第百五十話
(´・ω・`)祝 150話達成!
ここからの行動方針を決める。
まず明日、俺はコンコーン商会のコヤンさんと、他大陸の国の話をする。
こういう情報は将来他国を旅する時に必要になるし、獣人の多い国の文化については、メルトも気になるところだろう。
次、セイムだけ先に帰還する旨を伝え、このイズベルから姿を消し、どこかで……そうだな、あの地下に隠したバスの中で『鍛冶師』のキャラクターである『シジマ』の姿に変身する。
その後イズベルに戻り、鍛冶ギルドに大会出場の申請をし、工房をレンタルする。
あとはもう、全力でメルトの為のツインダガーを制作するのみ、だ。
「と、いう流れにする予定なんだけど、大丈夫かな?」
「んぐ……うん! 大丈夫よ!」
イズベルにある、やや高級なレストラン。
いつもは大衆食堂や大衆酒場で食事を摂る俺達だが、こういう内密な話をするなら、しっかりと個室が用意された、高級志向のレストランを利用した方が良い。
なお、料理はどれも大変美味しゅうございました……野鴨を使ったフルコース……最高でした。
「はー美味しい……鴨のお肉っておいしいのね! 私、森にいた頃はそこまで好きじゃなかったんだけど、ここのはすっごく美味しいわ!」
「ある程度血と脂を落とす調理法をしないとクセが強いらしいからね。ここは凄く調理が上手なんだと思うよ」
セイラの知識、万能である。
いや本当美味しかったです……。
「そっかー、お肉も色々下処理が必要なのは分かるけど、料理も気を付けるのねー」
「そういうこと。さて、じゃあそろそろお会計しよっか」
「そうね、じゃあバスに戻る? それともどこかに寄る?」
「んー……まだ少し早いけど、先に戻ろうか」
こうして、今後の活動方針を決め、俺達の秘密基地、地中バスに戻るのだった。
翌日、メルトにせがまれ、イズベルの冒険者ギルドに向かった俺は、初日に報告し忘れていた『野盗と思われる人間による護衛の押し売り』という手口について、受付にて詳細を報告する。
「――ということがありました。一名を殺害、残りはリンドブルム東の出張受付に引き渡して来ました。もしかすれば、今後も似たような事案が発生するかもしれません。こちら側のギルドでも注意喚起、および街を護衛無しで出ていく商隊には詳しく話を聞くようにした方が良いでしょう」
「なるほど、了解致しました。街の外でもぐりの護衛と合流……そういうパターンもあるのですね。これはいよいよ……大規模な賊の一掃作戦が必要になってくるかもしれませんね……」
そういえば、元々リンドブルムからイズベルまでの道は賊の襲撃が多いというのに、何故これまで大規模な討伐隊が組まれてこなかったのだろう?
何か特別な理由でもあるのだろうか? そう受付の人間に尋ねてみたのだが――
「それが不明なんです。いえ、討伐隊そのものはこれまで幾度も組まれましたが、どこからか察知していたのか、ことごとく賊の元締め、まとめ役を捕捉出来ませんでした。もしかすれば……イズベルかリンドブルムに、密偵のような存在が潜んでいるのかもしれませんね……」
「なるほど……」
相当手厚いバックアップでもついているのかね、山賊連中には。
報告を終え、メルトの姿を探すと、どうやらリンドブルムと同じように設置されている依頼を張り出す掲示板を、興味深そうに見つめていた。
どうやら俺達同様、外部からここに来ている冒険者も少なくないらしく、同じように依頼を吟味している冒険者が多いようだ。
「メルト、何か面白そうな依頼はあったかい?」
「んー、鉱山内の哨戒任務と、採取に向かう作業員さんの護衛任務が主ねー! この辺りの採取依頼って、初心者向けじゃなくて、黄玉ランク以上の人の為みたい」
「ふむ……魔物との遭遇も考えられるってことなんだね。何か受けたい依頼はあった?」
「特にないかなー……他の冒険者さんに誘われたりしたけど、私のランク見て遠慮していなくなっちゃうし」
