台の店主達が声を潜め、噂する。


「……今日で三日目だよな、今回は三日間もダンジョンに潜り続けていたのか……」

「嘘だろ……大規模な攻略隊でもパーティでもない、たった二人でか?」


「低階層ならまだしも、あの二人……二七階層で見かけたって『マンティスシュリンプ』連中が昼頃に言っていたぞ……どうやらあっちの黒髪の小僧、元々かなりやり手だって話だ」


「二人でたった三日でそこまで行けたのか……あっちの嬢ちゃんがヤベェのは有名だが、あっちの小僧も……とんでもないコンビが現れたな」


「お陰で殆どの素材の買い取り額が下がっちまったけどな。あいつら、貴重な素材もガンガン売却するからな」


 周囲の人間が噂しているのは、ここ『大地蝕む死海』に挑戦し続け、次第に寝泊まりもダンジョン内で済ませ、日に日に攻略階層を深めていく二人、シズマとメルトのことだった。


 たった二人でダンジョンに挑み、連日様々な素材を大量に売却する二人は、元々メルトの存在が認知されていたこともあり、瞬く間に周囲の人間に知られていった。

『物凄い速度で魔物を処理して進む二人』『高速アタッカー二人組だと思ったら魔法も使える』。


 一人で何役もこなせる二人組は、実質大人数のパーティと変わらない働きをし、ある時は苦戦中の探索者を助け、またある時は負傷している探索者を癒し、またある時は野営中に食糧の尽きたパーティに料理を振る舞う。


