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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十一章 海と港と島と

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第百六十九話

 まず、あらかじめリンドブルムで沢山作っていたソースをメニューから取り出す。

 セイムでは『料理Lv1』しかないので、難しい工程が必要なものを作る自信がないのだ。


 なら揚げ物はいけるのかって? どうやら『焼く煮る蒸す揚げる』という基本の調理法だけはLv1でも問題ないみたいなんですよ。


 これで『二度揚げ』やら『二回目は高温』やら『低温でじっくり色が変わらないように』とかになると、高Lvでないとうまくいかないのだが。


 これって個人の慣れ、練度でどうにかならないのだろうか? もう少し頑張ってみるか? 今度。


 ともあれ、俺は取り出した『オランデーズソース』に、みじん切りにして塩揉みし、水にさらした玉ねぎを加え、更に刻んだピクルスに、同じく粗くつぶしたゆで卵を加えて混ぜる。

 最後に黒コショウを粗挽きにして加え、塩で味を整えたら――


「よーし……マヨネーズじゃないけど、なんちゃってタルタルソースの完成だ」


 本当ならとんかつソース的なものを作りたかったのだが、短時間で作るのは不可能なので諦めました。

『ここ』を一人で長時間占領するわけにもいかないしね。


「ほー……珍しいソースだな。オランデーズソースってのはたぶん見たことがある。昔主都のレストランで食ったな、随分口当たりが軽くて濃厚な不思議なソースだった」


「そうですね、確かにあまり一般的じゃないですよね」


 俺の調理工程を観察しながら、珍しそうに話しかけてくるのは、俺とメルトが契約した宿屋『アナラミの鐘』の店主だ。


 俺とメルトは仕入れたエビを料理できる場所を探し、いっそのこと浜辺で簡易的な調理場を設営しようと思っていたのだが、その砂浜のすぐ近くに、宿泊客用の簡易キッチンが隣接された宿屋があったのだ。


 無論、速攻で契約して、早速その簡易キッチンでエビフライを作っている最中という訳だ。


「それはパン粉か? 随分と荒いな」

「そうですね。一般的なパン粉より遥かに荒いですね。硬くなったバゲットをチーズおろし器で削っただけのヤツです」


 続いて取り出したのは小麦粉と卵とパン粉。

 この世界のパン粉は一般的に、物凄く細かくて、大体砂程度の大きさ粒になっている。

 フリッターとかはこれで問題ないのだが、今回はエビフライなので。


「セイムー! まーだー? そのソースだけでいいから少し食べさせてよー」

「もうちょっと待ってくれー。あと一〇分で完成するからー」


 作業台の前に陣取り、フォーク片手に急かしてくるメルトがなんとも子供っぽくて笑みが漏れる。

 が、確かに昼食には少し遅い時間になってしまったからな、急がなければ。


 メルトの声と砂浜から聞こえる波の音を聞きながら、俺はエビフライを仕上げていくのだった。




「完成。じゃあこのタルタルソースをかけて完成だよ。さぁメルト、海のエビのお味はどうかな?」

「わー……獣人の尻尾みたいで可愛い料理ね! じゃあ頂きます!」


 完成したエビフライ八本を皿に盛り付け、たっぷりのタルタルソースを添えてご提供。

 個人的な見解ではあるのだけど、タルタルソースは添えられれば添えられるほど、その量に応じて幸せになれると思うんです。

 どう思いますか、皆さん。


 メルトが大きく口を開け、タルタルソースの乗ったエビフライをがぶりと齧る。

 サックサクの衣の音が聞こえ、その先に広がるであろう食感や味をこちらに想像させてくる。

 ……俺も一本食べよう。


「! お、美味しい……! 私の中の『外に出てきてから食べた料理の中で美味しかったもの順位』で、今まで一位だった『セイラが作ったステーキ』を超えたわ!!!! これが一番美味しいわ!!!」


「おー! マジか、セイラの料理を超えるってマジか!」


「美味しすぎる……サクサクでぷりぷりで甘いの。甘いけどそれが知ってるエビの味なの……ソースがすっごく合うのよ……こんなに美味しいものがまだあったなんて……世界は広いのね!」


 メルトは、あまりの美味しさに戦慄でもしているのかってくらいの表情で、食べかけのエビフライを凝視していた。

 そこまでか、そこまでなのか! 感動を通り越して戦慄するほど美味しかったのか!


「お客さん、俺も一ついいか? 初めて見る料理だ……フリッターとは少し様子が違うし、このソースが興味深い」


「どうぞどうぞ、是非」


「私ももう一つ! 恐ろしい料理よ、私、一つ食べるのに五口もかかったわ! こんなに美味しいの、二口で食べられるはずなのに! 恐くて五口よ!」


 何だろう、可愛い反応なんだけど、ちょっとよく分からないな?

