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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十二章 管理され悪意に満ちた

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第百八十一話

「料理、でございますか? それでしたら当ホテルの裏手の浜辺に、シーズン中にお客様に軽食やドリンクを提供する為の野外厨房がございます。とはいえ、そこまで本格的な設備ではありませんが、一度そちらをご確認ください。もし気に入りましたらそのまま使ってくださって構いませんよ」


「ご丁寧にありがとうございます。では、そちらに移動してみますね」

「教えてくれてありがとうね!」

「どういたしまして。どうやら、良い成果が得られたようですね。おめでとうございます」


 相変わらず丁寧な対応をしてくれるホテルのフロントにお礼を言い、早速ホテルの裏手へ回る。

 裏手にはプールも設置され、今も何人かの利用者がいるのだが、今はそれらを無視して、その先にある階段を下り、このホテルの利用者専用のプライベートビーチへ向かう。


「ねぇねぇ、さっきのおっきなお風呂ってなぁに? みんなパンツとブラジャー着たまま入っていたわよ?」


「違うよ、あれは下着じゃなくて『水着』っていう、水に濡れても大丈夫な服なんだ。海とか川で遊ぶ時に、身体を隠しながら遊ぶ為の服なんだ」


「へー! じゃあ、あれを着たらシズマと一緒にお風呂に入れる?」

「ま、まぁ一応は……」

「じゃああとで買っておこっと。シズマも自分の分買うのよ? じゃないと私に見られちゃうわ!」

「……お風呂はできれば一人でゆっくり入りたいので、海で遊ぶように買いましょう」


 やっぱりこう、シズマとして活動していると、メルトの中では『同い年の家族、兄妹』という意識が強くなるのか、非常に距離感が近くなるように感じる。


 水着の存在を教えつつも、プライベートビーチに存在する野外キッチンに到着した。

 しっかりと完備された水道や照明、それに薪式とはいえコンロも存在しており、正直想像以上だ。


「よーし、これならたっぷり料理ができるな! あんなにおっきなエビの身だからな……エビのフルコースだ」


「やった! 明日はもっとたくさん穫れるといいわね! ヤシャ島のダンジョン……恐い場所だとは思うけれど、あまりにも魅力的すぎるわね!」


 ははは、確かにこのエビの味次第ではそう言えるかもなぁ。

 俺はさっそく、この生でも食べられるという鮮度抜群のエビの肉を、薄く削いで一口食べる。

 ……!? ぷりっぷりというよりも『ぶりんぶりん』だ! 凄い、噛むと身が弾けるように千切れる上、味も伊勢海老にそっくり……いや、こっちの方が甘い!


「あ!? シズマ生で食べた! お腹壊しちゃうよ!?」

「ああ、海のエビって、鮮度がいいと生で食べられる時もあるんだ。メルト、食べてみる?」

「えー? そうなの? じゃあ……あーん」


 少し警戒しながらも、パっと口を開けるメルト。

 そこに小さく薄く切ったエビを一切れ放り込む。


「むぐ……む! 甘くてぶりぶりん! なにこれ! エビって生だとこんな感じなの!?」

「ね、美味しいよね。よーし、じゃあ生で美味しく食べられる料理も含めて、いっぱい作るからね」


 さて、では見せてあげましょう……『料理Lv4』の力を!

 セイムとは違うのだよ、セイムとは!






 本日の献立はですね――


『エビのポキ、オランデーズソース添え』。

 これは、ハワイ料理でカルパッチョに似た料理だ。

 刺身を醤油をベースにしたドレッシングを和え卵黄を添えたりするのだが、この世界ではまだ醤油とエンカウントしていないので、ナンプラーに似た魚醤とナッツ由来の油、そして卵黄に火を通して作ったソースを合わせている。


『エビの薄造り こんぶっぽいので取った出汁でしゃぶしゃぶ』。

 こっちは見たまんま、薄く削ぎ切りにしたエビの身を、浜辺で見つけた昆布に似た海藻の出汁でしゃぶしゃぶしてから、オレンジ果汁とハチミツとビネガーと塩で作ったポン酢もどきで食べる。

 大丈夫、味見したけどとても美味しかったです。


『エビのステーキ』

 でっかいんだもん! 厚切りにして焼いて塩コショウでシンプルに食べたいじゃない!

 以上!


『エビカツ(ノットミンチ)』

 でっかいんだもん! 厚切りにしてシンプルにカツにしたいじゃない! タルタルソースいっぱいかけて食べたいじゃない!




