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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十二章 管理され悪意に満ちた

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第百七十九話

 翌日、ホテルで目覚めると、メルトが丁度俺を起こそうとしているところだった。


「起きちゃった!」

「何をしようとしていたのかね?」

「この棒をね、シズマのお腹に当ててゴリゴリしたら、何が出てくるのかなーって」

「俺からミミズなんて出てこないぞ……たぶん苦しそうな声しか出てこない」

「でも絶対起きるわね!」


 どうやら、想像以上にミミズ棒を気に入ってる様子だ。

 もしかしたら、家のエビ池の餌を探すのに便利かもしれない。


「よーし……じゃあ朝食を食べたらこの島の探索者ギルドに行こうか」

「そうね! 私、結局探索者ギルドの通行証貰ったけど一度も使っていないのよね」


「俺は前に貰った女王様の署名付きのはもう使えないから、新しく発行してもらったよ。探索者にもランクってあるみたいだよ」


 まぁ冒険者や傭兵と同じ、石の名前にちなんだランクというか、ほぼ共通のランクだ。

 が、そこに『ダンジョンを幾つ踏破したか』の指標となる数字が加えられる。


 メルトの場合は正式に焦土の渓谷を踏破した人間として認められているので、踏破一の紅玉ということで『一踏紅玉ランク』だ。


 なお、俺は冒険者になっていないので、ランクは探索者ギルドの裁量で決定されている。

 俺の現在のランクは『一踏翠玉ランク』だ。

 が、本来人工ダンジョンは踏破しても『ダンジョン踏破数』にはカウントされない。


 あの暴走状態の高難易度化した人工ダンジョンだからこそ、こうして踏破数としてカウントされているのだ。




 朝食は市街地の屋台で、適当にトルティーヤに似た料理を買い食いすることにした。

 どうやらたっぷりとエビが入っていたらしく、メルトはしきりに『この島は素晴らしいわ。リンドブルムにも海の水が流れていたらいいのに』と語っていた。


 ……庭で海のエビを養殖されるのは勘弁してもらいたいなぁ、磯臭そうだし。


「シズマって今どれくらい強いのかしら? もしかしたら、キルクロウラーの到着前にダンジョンを踏破できてしまうかも?」


「強さだけならそうだね、シレントと同じくらいか……いや、もっとかも。ただ、天然のダンジョンってそう簡単にクリアできないものなんだよ、本来なら」


 焦土の渓谷では、一緒にいた元クラスメイト、ヒシダさんの持つ力により、常に正解のルートを選んでいたから、最短で最奥まで辿り着けた。


 無論、俺の持つダンジョンのマップを表示させる魔法でも正解を表示させることはできるかもしれないが、正直、これに関しては楽観視できないのだ。


 あの人工ダンジョン……暴走状態の最奥は、恐らく本来存在しないはずの場所だったんだと思う。

 そして俺の持つ力は、そのダンジョンの構造を全て表示させてくれているように見えて、その実『本当に必要な情報は表示しない』のだ。


 あの最奥に眠っていた不気味な存在。敵であるのは間違いないはずなのに、あの反応をマップには表示してくれなかった。


 ボスだったはずだ、アイツは。倒した時にダンジョンコアを落としたのだから。

 けれども表示されなかった。つまり、ダンジョンは俺のマップ表示能力を上回ることもある。

 だから、楽観視はしない。




 考え込みながらも、探索者ギルドに到着する。

 どうやら、メルトも道中考え込んでいた様子で、しきりに唸りながらこちらの様子を窺っていた。


 もしや、二人で挑む際に俺の戦力を把握し、どういうフォーメーションで戦うべきか考えてくれていたのだろうか?


「シズマ、ちょっと聞いておきたいんだけどいいかしら?」

「ん? もしかして俺の戦闘スタイルかい? 俺は――」


「ううん、そうじゃなくて。シズマ、さっきの屋台でくるくるって巻いた料理、五種類全部買っていたわよね? よくそんなに食べられるな―っていうのと、どの味が一番美味しかったのかなって気になっていたのよ」


 違った。いや、確かに食べ過ぎだとは思う。

 が、お腹が苦しくはならないし、最後まで美味しくいただける。


 俺の持つスキル【食繋者】は、最低1キロは料理を食べないと効果を発動してくれない。

 そのせいだろうか、以前よりも量を食べられるようになったのだ。


「エビとスパイスのが一番美味しくて、その次に美味しいのが貝かな? 凄く食感がよかった」

「貝? 川に棲んでいるぐるぐるの? あ、でも違う形のもいるね。貝って美味しいの?」

「海の貝はおいしいぞー」


 ホタテとかサザエとかアワビとかハマグリとか……田舎のじいちゃんの家に行ったとき、近所に住んでるお兄さんが差し入れに持ってきてくれたっけ。


 バーベキューで焼いて食べた時の感動を俺は忘れないだろう。

 ……ダンジョンで海の幸って獲れたりしないのかな?


「そっかー、食べてみたいわ、貝! 今日の夜ご飯は決まりね!」

「そうだね。じゃあダンジョン、切りのいいところで切り上げないとね」


 そうして、俺達はヤシャ島の探索者ギルドの受付に向かい、この島での活動開始届を出しつつ『大地蝕む死海』の基本的な情報を教えてくれる講習会への参加を申し込んだのだった。




「初めまして、『大地蝕む死海』の講習を開始させて頂きます。本日の参加者はお二人ですね?」


 講習会は、ギルドの二階にある小さな会議室で行われることになった。

 天然のダンジョンは基本、独自の仕組みやルールが存在し、それらを共有することで極力安全に探索できるように、という試みを行うのが、探索者ギルドの基本業務の一つなのだ。


 そう考えると、ゴルダ側には探索者ギルドもなかったし、情報の共有はなかったのだろう。

 レンディア側には、焦土の渓谷に近い探索者ギルドもどこかにあったりしたのだろうか?