 強さだけでなく、その対応の数々が良い名声を生み、次第に二人は噂され、同時に羨望の眼差しを受けるまでになっていた。


 だが――そういった輝ける名声を妬み、嫉み、憎む存在はどこにでも存在する。

 そういった輩が、まだ年若い二人の活躍を面白くないと感じ、何かしらの攻撃を仕掛けるのも、ある種の既定路線『おやくそく』だった――








「シズマ、その人殺しちゃうの?」

「別にいいんじゃない? こういう輩は『探索者』って肩書き持ってるだけの犯罪者予備軍だし」

「連行するだけじゃダメなのかしら?」

「んー……見せしめ?」


 夕日が沈み行く野営市にて、俺達が三日ぶりにダンジョンから戻ると、何やら素材の買い取りを妨害し、訳の分からない理由で素材を置いていけと突然絡まれた。


『お前達のせいで迷惑している大勢の探索者の代表として取り立てにきてるんだよ』とかなんとか。

 普通に三日間の行軍で疲れていたところに絡んできたので、いつもより機嫌が悪いです。

 俺は、そのままこのチンピラ探索者の背中に剣を突き立てた。


「そのまま死ね。お前ら見てただろ? 俺は突然こいつに因縁つけられて、あげくに剣を向けられて素材を置いていけって脅された。だから殺した。俺は罪人か? どうだ?」


 血濡れの剣を払い、鞘に納め周囲の人間に問う。

 俺は罪人なのか否か、と。

 暗黙のルールで、因縁をかけるにも剣を抜いたら、その段階で殺されても文句が言えないとされている。ましてや今回は俺が一方的に脅された形で、証人も山程いるのだ。


「……アンタは悪くねぇ」

「そ、そうだ。悪いのはこいつだ……」

「そうですか、それは良かった」


 素材の買い取りを済ませ、俺は死体を残したまま、野営市を立ち去る。

 別に、こういう事件や光景は日常茶飯事ではある。特にダンジョン近くの野営市だと。

 だから、人死にが出ないようにグローリーナイツのようなクランが見回りをし、最悪の事態が起きる前に喧嘩両成敗、もしくは連行していくのだ。


 だが、もうメルトはグローリーナイツの協力者ではないし、俺も、俺の活動を悪意を以って邪魔する存在を決して許しはしない。

 見た目が若いからとなめてかかる人間に釘を刺す意味でも、非道に徹する。


「今度絡まれたら、私がやるね。シズマばっかり恐がられるのは嫌よ、私」

「ん、ありがとう。ただ、これでもう俺達を舐めてかかる人間は出てこないと思うよ」


 探索者はその性質上、目に見える働き、活躍をしないとそこまで有名にならない。

 感謝し、存在を広めてくれる『依頼主』が存在しないのだから。

 故に、実際にその探索者がどういう人間なのかは、人づてに聞くしかない。


 そして俺達は『親切な優しい探索者』という噂が先行してしまっていたのだろう。

 雑魚を狩る所しか見られていないもんな。強力な階層主と戦うのは基本、大人数のパーティだし。


 だから俺とメルトが『既に何度もはずれ扱いの強力な階層主』を倒していると、周囲に知られていないのだ。

 ……本当は階層主から結構珍しい素材とか穫れているんだけどね。


『海淵に潜むモノの触手』『海を駆る巨躯の身肉』『海要塞の中心肉』とか。

『でっかいゲソ』『でっかいマグロ』『でっかいホタテの貝柱』です、こいつら。

 全部、俺達の胃袋の中です。なので知られていません、倒したことは。

 人工ダンジョンみたいに中での戦績を知る術も管理する存在もいないから仕方ない。


 探索者ギルドの職員も、本来ならこういう野営地を管理、警備する業務を担うはずなのだが、それが間に合っていないというのが実情だ。

 だからこそ、グローリーナイツがこうして警備の仕事を手伝っているのだが。


 ヤシャ島は今、誰の目から見ても過密状態だと思う。

 やはりこの大陸のダンジョンがもうここしか残っていないから、それに加えてダンジョンコアが国に提出されたという事実が、こうしてヤシャ島に大量の探索者を集めているのだろう。


「人工ダンジョンの調査が終わればなぁ……そうすれば人もばらけると思うんだけど」

「あー、そういえばリヴァーナちゃんとかってまだ主都にいるのかしらね?」

「そうだと思うよ。そろそろ、向こうの調査も終わってこっちに来て欲しいんだけどなぁ」


 俺とメルトがダンジョンに挑むようになってから、今日でたぶん一〇日だ。

 セイムとして島に渡った時期から数えたら、もうそろそろ一月になる。

 流石に人工ダンジョンの再調査も終わってる頃だと思いたいのだが。


「さあ帰ろうか」

「うん、帰ろう? 久しぶりにホテルのお風呂に入りたいわ」


 メルトのお陰でダンジョンの中でも簡易的なお風呂には入れていたのだが、やはりそこまでリラックスはできない。そうだな、明日は一日、休暇にしてのんびり過ごそうか。


 俺達は周囲の人間から恐怖の眼差しを向けられながら、野営地を後にする。

 ……ある程度必要なんだよ、やっぱり外見から伝わるような風格、力っていうのは。

 それが望めないなら、こうして行動で見せるしかないのだ。






 翌日、グローリーナイツから出頭を求められた。

 昨日の件だろうかと身構えていたのだが――


「ん? いや、探索者同士の揉め事で剣を抜いたらこうなるのは当たり前だろう? ああいう人間はダンジョンにも潜らず、チンピラまがいであんな風に他人へのたかり行為を繰り返すもんだ。最近メルトの嬢ちゃんがいないからって、羽目を外し過ぎる馬鹿が増えてきてるんだ。昨日の件は聞いているが、咎めたりはしないさ。今日は別件で呼ばせてもらった」


「そうでしたか。ではどういったご用件でしょうか?」


「ああ、昨夜の定期船で手紙が届けられてな。今日の夕方、キルクロウラーの連中が島に到着する予定だそうだ。海を渡れる鳥の調教は難しくてな、こうして港町から船で届けられるんだ」


 ついにキルクロウラーの本隊が島に到着するという知らせだった。

 いや心臓に悪い……今日、ホテルのフロントで『保安事務所からお呼び出しがかかっております』なんて言われて、本気で昨日のことについてお咎めがあるのかと警戒していたので……。


「そうなんですね、お知らせいただきありがとうございます。これで、ついに本格的なダンジョン攻略に着手できます」


「ああ、そうだな。噂だと、既にメルトの嬢ちゃんと二人で、かなり深くまで潜ったとか」


「いえ、三日かけて三七層がやっとですよ。ホテルの契約もありますから、これ以上の長期チャレンジは不可能だと判断し帰還しました」


「いや、十分過ぎる成果だ。異常と言ってもいいくらいだよ。ふむ……流石、旅団の人間といったところだろうか。もし、君達にセイムさんも加われば……三人だけで踏破だって夢じゃないかもしれない」