「ふぅ……完成したよメルト、エビのフルコースだ!」


「わー! 見たことない料理いっぱいね! ううん、そうじゃないわ……! 見たことあるはずなのに、エビが大きすぎて見たことない料理になっているのね!」


「これ食べて明日に備えようか。明日はちょっとペースを速めて、無理な全力疾走なしで休憩しながら、夜まで休憩しながら進もう。それでどこまで行けるか試してから帰ろうか」


「そうね、明日はそれで行きましょう? なら、夕ご飯はダンジョンの中で食べるのかな?」


「そうなるね。野外キッチン一式も食料も簡単に持ち込めるし、収納の魔導具持ちがいるかどうかで、ここのダンジョンの攻略難易度は大分変わりそうだ」


「た、確かに……この島にいる間は特に気を付けないとね。人に持ってるってばれないように」


 その通りだ。俺はともかく、メルトは魔導具を奪われる可能性があるからな。

 最悪、メルトの分の荷物も俺が収納してしまえば、彼女の魔導具がバレることもないか。

 ……ダンジョンを抜ける時にエビを失う可能性が高くなるけれど。


「じゃあいただきまーす! 生のエビー!」

「そのお鍋の中を一瞬だけくぐらせてから、ソースをつけて食べるんだよ」

「はーい……トリャ!」


 薄いエビの刺身が、メルトの俊敏性を以って高速でお湯の中を通り抜ける。

 ……それたぶん、意味ないです。もっとゆっくりしゃぶしゃぶしてください。


「しゃぶしゃぶしゃぶ……あむ」

「俺も……あむ」


 はい優勝。凄いな、この食べ方が最適解かもしれない。

 二人でエビのフルコースに舌鼓を打ちながら、ダンジョンチャレンジ一日目が過ぎていく。

 さぁ、キルクロウラー合流まで、しっかりダンジョンに慣れておかないとな――






「メルト、右のハサミの隙を作る! あとは任せた!」

「了解!」


 翌日の昼。俺とメルトは早朝からダンジョンに挑み、約六時間で一〇階層に到達していた。

 どうやらこのダンジョンは一〇階層毎にボスとして巨大に成長した魔物が現れるらしく、俺達は今、二人で巨大な……巨大すぎるロブスターの魔物と戦っていた。


「おらこっちだ! っと!」


 ハサミの大きさだけで二メートルを優に超える、まさに怪獣映画さながらのスケール感。

 鍾乳石ができるような海底洞窟の様相を呈したこのフロアは、なんと螺旋回廊ではなかった。

 広い、とはいえ回廊よりは狭いフロアに唐突に辿り着き、そこでこの魔物と戦い続けていた。


「メルト! ハサミが壁にめり込んだ! 今だ!」

「とう! 『水振切り』!」


 メルトは、以前俺に見せてくれた、水を使った超振動を纏わせたダガーで、硬く巨大なハサミを見事に一瞬で切断して見せた。

 ……そう、硬いのだ。俺の攻撃を弾くくらいには。


 ステータスも上昇し、スキルも発動した俺の攻撃を受けても、ハサミの甲羅は軽くひびが入るだけであり、更にそのひびが時間と共に癒えていくのだ。

 ならば、切り離すしかないと判断し、こうして作戦を立てたのだが――


「……再生するのかよ」


「わ! また生えた! 壁にハサミが残ってるのに! シズマ大変よ! これ、エビのお肉取り放題じゃないかしら!?」


 緊張感が……ない!

