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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十一章 海と港と島と

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第百六十八話

 翌朝、セイムとしてリンドブルムを発つ準備を済ませる。

 ギルドの届け出も終わり、後は西門から出発するだけなのだが――


「セイム、本当に番になるんじゃないんだよね? 嘘っこよね?」

「そうだよ、大丈夫大丈夫。たぶん、シュリスさんは俺を男避けにしたいだけだから」


 メルトが未だに、シュリスさんの件で心配そうに何度も確認を取ってくるのだ。

 俺はメルトの家族だ。が、それをもしかしたら取られてしまうのではないかと心配しているのだ。


「ならいいんだけど……二人で『番の宿』に行ったりしたらダメよ? 子供ができる儀式をしたらダメだからね?」

「!? な、何を言い出すんですか君は……!」


 ま、まさかメルトに性知識がある……だと!? いや、考えられる!

 あらゆる本や資料を読み解き記憶しているメルトなら、そういった知識を知っていたとしても不思議ではない……。


「個人的にはどんな術式、儀式なのか気になるわ……番の宿にだけ伝わる秘術だって子供の頃聞いたことあるの。でも……子供ができたらもう、お父さんとお母さんになるから、私は家族になれなくなっちゃうわ。だから絶対にダメなんだからね」


 あ、微妙に中途半端な知識なんですね。一体どうしてそんな話が出てきたのだろうか……。


「大丈夫、そんなことにはならないから。信用して欲しいかな」

「分かった、信用するわ」

「メルトも、知らない男の人についていかないようにね。今は港や島に沢山人が来ているからね」

「分かった、気を付けるわ」


 メルトを納得させ、ようやく西門を出発するのであった。

 なお、今回はどこかの護衛任務のついでという訳ではない。

 というのも、実は昨夜のうちに、セイムの姿になったところで家を訪問する人物がいたのだ。


「途中の分かれ道? 沼地のあたりで拾ってもらうのよね?」

「そのはずだよ。正午に到着するらしいからね、今から向かうと丁度良いはずだよ」


 その人物とは、なんと『キルクロウラー』のリーダーであるアラザさんだ。

 十三騎士の一人あるアラザさんが昨夜、直々に家にやって来たのだが――








「そうか、シレント殿は既に発ったと。シズマ君という人物にも挨拶をしたかったのだが」

「入れ違いになってしまいましたね、申し訳ない。シズマは一足先に港に向かったのですが」


「うむ……本当に申し訳ないのだが、我らキルクロウラーがヤシャ島に向かうのが少し遅れてしまいそうなのだ。それをシズマ君に伝えたかったのだが」


「ああ、それでしたら俺が伝えておきますよ。俺達も港に向かう予定なんです。シズマのことです、攻略が本格的に始まるまで、独自に調査でもしていると思いますよ」


「誠に申し訳ない。こちらから依頼したというのに。いや……まさかリンドブルムの巣窟が巨大なダンジョンとして復活するとは予想外だった。我々も、調査に乗り出さねば他の探索者に被害が出るかもしれないと思い、女王からの依頼を二つ返事で受けてしまった。くれぐれもシズマ君に謝罪しておいて欲しい」


「了解です。俺は明日にでも港に向かいますから、安心して調査に挑んで下さい、アラザさん」

「ならばこちらが馬車を出そう。探索者ギルドの野営地から続く道、あそこは西の街道にある沼地に続いている。そちらに馬車を回しておくので、どうか港まで送らせて欲しい」


「いいんですか? それは非常にありがたいお話なのですが」

「構わない。貴殿にも迷惑をかけたのだ、これくらいさせて欲しい」








 ――と、いうやり取りが昨夜あったのだ。

 なので今回はキルクロウラーが手配した馬車で港に移動する、という訳だ。

 港はかなり遠く、馬車でも七日掛かるという。


 そういえば、セイラで活動していた時、海の幸がリンドブルムに運ばれてくるのは月に数度しかないという話だったしな。往復で二週間……確かに滅多に内陸部まで海の幸は届かなそうだ。