「では『大地蝕む死海』の基本情報をお伝えします。まず、基本的にこのダンジョンは『遭難する』ということはありません。その点だけは安全と言えますね」


 話によると『大地蝕む死海』は、巨大な螺旋状の回廊になっているそうだ。

 ぐるぐると、延々と海底に向けて続いていく、広く長大な回廊。


 中空部分を伝い、回廊をスキップして一気に下に落ちることは出来ないらしく、回廊から飛び出した段階で脱落扱いとなるそうだ。


「回廊の中空、大穴になっている部分に飛び込むと、ダンジョンの外の浅瀬に放り出されます。つまり帰りは楽々ですね。ただし、途中からやり直したりは出来ません、人工ダンジョンではありませんので」


「なるほど……何か、そうやって帰還することにデメリットはあるんですか?」


「そうですね、ダンジョン内で手に入れたものを幾つか失いますが、中には成長した自身の器、成長の器が元に戻り、成長がリセットされることもあります」


 なるほど……一部を犠牲に帰還、か。


「ただ、死体を投げても生き返ったりはしませんし、浅瀬に戻ることもありません。死体はダンジョンに飲まれ消えていきます。ダンジョンに挑んだ者の一割は死にます。これは決して少ない数ではありません。何故なら『容易に帰還できるはずなのに死ぬ』ということですから」


 ごくりと、喉を鳴らす音が隣から聞こえる。


「突然の死、帰還すらままならない危険が待ち受けている、ということですか?」


「その通りです。螺旋は、一周する度に次のフロアという扱いになり、環境が一変します。生態系も環境も、空気すら変わります。かつて、次のフロアに移動した瞬間、目の前で先行していたメンバーが即死したという報告もあります。空気の構成が変わったのかもしれないと、ギリギリ逃げ帰った方が報告をなさいました。以来、フロアが変わる時は小動物を先に行かせ、安全を確保するのが一般的になっています」


 ……恐ろしいな。地続きの回廊なのに、一周した瞬間に毒ガスか無酸素か、そういった大気の変動で即死する場合すらあるのか。


 一本道で簡単に帰還ができるダンジョンにしては、長年踏破する人間がいないはずだ。

 完全に……運ゲーなのか。


「確認された記録では、八一層まで進んだパーティがかつていました。その時は『底が薄っすら見えた』という報告がされています。ですがそれから七年後、八〇層に辿り着いたパーティが『底なんて全く見えなかった』と報告をしていました。以上のことから、このダンジョンは地下深くへと成長を続けているのでは、と言われています。元々ダンジョンというのは、本来の地形を無視した一種の異空間です。それなのに、年々ダンジョン周辺の海域は水位が下がり、潮の流れも変化しています。なんらかの形で、海底を侵食していると目されているのです」


「では、その時に今の名前に変わったんですね?」


「はい。元々は『海鳴の螺旋回廊』と呼ばれていました。更に言うと、年々『即死が発生するような環境ではなくても過酷な環境』が現れることも多くなっていると聞きます。高温多湿による体力消費や、どういう訳か足元が海水に侵食され、厄介な水棲の魔物に襲われた、等々。それ故に探索に挑む人間は、深部を目指す場合、ありとあらゆる準備が必要となっているのです」


 どうやら、俺がキルクロウラーに助力を頼まれたのも、この辺りに理由がありそうだな。

 ある程度の生活能力に高い俊敏性、それに加えて観察能力も一緒に戦った時に見せている。

 人数が多いと荷物も増えるからな、少数精鋭で挑みたいのだろう。


「以上が『大地蝕む死海』の概要と詳細情報です。お二人とも、既にダンジョンを踏破する実力者と聞いています。どうか、ご武運をお祈りします」


「はい。説明、ありがとうございました」

「ありがとうございました」




 説明を終え部屋を後にする。

 このどこかリゾート地を思わせる島に、美味しいグルメに高級なホテルと、割とバカンスに近い感覚で日々を過ごしていたところに突きつけられた、この島のダンジョンの実情。


 そのギャップに、俺もメルトも少し、気落ちしたように、緊張したように、黙り込んでしまった。


「これはかなり気合入れて臨んだ方が良いね。小動物も……どこかで用意した方がいいかも」

「で、でも可哀そうよ……? 小鳥とか鼠とか……先に行かせて死んじゃったらどうしよう」

「でも、仲間が死ぬよりは良いからね」

「な、なら……死んでも食べてあげられる動物にしよう? エビとか!」


「……ふむ。元々水から出したら苦しむからなぁエビは。空気の変化の有無に関係なく苦しむし、判別には使えないんじゃないかな」


「うう……なら鳥……食べられる鳥にしよっか……私スパイスたっぷりのダージーパイでいいよ」


 可哀そうとか言いながらメニューの指定までしてきますか!

 さすがメルト、ブレない! ……鳥、たぶん俺捌けるよな? 料理スキル、上がってるし。


「じゃあ、鳥を買ったらダンジョンに挑んでみようか」

「わ、分かった! ……ダンジョン、もしもエビのモンスターがいたらどうしようかしら」

「ダンジョンのモンスターは倒したら消えちゃうので食べられません」

「そ、そうだった! むー、なんだか思ったよりも過酷な攻略になりそうね!」


 メルトの過酷のラインがどこなのか、俺には少し分かりません……。

 そうして俺達は、鳥を始めとした必要そうな道具を買いそろえ、遠浅の海に存在するダンジョン『大地蝕む死海』へと挑むのであった――

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