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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十一章 海と港と島と

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第百七十三話

「えいや!」

「残念、これでメルトの持ち点はマイナスになってしまったから負けだね」

「えー! あー、そっか……高い点数を取るだけじゃダメなのねー」


 ヤシャ島に来てから三日、俺とメルトは連日グローリーナイツの現在の拠点である、元酒場の遊戯室に入り浸っていた。

 が、勿論ただ遊び惚けていたわけではない。


 メルトも俺も、市街地の見回りに同行し、しっかりと街の治安維持に貢献しているのだ。

 最近ではもう、俺は『鬼の優男』とか言われて、市街地を歩いているだけで大量の敵意ある視線と、大量の蠱惑的な視線を女性から向けられるようになりました。


 ……そうだね、セイムってビジュアル結構いいもんね。

 普通に取り締まってるだけでキャーキャー言われたよ。そのせいで更に絡まれやすくなったよ。


 一方でメルトは、グローリーナイツの古参のメンバーに連れられ、ダンジョンに挑む人間の野営広場を重点的に見回っていたそうだ。


 こちらは逆に『皆が一定以上の実力者』であるため、不要な争いはそうそう起きないらしい。

 が、それでもやはり『取り分の采配によるトラブル』『個人間での売買におけるトラブル』というものが発生し、時には市街地以上に空気がひりつく事件も起きたりするそうだ。


 それこそ、見回りに参加した初日、紅玉ランク同士の揉め事が起き、野営地で決闘騒ぎが起きたそうだが、メルトの手によって一瞬で両名を喧嘩両成敗、完全に拘束してクランハウスまで連行してきたくらいだ。


 ……正直、ランクが同じなだけで、実力はメルトの方が数段上ということもあると思う。

 そもそも蒼玉ランクへの昇格条件が厳しく、何かしらの大きな事件に立ち会わないと、いくら実力があっても永遠に紅玉ランクのままなのだから。


「よし! 今度はぴったり〇点になったわ! これでセイムと引き分けね」

「お、やるなぁ。手数も同じだし本当にドローじゃないか」


 とまぁ、俺達がここで遊んでいるのは、十分に働いたうえでの正当な権利、という訳なんです。


「お二人さん……こう言っちゃなんだが、本当に良いんですかい? 俺達の仕事を手伝ってもらっちゃって」


「勿論ですよ。こうして遊び場所も提供して頂いていますし、落ち着いて食事ができる場所もここくらいですし」


「……ありゃあ正直、セイムさんの自業自得だと思うんですがねぇ……」

「……はは」


 悲報『セイム氏が有名になった理由、野蛮すぎる言動と戦い方のせいだった模様』。

 はい、手っ取り早く暴徒を鎮圧するために『クリムゾンハウル』を使いました。

 どういう訳か、相手の人数や周囲の空気、ロケーションに興が乗ったのか、絶好調でした。


 俺、気が付いてしまったんです。これってハッシュの『オートポエマー』と同じで……セイムの心の叫び、意思が働いているのではないかと。


 つまり、セイムの抑圧された感情、元貴族であり同時に裏の住人であるセイムの一面が、スキルとして発動しているのではないかと……。

 ほら、セイムって基本紳士で穏やかじゃないですか。怒らせると恐いとかあるかも……?


