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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十二章 管理され悪意に満ちた

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第百八十話

「……浅い階層はまだ他の探索者の姿が目立つね。魔物もだいぶ少ないし、先に進んじゃおうか」

「そうねー? この階層ってほぼ、ただの通路みたいね? 湿気は多いけど過ごしやすいね」


 二人で挑むダンジョン『大地蝕む死海』。

 その内部は聞いていた通り、遥か地の底へと延々と続く螺旋回廊という様相だった。

 が、その規模が凄まじく、回廊の道幅が、優に五〇メートル以上はありそうなのだ。


 そんな広い道幅の回廊を一周するのに、大体普通に歩いて何分かかるのか、メニュー画面の時計機能で測ってみることにした。


「魔物より探索者の方が多いね? もしかして、誰かがいる間は環境って変わらないのかしら?」

「たぶんそうだと思うよ。危険なのは最前線を進む探索者ってことか」


 そうして低階層のうちは魔物と戦うこともなく、他の戦闘中の人間とは関わらないようにしながら階層を進んで行く。


 なお、測ってみたところ、一周して次の階層に差し掛かるまでかかった時間は約一時間だった。

 かなり長大な回廊だと言える。ただ歩くだけで一時間なら、戦闘や環境に阻まれたらどうなってしまうのか。


 必然的に、踏破を目指すならこのダンジョン内で野営をする必要が出てくるってことだな。

 今回はそこまでするつもりはないが、ひと先ず他の探索者の数が少なくなってきたところで、メルトは外の市場で買って来た鳥かごを棒に括り付け、次の階層の安全を確かめるようにし始めた。