 こういう流通を活発化させるには、やはり移動手段の向上が必要不可欠だよなぁ。


「港楽しみだなー! 遠くから見たことしかないからなー私海って」

「俺もこの世界の海はまだ見たことがないからね、今から楽しみだよ」


 それに国外の珍しいものだってあるかもしれない。

 なら……もしかしたら米や日本風の調味料だってどこかにあるかもしれないではないか。

 そんな淡い期待を胸に抱き、待ち合わせの沼地の分岐路に向かう。




 そうして馬車と合流した俺達は、未だ向かったことのない、この国の西部、港町に続く街道を進んで行く。

 こちらは東とは違い、道中に幾つも分岐する道があり、それぞれ他の街や村、地方に繋がっているそうだ。

 こうして、俺達はレンディア国内においては、初めてかもしれない長距離移動に挑むのだった。






 馬車での移動が始まってから六日目。もう、随分と国の中心部から離れただろうか、まだダンジョンコアの影響が強く出ていないこちらの地方は、中央に比べて若干気温が低いと感じた。


 道中の空模様はとくに荒れることはなく、今も見上げれば青空が広がっているのだが、それでも肌寒いと感じるこの気温こそが、本来のこの国の気候なのだろう。


「悪かったね、ここまで御者を務めて貰って。本来俺が自分でするべきだったのに」

「いえ、構いませんよ。リーダーの計らいですし、今回は全面的にこちらの都合で振り回してしまいましたからね」


 実は今回、御者を務めていたのはバスカーだった。

 セイムとして顔を合わせたのは恐らく今回が初。が、俺が元旅団の人間であり、ダンジョン踏破者だということはアラザさんから聞いているらしく、かなり畏まった対応をされたのだが、ここまでの道中でかなりそれも軟化してくれた。


「こちらはリンドブルムに比べて多少肌寒いようだけど、今の時期はこんなものなのかな?」


「いえ、これはたぶん海からの風も関係していると思いますよ。ただ、確かにこちらは元々中央に比べて気候が厳しいんですよね。山から吹き下ろす風もありますし。でも、それを差し引いても今年はかなり気温が高いんですよ、これでも」

「なるほど……なら既に大陸全土で気候の変化は起き始めているってことか……」


 正直、不思議ではある。大地に関係する作物の生育具合や植物の成長速度が向上するのは分かる。だが気温というのは土地の力、豊穣の力が増したからといって、本来上がるものではないように思えるのだ。


 となるとやはり……この世界の土地、地域を気候まで含めてまるごと管理している仕組みが存在している……ということなのだろう。


 不気味だ。この世界をまるでゲームやシミュレーターのように操作している存在がいる今の状況が、凄く不気味だ。


 だが、それで幸せになるのなら。その不気味な仕組みすら、現地の人間がこうして活用しているのなら、それをよそ者の俺がとやかく言うのは、お門違いなのかもしれないな……。


「さぁ、明日はいよいよ港町に到着ですね。僕は本隊が調査を終えてこちらに来るまでヤシャ島で待機することになるのですが、お二人はどうするんです? すぐに島に渡られますか?」