「荒っぽい連中は結構目の敵にしてますからねぇ。逆に女性陣には好まれていますがね」


「だからこうして引きこもってるんですけどね。さて……じゃあそろそろ今日の見回り、行ってきますね。今日は俺がダンジョン方面で良いんですよね?」


「そうっすね。あんまり問題は起きないと思いますが、気を付けてください」

「セイム、お土産は野営地の屋台に売ってる『エビの殻焼き』でいいからね!」

「ははは、了解。すみません、じゃあメルトの相手、お願いします」

「勘弁してくださいよ……賭け勝負になったら身ぐるみ全部剥がされちまう……!」


 そんなクランメンバーの嘆きを聞き流し、俺はこの島の南方『大地蝕む死海』と呼ばれるダンジョンへと続く遠浅の海、その周辺に広がる野営地に向かうのだった。




「セイムさまー! 私のことも罵倒してー!」

「セイムさーん! 一緒に飲みましょー!」


 日が暮れ始める午後四時、市街地を進むこちらに掛けられる女性陣の声。

 そして――


「セイム! こっち見ろセイム! てめぇすかしてんじゃねぇぞ!」

「んー? 問題起こさなきゃ取り締まる理由なんてないんだから大人しく飲んでなさい」


 酔っぱらいのヤジが飛んでくる。

 相手にはしないぞ、今の俺は仮にも『警察権限を持つグローリーナイツの手伝い』という立場なのだから。

 ……そうじゃなかったら海に沈めてトラウマ植え付けています。


 そうして市街地を抜け、波止場を通り過ぎ、極端に浅い海が広がる地点にやって来た。

 浅い海が夕日を受け、他の海よりもいっそう綺麗に輝く。

 そんな海に続く道の先に、まるで海から大きな口を開けた大蛇が現れたかのように、ダンジョンの入り口が存在する。


 ダンジョンの力によるものなのか、この辺り一帯は満潮時にも水位が上がらない。

 恐らくもう『この海域全体がダンジョン化しつつあるのではないか?』という見解すらあるのだ。


 そんな海を一望できる小高い丘、その一帯が野営地として開放されている。

 俺は多くの探索者がそれぞれのテントを設営している中を、縫うように歩きながらトラブルが起きていないか見て回るのだった。


「……確かにリンドブルムの巣窟とは探索者の数が比べ物にならないな」


 恐らく、ダンジョンコアが使用されたという発表に触発され『自分も続くぞ』と意気込む人間が増えているのだろう。

 それに加え、リンドブルムの巣窟、即ち人工ダンジョンが消滅したことを受け、あそこを活動拠点にしていた人間も皆、こちらに移動してきたのだろうな。


「……それ故にランク格差が顕著になった、か」


 人工ダンジョンにこもっていた人間は、お世辞にも天然ダンジョンを拠点にしている人間に比べて強いとは言えない。

 正直、かなりぬるい環境に浸っていたこともあり、舐められたりもすることがある。

 表だって諍いは起きないが、そういう空気は確かに存在していた。

 まぁこれを取り締まることはできないんだけどな……。


「んー……だからって『アレ』は頂けないんだよなぁ」


 恐らく、根底にリンドブルムから来た人間を見下している意思が関わっているであろうトラブルに早速遭遇した俺は、少しだけ気合を入れてその現場に急行するのだった。




「俺達が先に並んでただろ!? なんなんだよアンタら!」

「あーあー、お前らとは疲れ具合が違うんだわ。低層でちゃぷちゃぷ水遊びしてる人間と一緒にすんなよ。いいから、もう一回並びなおしてこいや」


 割と、こういう問題は起きている。

 実際に目の前で遭遇したら、取り締まらないわけにはいかないんですよ。


 恐らく状況はこうだ。

『立ち飲み可能な出張酒場に並んでいたリンドブルムの巣窟上がりの探索者の前に、ヤシャ島を縄張りにしている探索者が割り込み、列から追い出した』。


 んじゃとりあえず君は……グローリーナイツに連行しますね。


「俺から言わせりゃどっちも変わらないよ。おいアンタ、一応秩序を乱したのはアンタみたいだから、取締り対象だ。大人しく従ってもらうぞ」


「ああん!? んだてめぇ、例の冒険者クランか!? こっちの問題に口出ししてんじゃねぇよ!」

「敵対意思確認したのでこのまま鎮圧しまーす」


 はい、教育的指導腹パン。粛清ストンピング。

 一丁上がり。


「で、このアホの仲間は他にいないか? 連帯責任だ、大人しく名乗り出ろ」

「っ!」


 はい、先に飲み始めてるお兄さん、お話聞かせてください。


「お兄さん、こいつ仲間だよね?」

「ち、ちがう! こんなヤツ知らねぇ!」

「ならギルドタグ見せてみ。後で照会するから」

「っ!」


「虚偽の報告をした場合はペナルティがキツくなる。なにもアンタに殴る蹴るをするつもりはないよ。このアホを連行するから手続きをアンタが代行してくれりゃいい。そもそも割り込んで入ったんだろ、お前も。大人しくついてきな」