「……よし、ピッチちゃんに変化なし! 相変わらず丸々太っていて美味しそうよ」

「名前つけたのか……」

「大丈夫大丈夫……もう食べたいって思ってるから情なんて湧かないわ!」


 ほんとにござるかー? ……まぁ結構シビアなところはシビアだからね、メルト。

 大丈夫だと思いたい。


 そうして、俺とメルトはダンジョンに潜り始めてから三時間ほどで、第七階層に到達した。

 え? 計算が合わない? 途中から二人で結構ガチ目のダッシュしてました。


「そろそろ戦闘に入ることもあると思うけど、基本は速攻、連携とか関係なしに、お互い最速で撃破するように動こう。誰を狙うかだけ報告しあう形で」


「了解よ。ふふふ……魔物相手についに新しいダガーで挑めるのね。警備の時は安全のために鞘に入れたまま戦っていたのよね」


「実際の使い心地を是非教えて欲しいかな。かなりの自信作なんだ」

「分かった! 魔法の発動も簡単みたいね……」


 メルトは、純白の鞘から、黒く輝くダガーを抜き、目の前で構える。

 黒い刀身に奔る黄金の輝きが、一瞬更に輝きを放ち、刀身を水の膜が覆っていった。


「魔法で水を纏わせてみたわ。凄くスムーズに発動できるし、集中しなくても維持出来る! 凄いわ、一流の発動媒体ね!」


「おお……水属性付与ってところか……」

「こうすると、剣が汚れないし、血とか脂で切れ味が鈍るのを抑えてくれるの。それにほら」


 次の瞬間、刀身を覆う水の膜が細かく振動し、高周波のような音が微かに聞こえてきた。


「こうすれば切れ味を強化できるの。硬い魔物も岩も、たぶんこの剣なら鉄だって切り裂けるわ」

「っ! そんなことまでできるのか……自然魔法は……」


 超音波カッターだ。たぶん、彼女は科学的な知識を持っているわけじゃないと思うが、恐らく自力でそこに辿り着いたのだろう。


 ……いや、案外、おばあさんがそういう知識を残していた可能性もあるか。

 メルトの『自然魔法』は、どうやら銀狐族ならありふれた魔法のようだし。


「でもまずは普通に使ってみるね! よーし、じゃあここから次の階層の手前まで、ダッシュで駆け抜けつつ魔物を倒しましょう!」


「よし来た。俺も、今はかなり速度重視の戦闘スタイルだからね、負けないよ」


 俺も、高速高回避ビルドだからな、メルトと似たような動きは出来るはず。

 なによりも……一部とはいえ、俺はルーエの持つ『戦いの知識』を継承しているのだ。

 以前よりも、ステータスが伸びているのが確認できた。



体力   5581

筋力   1901

魔力   136

精神力  671

俊敏力  1755


【完全反映】

【銀狐の加護】

【神眼】

【初級万能魔法】

【ウォリアーズハイ】

【食繋者】

【怪力】      ←New

【鍛冶】      ←Master

【演奏Lv3】 

【料理Lv4】 

【細工Lv8】    ←New

【裁縫Lv1】

【剣術Lv9】    ←New

【弓術Lv4】    ←New

【魔術Lv2】

【格闘Lv7】    ←New

【狩人の心得Lv3】 ←New

【学者の心得Lv1】

【盗賊の心得Lv3】 ←New

【剣士の心得Lv8】 ←New

【戦士の心得Lv7】 ←New

【傭兵の心得Lv6】 ←New

【舞踏の心得Lv8】 ←New

【聖者の心得Lv2】

【凶拳の心得Lv6】 ←New

【魔術の心得Lv2】

【星術の心得Lv1】

【剣聖の心得Lv1】 ←New




 明らかに、武術の知識と技術を身につけたことで、俺の戦いに関する心得と技術が向上していた。

 それに伴い今の状態で使える技やスキルも増え、いよいよ手が付けられない強さになりつつある。


「『ラピッドステップ』」


 先に駆けだしたメルトを追いかけるように、俺もスキルを発動し全力で駆け出す。

 ごつごつとした岩肌の目立つ回廊を、ものともせずに二人で駆け抜け、天井にぶら下がるようにしてこちらを待ち受けていたコウモリ型の魔物を、通り抜け際に剣で切り裂き進む。


 見れば、メルトもまた同じ魔物を切り捨てているところで、互いにドロップアイテムに見向きもせず、ただひたすらゴール目指して駆け抜ける。


 大きなウミウシのような魔物も、脇を駆け抜けながら切り伏せる。

 他にも、案の定出現した、大きなロブスターのような魔物も、甲羅を無視するかのように切り伏せ、一時間かかるこの回廊の一周を、僅か五分程度で駆け抜けた。




「ふぅ、ふぅ、全力疾走は疲れるわ! でも私の方がまだ速い!」

「うわぁマジか……この構成でもまだ負けるのか……!」


 階層の終わり付近、目印のように一周が終わる場所には、微かに薄い膜のような境界線がある。

 そこで立ち止まった俺達は、互いの健闘を称えあう。


「魔物、いっぱいいたね! おっきいエビがいたわ! なんだか大きなハサミつきの」

「あれはロブスターの魔物かな? エビの仲間だよ」

「へー! 倒した魔物って何か落としたのかな? 確認して、それで今日はお終いにしない?」

「そうだね。検証も大体終わったし、今日はこの辺りで引き上げようか」


 ゆっくり徒歩で一時間、大体一周の長さは五キロ前後ってところだ。

 で、俺とメルトが全力で走れば、僅か五分で駆け抜けることが可能、と。

 メルトの体力の消費や実際にドロップ品の確認をすることも考えると、これは緊急時以外は実行できないな。


 なら、スムーズに倒して普通の速度で歩けば、一階層につき三〇分と少しくらいか?

 まぁ大人数になったり、更に階層が進んで厄介な環境になればその限りではないだろうが。


「よーし、じゃあ引き返しつつアイテムを拾ったら、いよいよこの大穴にジャンプね! 私、恐いけど少し楽しみだったの! 一気に外に戻れるのよね?」


「はは、確かにちょっと恐いけど楽しみだ。案外、回廊からはみ出た瞬間戻るだけかもだけど」

「えー! 下までびゅーんって落ちるんだと思ったのになぁ」

「恐過ぎじゃないですかね?」

「えー? 絶対大丈夫なら恐くないよー」


 紐なしバンジーじゃないですか! やだー!

 先に待ち受ける恐怖に耐えながら、二人で駆け抜けたこの階層を引き返す。

 ここの魔物って何を落とすんですかね?


「むむ……コウモリの牙が残っているわ。これ、錬金術の材料になるはずよ」

「ほほー?」


『ケイブバッドの長牙』

『大型のコウモリ型の魔物から共通で入手できる比較的大きな牙』

『吸血牙ではないため強度が高い反面希少性は低い』

『錬金術における“有機触媒”として使用可能』


 どうやらメルトの言う通りの品のようだ。で、希少価値は低いと。

 これは換金というより普通に持っておいた方が良さそうだな。


「面白いねーダンジョン。私がいた『夢丘の大森林』って、倒しても普通にお肉を落とす程度で、変わったものなんて落とさなかったわ。たぶん、あまり人が奥までこないから」


「へぇ、そうだったんだ。確かにあのダンジョンって、国が管理してたように見えたしなぁ」


 召喚やその他実験のために、ある程度国で管理していた可能性があるな。


 そうして素材を回収して歩いていると、道の先に大きな白い、半透明の塊が落ちていた。

 何やら柔らかそうな見た目をしているが、どの魔物が落としたものなんだろうか?


