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第十七話

(´・ω・`)第二章開幕です

 朝食を済ませ、メルトと二人で商業区を目指す。

 なお、メルトの希望通り野菜や果物を取り扱うレストランで無事に朝食にありつけたのだが、どうにも利用客が女性ばかりで、とても居心地が悪かったとだけ言っておきます。


「確かあの通りだったはずだ。まだ昼前なのに人の数が凄いな……」

「流石商人さんが沢山いる通りねー? 私行商人さんから物を買うくらいしかしたことないけど、お店にはいろんな物が置いてあるのよね?」

「そのはずだよ。これから冒険者としてやって行くんだし、メルトの装備とか用意した方が……ふむ」


 俺の余っている装備をあげられたら済む話では?

 ただこういうアイテム類って、他人に渡した時どうなるんだ?

 武器はまだ分かる、でも防具となるとサイズの問題があるしな……。

 ゲームだったらサイズの問題なんて無かったが、ここはもう現実なのだ。

 一度装備したら、装備した人間のサイズに固定されてしまうのではないだろうか?

 なら女キャラの装備を女キャラで取り出したらどうなるかね? メルトと似た体形のキャラ、いないか確認してみないと。


「そうねー、鎧とかあったほうが安心ね? 武器は一応家からナイフを持ってきているけど……武器用じゃないからもうそろそろダメになりそうねー」

「あー、装備なら少し心当たりがあるんだ。買うのは今度にしようか。生活に必要な物とか服を買わないかい?」

「あー、その方が先ねー。パンツ三枚しかないから毎日洗って交代で使っているけど、そろそろこれもダメになりそうなのよねー。服も欲しいなー、これ自分で手直ししたのだからそこまで丈夫じゃないし」


 これは急務だな。洗い過ぎてスケスケになった下着はアウトだ。

 主にこちらの精神衛生的に。この子異性と暮らした経験がほぼ無いから普通に同じ部屋で脱ぎだすし。

 今日中に衣類は買い揃えなければ。あと恥じらいを教え込もう。


「お、やっぱり商業区はここみたいだ。たぶん商会は奥まったところにあるんじゃないかな、この辺りはそれこそ商店が密集しているし」

「おー! 凄いわ! あれがお店ね? 窓ガラスも沢山ある!」


 ショウウィンドウが一般的に広まる程度にはガラス製造の技術もある様子。

 思ったよりも発展した世界なのだろうか?

 ふむ……マネキンもあるし、お店の構造や見せ方はかなり現代的だ。

 もしかしたら、俺達のように地球から召喚された人間が過去にいたのかもしれない。

 いや、それとも魔法のお陰で工業技術の発達速度が文化の発達速度を上回っている影響か?

 ま、暮らしやすい世界ならなんでもいいか。


「へー……木の人形に服を着せて紹介しているのね? ……可愛い服ねー」

「そうだね。これはワンピースなのかな。こういうロングスカートみたいなのって好き?」

「そうだなー、大人っぽくて憧れる! でも冒険者的には動きにくそう」

「なら街中で過ごす用、休日用の服だね」

「なるほど……贅沢! お金が溜まったら贅沢するわ! 私!」


 うん、やっぱりメルトの反応は面白い。

 でも実際、服を何着も持つのって、贅沢なのかもしれないな、この世界だと。


「用事が済んだらさっきの服屋さん見に行こうか。着替えとか買おう」

「いいの? まだ私お返し出来ないよ?」

「そのうち稼げるようになったら食材とか買ってよ。それで料理するから」

「なるほど、良い提案ね! 高い物沢山買ってあげるから美味しく料理して欲しいわ」


 任せてください。

 そうして適度にウィンドウショッピングを楽しみながら、商会と思われる建物、商店以外の建物が並ぶ奥まった場所まで進んでいくと、文字の書かれた看板を掲げる場所が増えてきた。


「ふむふむ……これは『サークランド商会』って書いてあるわ。あっちは……『レディアント商会』それに『カースフェイス商工会』。このカースフェイスってところがたぶん、この辺りを牛耳っているのね!」