「わ、分かった……」


 とまぁ、こんな日々を過ごしている。

 周囲のヤジや感謝の言葉を浴びながら、俺はすっかり日が暮れた野営地を後にする。

 伸びた男を背負う男を引き連れながら。


 ……さて、今日はシュリスさんが晩餐会の具体的な日取りを相談しに迎賓館に向かっているらしいからな。

 今日の仕事が終わったら、具体的な話をできたら良いのだが――

 あ、その前にエビ買わないと、エビ。






 夜、夕食を摂り終え、トラブルを引き起こした探索者をヤシャ島の探索者ギルド職員に引き渡した後、俺は迎賓館から戻って来たシュリスさんと、仮の団長室である元VIPルームと思しき部屋で、机を挟み対面していた。


「三日後、コンソルド帝国の使節団が島に到着する。一日休憩を挟んで、その次の日の夜に晩餐会が開かれることが決まったよ」


「正確な到着日程が分かるんですか? 結構長距離の航海って到着の日にちがずれたりするって聞きますけれど」


「そうだね、けれど今回は船で管理している鷹便による報告だから間違いないよ」

「なるほど、そうだったんですか」


 なるほど、まだ無線による長距離通信が生まれていない世界だから、こういう鳥を使った連絡手段があるのか。

 そういえば、ゴルダ王国の方でもそういう話を聞いた気がする。


「それで、だ。どうやら帝国の探索者の中に、かなり問題行動の多い人間がいるそうだよ。それに……どうやら腕も立つらしい。本国の天然ダンジョンを二つ踏破した、クラン未所属のフリーの探索者らしい。もし、何かトラブルを起こすとしたらこの人物になるんじゃないかな」


「なるほど……厄介そうですね。それにダンジョンを二つも踏破ですか」


「恐らく、明確に私より強い人間を一人用意してきたと見て良いだろうね。父上から聞いたけれど、私がここに配属された理由に、多少は他国からの圧力もあったかもしれないという話だしね」


「なるほど。じゃあ当日、俺がもしかしたら面倒ごとの相手として対面するかもしれない相手がその人物だ、と。相手の名前は分かりませんか?」


「帝国探索者ギルド所属の『アンガレス』という男だね。年齢は不明、ただ三十代だと報告にあるね。船の上で乱闘騒ぎを起こして、他の探索者のクランの面々を寝たきりにしたそうだよ」


「なんとも荒々しい人間ですね。分かりました、アンガレスですね? 警戒しておきます」


「……まぁ頼んだ私が言うことではないし、セイムさんの実力を疑う訳ではないけれど……気を付けておくれよ。実績だけならセイムさん以上の相手なんだから」


 確かにその通りだ。俺はダンジョンを一つ踏破、相手は二つ踏破。

 が――


「ダンジョンの数が向こうは多いからでしょう? 俺が向こうに渡ったら三つや四つは踏破していますよ」


「ふふふ、言うねぇセイムさん。……正直、私も悔しいのだけどね。もっと私自身に力があれば、こんなことにならないのに、と。けれども、自分を強くするための武者修行なんて真似ができる立場ではない。こういうジレンマが、クランの団長にはついて回るんだ」


 シュリスさんは、少しだけ悔しそうに、歯痒そうに独白する。

 が、そうじゃないと俺は思うのだ。この人は自由に身動きが取れない立場であると同時に――多くの心強い仲間に囲まれているではないか。


「……安心してください、俺は既にリンドブルムの住人で、今は貴女のパートナーだ。手助けするのは当然ですし、足りない力を補うのも当然。何しろ同じ街に住む仲間なんですから。足りない力を仲間から借りるのは当然のこと。シュリスさん一人が強くなる必要なんてもうないんですよ」


「ふふ、そうだったね。私はもう一人じゃないんだったね。……そうだね、今はクランではなく、一人のシュリスとして動いていたからすっかり忘れていた。私は力を自由に借りることができる立場でもあるんだったね」


「ええ。という訳で安心して晩餐会に臨みましょう。会場中の男の視線、全部惹きつけちゃいましょうか。そうすると隣にいる俺の自尊心が物凄く満たされそうなので」


「ははは、それは私もだよ。聞いたよ? 最近市街地の女の子にモテモテだそうじゃないか」

「ははは……ま、お互い視線を集めることになりそうですし、トラブルは確実って見た方が良さそうですね」


「そうだね。じゃあ……当日は任せたよ、セイムさん」


 俺は、この友人のために今回は全力を出そう。

 ……何よりも、帝国に知らしめる必要があるのだ。

『神公国レンディアには、我が国の探索者を歯牙にもかけない強者がいる』と――


 もう俺の故郷なんだよ、この国は。

 舐められちゃ困るんですよ。

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