 あれか、もったいないとかだろうか?


「む……パン粉の大きさに拘った理由がよく分かる。これ最高の食感だし、ソースがよく絡む。それでこのソースがまた良い。こりゃ……俺が勝手に盗み見ていいもんじゃなかったみてぇだな……すまん、お客さん」


「あー、普通に真似して良いですよ。オランデーズソースさえ作れるなら、後は見た通りのレシピで問題ないです。おすすめは更にパセリとかハーブを加えたり、少し砂糖で甘さとコクを調整したりですね? 今回は揚げ物なので酸味と卵の甘さだけですけど」


「い、いいのか……? こんなうまいもん……一気に港の目玉商品になってしまうぞ……」

「どうぞどうぞ。いつでもここで食べられるようになったら、ツレも大喜びで通うでしょうし」


「うん! いっぱい注文するわ! エビフライと樽樽ソース……どうして樽樽なのかしら? 樽が入っているのかしら? 樽って食べられないはずよね?」


「残念ながら樽とはまったく関係なんです。タルタルって料理があるんだったかな、確か」

「へー! このソースとっても美味しいから、きっとパンにも合いそうねー」


 こうして、俺が港町に向かう際に密かに設定していたタスク『メルトにエビフライを食べさせる』を達成し、これで心残りなくヤシャ島に渡れる状態になったのであった。


 なお、定期船は三日に一度なので、明々後日まではこの港町で過ごすことが決定されております。

 じゃあ残りの時間は、港町に集まる変わった品を探すのについやしましょうかね?






 翌日、俺とメルトは朝から砂浜を散歩していた。

 波止場から少し離れると、かなりの距離の砂浜が続いており、海が珍しいメルトにとっては、この光景を見ながら散歩するというのは非常に新鮮らしく、早朝だというのに子供のようにはしゃぎながら砂の上を駆けていた。


「凄いわ、この波ってずっと止まないのね? 延々とザザー、ザザーって続いているの。たまに小さなお魚も打ち上げられていて面白いわ! ほらまた! えいや、海にお帰り!」


「ははは、そうだね。いろんなものが流されてくるから、見ていると面白いよ」


 波打ち際に残された小魚を、メルトは見つけては拾い上げ、ポーンと海に投げ帰している。

 その仕草が可愛すぎて、思わず抱きしめたくなってしまう。


「海って広いのねー……すっごく遠くから見たことがなかったし、その頃は私も子供だったから、具体的にどれくらい大きいのか実感が湧かなかったのだけど……こうしてみると驚きね!」


「そうだなぁ。俺がいた世界も、人が暮らしている大陸の広さより、海の方が広いくらいだったからね。きっとこの世界も同じくらい海が広いはずだよ」


「そっかー! 船、楽しみね? こんな広い海を滑るように進んで行くのよ。どんな感じなのかしら?」


「あー……もしかしたらメルトは酔い止めの薬を用意した方がいいかもしれないね。船って結構揺れるんだ」


「えー……じゃあ今日は宿に帰ったら調合しなくちゃねー?」


「だね。じゃあ薬の材料とか、変わった食材があるかもしれないし、今日も市場を見に行ってみようか? 海の幸じゃなくて、海の向こうからきた品だって売っているはずだし」


「賛成! じゃあ朝ごはんを食べたら市場に行こう? 今日もエビ、買ってもいいのよ?」

「よし、じゃあ今日は別な料理を試そうか? エビフライは毎日食べると胃もたれしちゃうから」

「えー……しょうがないわねー? いいよ!」


 何故俺がわがままを言っている風になっているのか! これが分からない!

 だがそれがメルトクオリティ! 許しましょう!