「え? なんでそう思ったんだい?」


 看板を一つずつ確認していたメルトが、唐突にそう決め付けた。


「まず、一番建物が大きい。そしてこの場所は隣の通り、階層が一つ高い通りからもよく見える。看板の位置もそっちの通りによく見えてるから、きっと上級な人間の覚えも良いはずよ。大きい都市って、高い場所程偉い人が住んでいるっていう話だもの。それに……窓ガラスの質が明らかに他よりも良いし、建物の中に人の気配も多い上に、その気配の中に『明らかに私よりも強い人』がいるもの。他の場所の人間より格段に強い。強い武力を保持するのは強者の証みたいなものだもん」

「……たまに唐突に鋭くなるのやめてもらっていいですかね」

「でも本当だよ? 周囲の建物には一般人と大差ない気配しかないもの。あそこだけ別格」


 なんか、ギャップがやばい。知識のムラと野生の勘が恐いっす。

 しかし確かにメルトの指摘が正しいのなら、この場所が一番このあたりで力を持っているのだろう。

 下手に刺激は出来ない場所として覚えておこう。


「で、肝心のピジョン商会は見つかった?」

「まだ見つからないの。うーん、どうしてかな?」

「もしかして通りを間違えたのかもしれないな……」


 そう思い通りを引き返そうと振り返ると、大通りに続く道を埋めるように、どこからともなく多数の男達が現れた。

 これは……この辺りの商会から出てきた人間……だよな?


「すみません、何か御用でしょうか?」

「ああ、ちょいと話を聞かせてくれや兄ちゃん」

「随分と好き勝手言ってたみてぇだからよ、そっちの嬢ちゃん」


 ……あの、もしかしてなんですがね。

 この通りって商会は商会でも……『ヤのつく人達の表の顔』みたいな商会が集まってる通りだったんですかね!?