「いや、少し港町を観光してからヤシャ島に向かうよ。ね? メルト」

「うん……少し休憩したいわ……」


 悲報、メルトが乗り物酔いをしてしまう。

 気候の急激な変化に加えて馬車での長距離移動が堪えたのか、珍しく気分が悪そうなのだ。

 とりあえず状態異常回復のポーションを飲ませてはいるのだが、それでも完治という訳にはいかなかった。


 ……お酒の酔い止めの薬、乗り物酔いにも効けばいいんだけどなぁ。


「もう少し横になるね……この馬車、少し揺れ過ぎだと思うの……」

「あー……確かに乗り心地とか優先していないですしねこれ」

「優先するべきよー……」


 なるほど、これも探索者クラン特有の『実益重視』みたいなやつか。

 過酷な環境に慣れているのが前提である以上、余計な機能に予算はかけない、と。

 ……そのうち板バネとかゴムタイヤの仕組み、コクリさんに教えるのもありかもしれないなぁ。






 更に翌日。空気に微かな潮の香りが混ざってきたように感じる今日、俺達は七日間の旅を終え、ついに港町に到着した。


 幸い天気は晴天。けれども海の傍であるこの町は若干肌寒く、メルトはしっかりと今季買ったばかりのコートを身に纏い、すっぽりとフードを被っていた。

 ……あ、フードにしっかり要望通り獣耳を通すスリットがついているのか。可愛いな、それ。

 フードから狐耳だけがぴょこんと出ているのは、非常にこう、たまらない気持ちになります。


「では、僕は馬車を預けたらそのまま定期船で島に渡りますね。もしかしたら向こうで顔を会わせることもあるかもしれませんが、これで失礼します」


「そうだね。向こうで会ったらよろしく。長旅、付き合ってくれて感謝するよバスカー」

「バスカーまたね! 私はキルクロウラーのお手伝いに参加するから、きっと会うことになるわ」


 七日間お世話になったバスカーを見送り、これからどうするかメルトに相談する。

 さぁ……どうしようか。市場で目ぼしい食材を探すのも良いし、外国の変わった品がないか探すのも良いし――


「う、海よ海! 少し変わった匂いがするね……! は、早く見に行きましょう!?」

「ははは、そうだね、まずは海を見てからだね」


 どうやら、相談どころではないみたいです。

 もう我慢できないといった様子のメルトが駆け出し、俺もそれに続き、波止場へと向かう。

 潮の香を久しぶりに感じつつも、この世界で見る初めての海がどんなものなのか、楽しみにしながら――




「わーーーーー!!!!! 凄い凄い凄い! 水! 全部水! 見える景色がぜーんぶ水! 池とも沼とも違うわ! 波が凄い! こんなに広いの!? どれくらい深いのかしら!?」


 波止場に到着するなり、メルトは大きな声で感動と喜び、そして驚きを表現しながら、身振り手振りでこの広大な海を表すように大きく動かしていた。


 年齢不相応な喜び方が、なんとも微笑ましく感じてしまうのは、どうやら俺だけではなく、近くを歩く住人も一緒だったようだ。


 すみません! この子、海が初めてなんです! 温かく見守ってあげてください!


「セイムセイム! ここってどれくらい深いのかしらね!?」


「そうだなぁ、ここはそうでもないけど、向こうに大きな船が停泊しているだろう? だからあの辺りは結構深いんじゃないかな?」


「ほんとだ! この辺りはよく見たら底が見えるわ!」


 俺も確認して驚く。

 こんなに港に近い海だと言うのに、波の合間にしっかりと海の底が確認できる。

 その透明度に、やはり地球とは違うんだな、と感動する。


「さぁ、次は市場を探してみようか。もしかしたら変わった品や、海のエビだって売っているかもしれないぞ?」


「エビ! 見てみたいわ! 大きなエビ! わー、楽しみねー!」

「そうだなぁ。もしかしたら串焼きとかも売ってるかもしれないし、早速行ってみようか」


 これはしばらく、港の観光が続きそうだな!

 あとで料理ができる宿も探した方が良さそうだ。




 市場は予想通り、船が停泊している場所の近くで展開していた。

 恐らく海外から来たであろう人間や、地元の飲食店の人間と思われる人物が、魚介類を大量に買い付けに来ている様子が窺える。


 鮮度抜群の魚が大きな樽の中で泳ぎ、そしてメルトお待ちかねのエビが、大きな浴槽のような容器の中で泳いでいたり、それを網で掬う店員から逃げるように水の中を跳び回っている。


「!!!! おっきい! 私の指より太いわ! す、すごい! どうやって食べるのかしら!? ここまで大きいと唐揚げだとダメかも! 殻が硬そう!」


「そうだね、だから殻を剥くんだ。海のエビは大きいからね、手で殻を剥くこともできるんだよ」

「へー! そうやって剥いてから唐揚げにするのね?」


 目を輝かせながら、夢中になってエビに向かうメルト。

 その様子が可愛らしいのか、店主のおじさんが話しかけてきた。


「お嬢さん、揚げるよりもこいつは塩焼きの方がいいぞ? 弱火でじっくり焼けば、硬い殻もバリバリ食えるんだ。この近くで売ってる屋台もあるから買ってみな」


「塩焼き! こんなに大きいとお魚みたいに塩焼きも出来るのね! 見つけたら絶対買うわ!」

「ははは、是非食ってくれ。彼氏の兄さん、何か買ってくかい?」

「そうですね、ではエビを一〇尾ほどください。料理して食べさせてあげようと思います」

「いいねぇ! お嬢さんにたっぷり食わせてやんな。ほら、おまけだ。一二尾で銀貨九枚だ」

「お、安い! ありがとうございますオヤジさん」

「へへ、いいってことよ」


 よし、とりあえず小さなバケツにエビを生きたまま入れて貰ったし、すぐに料理できる場所を見つけないとな。


「さぁメルト……塩焼きも良いけど、とっておきのエビ料理を作ってあげるからなー?」

「わーい! じゃあ早くどこか、火が使える場所に行きましょう!!」


 さぁ、エビフライの時間だ……! ソースは適当になんとかする!

 海のエビの底力……とくと味わうがいい!

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