「ねぇねぇ、これって何かのお肉かしら? ここもあんまり凄いものって出てこないのかな?」

「どれどれ……」


『キラーロブスターの身肉』

『大型の甲殻類型の魔物が落とした身肉』

『具体的にどの部分の肉なのかは形状から判別はできないが非常に大きい』

『生食も可能だが塩ゆでも塩焼きも美味とされている』


「お! メルト、これ大きなエビの肉だってさ」

「本当!?!? こんなにおっきいのに!? もう食べるだけの状態なのに!?」

「確かにむき身でこの大きさは凄いなぁ」


 まるで大き目の枕のような大きさの、半透明でぷりぷりのエビ肉。

 これは……普通に美味しそうだ。生で食べられるくらい鮮度もいいらしいし。


「これは売らないからね! 持って帰って食べましょう!」

「ははは、そうだね。じゃあこれを回収したら、戻ろっか」

「うん! ……でも、飛び降りたらここで拾ったものの何かが消えちゃうのよね……」

「そういえば……」


 ここまで拾ったアイテム全ての中から選ばれるのか、それとも種類ごとにカウントされ、種類ごと失ってしまうのか……。

 もしそうなら、ここまで俺が拾ってきたのは『キラーロブスターの身肉』『ケイブバットの長牙』『小サンゴの欠片』『大きな塩結晶』の四種類だけだ。


「種類ごとに判定されるなら……このエビ肉がなくなる可能性は四分の一だね。メルト、もう一つ落ちてるかもしれないから、メルトの分も拾おう。四分の一で失うのだとしても、俺とメルトがそれぞれ持っているのなら、持ち帰れる可能性は倍になるんだから」


「そうね……もう一つ落ちてないか探してくる!」


 その後、無事にメルトも身肉を拾い、いよいよ紐なしバンジーの時間がやってきてしまいました。

 この回廊から飛び出せばそのままダンジョンの外の浅瀬に辿り着くという話だったが……。


「い、行くわよ……シズマ、手、つなごっか? 一緒に行こっか?」

「いや、俺は俺のタイミングで行くよ」

「えー! 一緒に行こうよー!」

「なんだよー、やっぱり恐いんじゃないか」

「だってー! エビがなくなっちゃうかもしれないのよ!」


 あ、そっちですか。

 メルトと手をつなぎ、回廊の際に移動し、下を見下ろす。


 遥か下まで続く大穴。だが、不思議とその最中にある下の階層の様子を窺うことができない。

 ただの岩肌になっているのだ。無論、それは上の階層にも言えることだ。


 俺達が通ってきたはずの回廊も、これから向かうはずの回廊も、何も見えないただの大穴。

 やはり自然の環境に見えて、ここは既に異界と化したダンジョンなのだなと実感する。


「……メルト、一緒に跳ぶよ。さん、に、いち!」

「ぜろ!」


 ほぼ同時に回廊から中空へと飛び出した。

 一瞬の浮遊感と、自分達のいた回廊が遠のいていく光景が見えたと思った次の瞬間、俺達はダンジョンの外の浅瀬、くるぶしくらいまでしか水位のない浅い場所で尻もちをついていた。


 傾き始めた太陽と、俺達と似たような体勢で海に浸かる大勢の探索者達。

 本当に、戻って来た。ここは間違いなくダンジョンの外だ。


「ふ、ふっしぎー! 今、空を飛んだような感覚がしたのよ? なのに海に浸かってるなんて! 面白い、面白いわ! もう一回やってみたいくらいよ!」


「もう一回やるなら、手に入れたアイテムをしっかりどこかに預けてからだね。いや……一回でも外に持ち出したのなら大丈夫なのかな」


「あ、そうだ! エビ! 私のエビは無事かしら!?」

「あ、俺も確認しないと」


 俺はメニューの項目をチェックするだけですぐに分かるのだが、メルトはしっかり収納魔導具からアイテムを取り出す……のを、道具袋を使って偽装しながら確認する。


「お、無くなったのは塩の大きな結晶だけだ。エビ、無事だよ」

「……私のエビなくなった……私のエビ……私の……」


「……でも、俺のは残ってるから大丈夫だよ。こんなに巨大なエビ、二つあっても食べきれないんだから。元気出しなよメルト。これで美味しい料理、作ってあげるから」


 どうやら、ここのダンジョンマスターはとてもいじわるだったみたいです。

 いや、ダンジョンマスターが関係してるのか分からないんですけどね?

 ともあれ、エビをロストしたメルトと共に、浅瀬から脱し、服を着替えにホテルに戻るのだった。


「着替えたらどこかで料理をするから、本当に元気出しな? ね?」

「うう……分かった。おっきいエビのお肉だから、色々作ってね?」


 傷心メルトのために、何を作ろうか……俺、一応『料理Lv4』ですから!

 ある程度は手の込んだ料理も作れるからね! エビのフルコースだ!

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