「すみません、マジで今日初めてこの都市見学してるとこなんですよ。連れが失礼なこと言って申し訳ない!」

「え? え? 私悪いこと言ったのかしら……ごめんなさい……」

「ああ、謝んなくていい。とりあえずそっちの嬢ちゃん置いてお前は帰っていいぞ」

「私は残るの? やっぱり謝るだけじゃダメなのかしら……」


 雲行きが怪しい。


「まだ若いが十分な上玉だ。珍しい毛の色もしてる。高く売れるだろうよ、もちろん毛も売れそうだ」

「私の毛は売らないわよ! 髪もしっぽも大事に毛並みを整えてるんだから!」


 よし、逃げよう。一瞬『殺そう』って言いそうになったが、絶対にそっちの方が危険なことになりそうだ。


「メルト、これ逃げられそう?」

「うん、余裕。屋根まで追ってこられそうな人はいないもの」

「屋根まで行けちゃうのか……」

「簡単よー?」


 マジかよ……やっぱりメルトの身体能力は常人離れしていると見て間違いなさそうだ。


「なら、俺は正面突破かな。メルト、先に逃げて。大通りのどこかお店……さっきの服屋さんで合流しよう」

「分かった。じゃあ……とう!」


 その瞬間、メルトが飛び上がると、近くの建物の壁を蹴り、さらに隣の建物の窓枠に足をかけ、見る見るうちに高度を上げ屋根の上に消えて行った。

 マジで忍者か!? あまりの軽業に、周囲の男たちも目を丸くしている。

 じゃあ俺は……。


「という訳で俺も失礼していいですかね」

「……とりあえず人質になるか試さねぇとな」

「あ、そういう流れ……じゃあ殺す」


 こっちに非があるのだとしても、それを上回る報復を、悪意を向けるのなら。

 こちらの命に危機があるのなら。こちらは正当な怒りと暴力を以ってそれに応えよう。

 今度はしっかりと腰に下げていた片手剣に手をかける。

 動きを、戦い方を組み立てる。頭に浮かぶ、こういう状況でどう戦い、どう殺すか。

 セイムの知識と経験が俺に生かされている。全員、問題なく殺せると判断している。

 ……面倒事になるかもしれないが、全員殺せば問題ないだろ。

 いや、ちゃんと生かして解決出来るか? こいつらだって裏の人間だろ、きっと。

 さすがに実力差を見せれば引き下がってくれるだろ、少なくとも今のところは。

 そしたら日を改めて……セイムではなくシレントとして皆殺しにするか。


「……なんだよ、おい……おいお前何者だ!」

「知る必要はないでしょう。こっちはもう謝ったのに、それでも脅迫して来たのはそっちだ。だから――」


 鞘から剣を引き抜こうと力を込める。男達の表情が少しだけ青ざめる。

 出てるのか、俺からも殺気が、威圧感が。

 このごろつき程度なら狼狽えさせるだけの迫力が。


「……やめておけ、お前達。先程から全て聞いていたが、あの娘の発言は全て事実だ。我らカースフェイスに挑むこともせず、事実を語る一般人に逆上し襲い掛かるとは。ましてやあの娘はお前達の組を見下すようなことは言ってはいなかっただろう。恥を知れ」


 するとその時、メルトが言っていた一番大きな商会から、静かに一人の男が現れた。

 今度は、露骨に全ての人間が震え上がる。この人物が、メルトの言っていた『明らかに私より強い人』だろうか。


「だが、大きな声で不用意な発言をしたあの娘にも多少の非はある。後で注意しておいてくれないか」

「それはもちろん。まさかこの通りがこういう場所だとは思いませんでした。商会を探していたんですよ」

「そうか。おい、お前たちはもう自分達の組に戻れ。いいな?」

「は、はい!!! 申し訳ありやせん! そちらと事を構えるつもりは一切ありませんので!」


 男が静かにそう告げると、周囲の商会に雇われているのか所属しているのかは分からないが、恐らく用心棒のような人間達が一斉に逃げ出した。

 間違いなく、目の前にいるこの男は強者だ。


「……血の気が多い連中が増えたな。それは君にも言えることだが」

「あー……分かります?」

「ああ、分かる。私が止めなければ今の連中、皆殺しにするつもりだったろう?」

「や、途中で思いとどまりましたよ?」

「ふふ、しかし可能なのは否定しないと。……私も含めて殺せると踏んだか?」

「いや、いるのに気が付きませんでした」

「ふむ、そうか。あの娘は気が付いていたようだが」


 恐らく、この人は恐い人間ではあるのだろう。しかし悪い人間ではなさそうだ。


「あの子はたぶん、気配察知能力が常人離れしてるんです。まだ出会って日が浅いんですよ。ただ、よく切れる頭と観察力、強靭な肉体を持つ逸材ですね」

「ああ、そうだな。どういう関係かは知らないが、正しい道に進ませることだ。間違っても私のように……こんな世界の用心棒になんてするんじゃないぞ」

「……肝に銘じておきます」


 そう最後に言い残すと、男はまた静かに自分の所属するカースフェイス商工会の事務所に戻って行った。

 ……強いな、なんとなくセイムの経験と知識から、裏の人間の強さというのを肌で感じ取れる。

 明らかに、強者。セイムよりも明らかに強い、そんな気配を感じる人だった。


「……マジでいろんな人がいる都市なんだな……覚えておかないと」


 そうして、大通りにある先ほどの服屋さんに急いで戻るのだった。




「おーい、お待たせ」

「あ、セイム! 大丈夫だった?」

「ごらんのとおりです」

「ううん、相手の方。あの場所で大量虐殺なんてしたら一大事だもの」

「……誰にも手出ししていません!」

「ほんとーに?」

「ほんとーに。いや、メルトが言っていた『明らかに私より強い人』と思われる人が来てくれてね、一喝して事態を収めてくれたんだよ」

「なるほど……今度お礼を言いに行った方がいいかしらね?」

「いや、あそこに近づくのはやめておこう」

「そう? うん、その方がいいわね。じゃあ……今度こそピジョン商会、探しに行こう?」


 今度こそ、真っ当な商売をしている商会が立ち並ぶ通りを見つけた俺達は、ようやくピジョン商会を見つけることが出来たのだった。


「ふーむふむ……なるほど、ピジョン商会は中堅一歩手前って感じなのかしらねー? 建物の規模と立地的に――」

「それはもうやめなさい」


 後で色々言って聞かせないとダメだな、この娘さん!

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