 朝食を食べ終え市場へ向かう。

 散歩のときからそうだったのだが、本日も港は晴天。

 当然まだ肌寒さを感じるも、日差しの明るさがその気温を幾分和らげてくれているように感じる。


 市場には朝一番に収穫された魚介類が並び、その中には――


「ひ、ひぃ! 化け物エビ! まるでモンスターよ! セイム見て! 昨日のエビの一〇倍くらいあるエビよ! 恐い! ここまで大きいと恐い!!!!」


「ははは! 確かにこれは大きいなぁ! 本当に恐いかも」



 伊勢海老やロブスターと並ぶくらい……いや、もっと大きくて、毒々しい色をしたエビも市場に並んでいた。

 地球にも似た種類がいたけれど、あれは確か温暖な海に生息していたし……これは違う種類なのだろう。

 なんだっけ? 錦エビ? そんな名前だったはずだ。


「こ……恐いわ……さすがに恐くて食べられないわ……」

「そうだなぁ、俺じゃあ調理できなさそうだよ流石に」


 これは将来、セイラに調理してもらわないとな。

 という訳で、買うだけ買ってメニューに収納しておきますね。


「ひー! 買っちゃったの!?」

「買いました。今度食べよう、今度」

「えー……」


 さ、気を取り直して海外の輸入品を見て回りましょうか。




 海鮮市場から少し離れると、今度は海外から運ばれてきたと思われる果物や乾物、それに薬草や漢方のような品を取り扱う店が軒を連ね始めた。


 緑色のまだ若そうなバナナとおぼしき果物に、なにやら硬そうな皮に包まれた大きな果物、それに以前料理人ギルドで素材集めに奔走してた時に見かけた漢方や生薬も売っている。


 ここで、コーラシロップに必要な珍しいハーブや漢方を買っておくのもありだな。


「へー! 変わった素材がいっぱいねー!」

「そうだね、ちょっとここで買い物していこうか」


 俺はスターアニスやクミン、その他コーラに必要な素材を購入する。

 その一方で、メルトは難しい表情を浮かべながら、見慣れない漢方薬の材料のような商品を吟味していた。


「これとこれと……あとこれひとつかみ! 幾らになるのかしら?」

「……銀貨八枚だ」

「わ、結構するのね! そっか……きっと絶対数が少なくなっているのね、これ」

「……よく分かったな。錬金術師か」

「うーん、たぶんそうかも? ギルドに入ってないんだー」

「もぐりか。……それでこのチョイスを買うのか。面白い娘だな」

「そうなの?」


 なにやら怪しい雰囲気の店主さんに気に入られているご様子。

 俺の時は無言で売買したというのに。


「薬か。なんの薬だ? 気付け薬にしては見ない組み合わせだな」

「船で酔わなくする薬を作るのよ!」

「っ! それが完成したら、少しだけウチに卸してくれ。高く買い取ろう」

「ほんと? わーい」


 あの、もしかして店主さんのそのテンション、船酔いの所為だったりします?


 そうして生薬を購入し終え、今度は何やら雑貨やがらくたにしか見えない、あやしげな商品を取り扱う屋台に立ち寄る。


どこかの民芸品か、木彫りの仮面や何に使うか分からない木製のスティック、あまり綺麗ではない腕輪が並んでいた。


 こういう時、シーレの姿やシズマとして鑑定をしながら見て歩けば、面白さ倍増だったろうに。

 そんな中、俺は目を惹く品を見つけ足を止めた。


「店主さん、これは?」

「ん? 兄さんコレが気になるのかい? これはコンソルド帝国のどこかのダンジョンで発見された、異世界から流されてきたって噂の品だ。何に使うか分からないし、何かに使えそうにもないから飾ってるだけさ。もし買うなら銀貨五枚だよ」


 それは、少し型が古いが間違いなく……拳銃だった。

 あちこち錆が目立つし、一部のパーツが欠損している。だが、分解して調べたら、勘のいい人間ならば……これが兵器だと分かってしまう可能性がある。


 なんとなく……俺はこれがこのまま世に流れ続けるのはよくない気がして、購入を決断した。

 これは、メニューにしまっておこう。出来れば永遠に。


「セイム、何を買ったの?」

「んー? たぶん異世界のがらくたかな? ただなんとなくこういうの見てると楽しいからさ」

「ふーん? じゃあ私も何か買おうかしら! んー……これって何だろう?」

「何だろう?」


 するとメルトが、がらくたと思われる品が乱雑に入れられた箱の中から何かを取り出した。


「お嬢ちゃん、そいつは地面に差して、その表面を他の棒で擦ると地面からミミズが出てくるって言われているがらくただ。たぶん嘘だと思うから買わない方が――」


「面白そう! これくださいな!」


 ええ……そんなの買うんですか……?

 そんな効果あるわけないじゃないですか……! どう見てもただの木の棒なのに。


 こうして、がらくた巡りは特にこれといった成果がなく、当然和風な調味料なども見つかることはなかった。


 古びた拳銃を回収出来たのは成果と言えば成果だが、目ぼしい商品を買えたわけでもなく、メルトもメルトで意味不明な木の棒を買っただけ。


 それでも、時間を潰すのには丁度良かったので、市場巡りや浜釣りで時間を潰し、無事に定期船が来航する日を迎えることができたのであった。


「セイムー! 出た出たー!!! 本当にミミズ出てきたー!!」

「そんなバカな!?」


 ……最後の最後で奇跡が起きたみたいです。

(´・ω・`)なおこのミミズ呼び出しスティックは実在します……

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