「はは……流石に無理ですよ」


 もしも、召喚体に意思を持たせることができたら、不可能ではないかもしれない。

 なにせ、俺は『全職業のキャラクター』を所持しているのだから。

 今まで使ったキャラクターなんて、その一部でしかないのだ。

 ……まぁほぼ倉庫キャラとしてまともに育成していないんですけどね。


「シズマシズマ、だったら近いうちにホテルとの契約、一度破棄とかした方がいいのかしら?」


「そうだなぁ、返金はしてもらわなくていいけど、毎日ベッドメイクや部屋の掃除をしてもらうのも悪いし、他のお客さんに使ってもらった方が良いからね」


「じゃあ明日から長期でダンジョン探索ね! 色々道具とか買い足さないと! ピッチちゃん三世を買いに行きましょう!」


「三世……了解、また確認用の鳥を買っておこうか」


 メルトが名付けた安全確認用の小鳥なんですけどね、見事に二匹、お亡くなりになりました。

 即死トラップや強力な毒ガスではないが、普通に急激な温度変化や、微細な毒の影響を受けてお亡くなりになったんです。人間でも、長時間いたら苦しむような階層でした。


 なお、しっかり鳥はメルトのお腹の中に収まりました。一口唐揚げダージーパイ風として。




 昨日の今日だが、野営市に向かうと、すぐに人混みが左右に割れ、非常に買い物がしやすくなった反面、かなり噂をされるようになってしまっていた。

 元々、徐々に有名になりつつあったのだが、昨日の一件が完全に決め手になってしまったようだ。


「確認用の小鳥……は当日買うからいいとして、空き瓶五つとこの乾燥した薬草、一束ください。それと頑丈なロープを二束お願いします」


「あいよ! すっかり有名になったな、兄さん。それにあっちの嬢ちゃんも、しっかり素材を持ってきてくれる。お陰でこっちはかなり潤いそうだ。近々港に戻って捌きに行かないと」


「それは良かった。俺は明日から本格的な攻略に入るので、暫くは地上に戻ってくる予定はないんで、丁度良いかもしれませんね」


 俺は行きつけの出店で、必要な道具を購入する。

 ここは以前、メルトについて教えてくれた店主の店で、俺は手に入れた素材をもっぱらここに卸していた。

 特にどこでも構わないが、ついでに買い物をする際、一番品ぞろえが良いのがこの店なので。


「シズマー? ホテル引き払うなら、野営地に私達のテント、設置した方がいいのかしら?」


「んー? リヴァーナさんのところにお世話になるなら、たぶん向こうのベースキャンプでお世話になるんじゃないかな? 念の為ホテルを引き払うのは明日にしよっか」

「なるほど! なら今夜は最後にあのベッドでぐっすり眠るわ! すごくふよふよのベッド」

「そうだなぁ。よし、買い物終わり。まだ少し早いけど、波止場の方に移動しておこうか」

「あ、そうね! お出迎えしてあげなくちゃ。ついでに波止場の果物屋台でお買い物よ」


 初日に見かけた果物屋台だが、あそこって実はこの島の名物らしいです。

 店主が氷魔法を扱うらしく、そのおかげか、あそこの果物はいつもキンキンに冷えているのだ。

 俺も食べたが、よーく冷えたパイナップルに似た果物がとても美味でした。

 なんか形はキウイみたいな小型だったけれど。


「では店主さん、ありがとうございました」

「ありがとうございました! もしも不思議な棒が入荷したら、取っておいてね!」

「ん? 棒? まぁ、了解した」


 ……メルト、エビを引き寄せる棒とか期待しているのだろうが、たぶん存在しないぞ。




 波止場に移動すると、定期船が来る時間が近いからか、だいぶ人が増えていた。

 以前は三日に一度の頻度だったのだが、ここ最近の乗船希望者の多さに負け、ここのところは毎日何往復もして送迎を行っているそうだ。


 が、やはり渦潮の発生が不定期かつ不安定であるため、航路を大きく変更し、今は本来の航路をかなり迂回しての航行となっているそうだ。

 時間も燃料も食うため、その分の代金を国が支払っているのだとか。


「リヴァーナちゃん達まだかしらねー?」

「すっかり仲良しさんになったんだね?」


「うん、一緒にお酒飲みながら沢山お話して仲良くなったわ。リヴァーナちゃんは凄くシズマのことを誉めていたのよ? 『若いのに凄く努力家』『なんでもできるしっかり者』『言葉遣いが丁寧だから話しやすい』って」


「そ、そうなのか」


 なるほど? ちょっとよく分からない理由もあるが、うん……悪い気はしないな!

 メルトと二人、果物を齧りながら海を眺めていると、遠くから汽笛の音が聞こえてきた。

 海を見渡すと、遠くの方に船が見えてきた。


「あっちあっち! あそこでお出迎えよ」

「よし来た」




 徐々に速度を落とし迫る船。

 静かに着岸、停泊し、タラップが下ろされる。


「お、おい! あれって!」

「帰って来た! 連中が戻って来た!」

「戦争の少し前にここを撤退したんだよな……また、攻略に着手するのか!」


 周囲の人間が、船上に見える一団を指し、驚きの声を上げる。

 そう、探索者ギルドの最大手クラン『キルクロウラー』の本隊が、到着したのだった。

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