 いや、まぁそれならもう完全に急所狙いの作戦に切り替えるだけなのだが。

 こういう相手と戦う場合、武器になるハサミから破壊するのはある種のセオリーだと思うのだが。


『ゴライアス・キラーシザー』


『異常成長したキラーロブスター』

『高硬度のハサミの殻は大抵の金属を容易に打ち砕き切断する』

『掴まれば即死の“大地蝕む死海”におけるハズレモンスター』

『遭遇したら引き返せるようになるまで逃げ続け離脱するのが吉』


 ボスのフロアから前の階層、回廊に戻るには、階層同士を隔てる薄い膜が消えるまで待たなければいけない。

 このあたりは人工ダンジョンの階段と同じ仕組みだろう。

 だが……そうか、このデカロブスターは外れモンスター、つまり『おしおきボス枠』だったのか。


「メルト、次は俺が足を何本か落とす。メルトは背後から背中に上って頭を攻撃して」

「分かった! 大丈夫? 前から攻撃交わしながらお腹の下に潜り込むのよ?」

「余裕」


 俺は高回避ビルドでもあり、回避モーションが……透明化するんですよ、この構成。

 なので、回避タンクとしてもやれるんです。敵の攻撃なんてスローモーションに見えるんです。

 俺はもう一度ロブスターの注意を惹くべく、近場に落ちている石を全力で投擲する。


「しゃあ! 命中!」


 スキルの効果で、俺の投擲はちょっとした砲丸並の破壊力になっている。

 全力で投げた石は、その大きさに見合わない『ズシン』という音と『バン!』という石の破裂音と共に、デカエビが石を防いだハサミに、大きな放射状のひびを生み出していた。

 ……つーか、反応して石を防げるのかよ、こいつ。


 しっかりと魔物の敵意がこちらに向いた以上、ここからは集中して攻撃の回避に専念する。

 装備の効果で、今の俺の物理攻撃回避確率は100%と表示はされている。


 だが、実際には敵の攻撃が遅く見え、自分はその遅く見える攻撃より微かに早く、それでもゆっくりとしか動けないという、互いにスローモーションな世界に突入する感覚だ。


 なので攻撃に集中し、意識がこの状態に入ったら、しっかり自分で回避しなければならない。

 回避率100%は、つまり『自分で避ける気になれば100%避けられる状態に突入出来る』という効果なのだ。


「……あぶね」


 振るわれる両のハサミの連撃を、しっかりと回避し、潜り込むようにさらに一歩近づく。

 その先に待ち構えるエビの口から、何やら泡状の攻撃があふれ出してくる。

 触れた場合のリスクを恐れ、少しだけサイドに避けると、その進路を塞ぐようにハサミが振り下ろされる。


 この遅延した世界で俺の動きに対応してくるこの魔物は、見かけはただの大きなロブスターだが、確実にこれまで戦ってきたどんな魔物よりも、動体視力や反射速度が優れているのだろう。


 ハサミを、剣で強く切りつけると、ゆっくりと弾かれ、進路が開く。

 腹の下に潜り込むと、無数の足が蠢き、こちらを踏みつぶそうと体の向きをかえようとする。

 回避が終わったからか、体感速度が元に戻る。


「『ラウンド――スレイ!』」


 剣士の中級攻撃技。

 つまるところは回転切りで、周囲を薙ぎ払う一撃。

 ハサミに比べて細いこいつの足が、見事にひしゃげ、折れ曲がり、身体が大きくぐらついた。


「今だ!」


 押しつぶされる前に腹の下から脱出しようと試みるも、まるで閉じ込めるようにハサミと足が退路を塞ぐ。

 俺は、メルトが背に飛び乗るのを感じ、武器を一度鞘に納める。


『とどめよ!』


 メルトの声が聞こえ、殻と肉を切り裂く音が聞こえると同時に、俺は拳を天高く掲げるように、アッパーカットを放つ。


 俺の武器は、納刀状態と抜刀状態で性能が変わる剣だ。

 納刀中は強化される体術で、全力で放ったアッパーは、メルトの攻撃で大きくよろけ力の抜けた魔物を、完全に打ち上げるほどの威力を秘めていた。


『わわ!』

「メルトごめん! 潰されそうになったから打ち上げた!」

『だいじょうぶ! 着地成功!』


 無事に魔物の下から抜け出し、メルトと合流する。


「シズマ、しっかり頭に深ーく剣を刺して切り裂いたわ」

「よし、なら流石に……死んだかな」


 壁際に倒れ、ひしゃげた足が再生する様子もない。

 うっすらと青い体液が、魔物の頭付近からあふれ出ているのが確認できる。

 やがて……その身体が光の粒子となり、消えていった。


「撃破完了! やったね、メルト! 今の魔物、かなり強力な魔物だったみたいだよ」

「そうなのね? でもそれより!」


 メルトが駆け出し、魔物の死体が消えた場所へと近寄る。

 そうか、ドロップ品の確認だな!


 俺も追いつくと、魔物が消えた場所に、大量の武具やアクセサリー、それにガラス瓶が転がり落ちていた。

 それだけじゃない、綺麗な赤く輝くサンゴや、真珠でも入っていそうな大きな二枚貝まで落ちている。


「こりゃ凄いお宝だね! 換金したら良い金額になりそうだよ。それに武具も沢山だ」

「……」

「メルト?」


 だが、彼女はドロップ品を前に浮かない顔をしていた。

 何かこの品に不満でもあるのだろうか?


「なんで……あんなにおっきなエビを倒したのよ……どうして、どうしておっきなエビのお肉が出てこないの……? おかしいよ……昨日の二〇倍は大きなエビだったのよ? うーんと沢山、エビのお肉が出てくると思ったのに……これから毎日お腹いっぱいエビが食べられると思ったのに」


「oh……いやいや、でもお宝売ったらそのお金でいっぱい屋台で料理が買えるよ」

「でも、おっきなエビのお肉にかぶりつけないわ。あれはダンジョンエビ肉でしか味わえないのに」

「うーむ、確かに。よし、じゃあこの先に進んで、普通のエビの魔物が出るのを――」


 その時、俺はこの部屋に残された、他の存在に気が付いた。

 まさか……『撃破前に切り離されたものは残る』のか!?


「メルト! あの壁! エビのでっかいハサミが埋まったまま残ってる!」

「あ!!!!」


 瞬間、今まで見たことのない速度で走っていくメルト。

 壁からハサミを引っこ抜き、しっかりそれが消えないこと、そして身がつまっていることを、コンコンとハサミを叩いて確認する彼女。


「やった! こんなに大きなハサミを手に入れたわ! エビ肉、いっぱいね!」

「おー……殻付きだと色々需要もありそうだなぁ」


 二回目のダンジョンチャレンジ。成果は大量の武具とお宝、そしてデカエビのハサミでした。

 さて……じゃあここから更に奥に行きますかね?

 俺の希望としては、そろそろイカ焼きが食べたいのですが、はてさて……。

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