なるほど、紅玉ランクは上澄みだからな……採取依頼に誘うのは気が引けるのだろう。
しかしそうなると、紅玉に求められる依頼は必然的に、危険度の高い討伐依頼が主になるのだろうな。それこそ、今回みたいな賊の討伐や、前回の討伐隊結成のような任務を単独で受けたり。
「今回は観光をメインにして、夜まで時間を潰そうか」
「そうね。私もまだまだこの街に詳しくないし、そうしましょ」
そうして街の様々な区画を見て回ると、どうやら街の入り口周辺は、外部の人間の為の商店や宿屋が多く、少し山沿いに回り込めば、途端に職人向けの宿舎や工房、レンタル工房の連なる区画や、そこで働く人間の為と思われる酒場が軒を連ねていた。
「この辺りの熱気凄いね! 冬なのにぜんぜん寒くない!」
「むしろ、だからこそ鍛冶大会をこの時期に開催しているのかもしれないね」
周囲から響く金を打つ音に、休憩中と思われる職人達が飲み屋で愉快そうに上げる声。
まだ日も高いうちから随分とご機嫌な様子に、こちらまでワクワクと楽しい気分になってくる。
きっと、職人にとっても、真剣勝負であると同時に、ある種のお祭りなのだろう。
「シジマって名前、シズマに似てるね?」
「確かにそうだね。シジマって名前は『静か』って意味なんだ。思いっきり金属を叩くくせにね」
「ふふ、面白いね。そっかー……私の剣、シズマが打ってくれるのねー……手作りのプレゼントってなんだか凄く嬉しいわ。それに……私のわがままも叶えようとしてくれて、本当にありがとう」
「ん、大事な家族が薬に必要だって言うんだから、協力するのは当然さ。なんの薬かはまだ言えないんだよね?」
「うん……これは実験みたいなものだから、変に先に教えて、あとでがっかりさせたくないから……ごめんね」
ふむ……がっかりさせるかもしれない薬か……ちょっと想像出来ないな。
でも、必要に迫られたらきっと教えてくれるだろう。
そう俺はメルトを信じている。
そうして時間が来るまで街を見て回り、夕日が辺りを朱に染める頃、俺達はコンコーン商会が宿泊する宿『キンコン館』へと向かうのだった。
「キンコン館って、面白い名前ね! 私が止まったトンチン館に似てるわ!」
「ちなみに昨日見た回った宿屋の名前は『トンテン館』と『コナミ館』と『アイス亭』っていう名前だったよ。なんだか変わった名前の宿屋が多いよね」
もしかして利用者にインパクトを与えて覚えて貰おうとしているのだろうか?
……少なくともトンチン館の名前だけは強烈に覚えました。
宿の受け付けに、ここで宿泊中のコヤンさんは戻っているか尋ねると、すぐに従業員さんがコヤンさんを連れてきてくれた。
「お待ちしておりましたセイムさん。では行きましょうか、実は今日、工房区画で商談をしてきたのですが、あちらに酒の種類やつまみが豊富な酒場があったんですよ。そこで話しましょう」
「いいですね、俺達もあの辺りを少し見物してきたとこなんですよ。じゃあ行きましょうか」
案内された酒場は、この工房区画に数ある酒場の中でも一際大きく、まだ寒い季節だというのにテラス席まで開放し、そこも殆ど埋まるくらい大繁盛な酒場だった。
俺達もテラス席に通されるも、やはりこの工房区画は夜だというのにそこまで寒くはなく、普通に冬着を着ていたら寒いと感じることはない程度の気温だった。
「では、最初の一杯を待ってからお話をしましょう。ここ、どうやら牛乳とはちみつを一緒に発酵させたお酒を温めて提供するのが人気らしく『ホットスパイスミルクミード』というそうです」
「わー、温かいミルクのお酒? そんなものもあるのねー!」
「美味しそうですね、今の季節にはぴったりだ」
説明だけでもう美味しそうなお酒が運ばれてくる。
分厚い陶器のジョッキにたっぷりと注がれた、微かに黄金色の混じるミルク色。
甘く優しい香りの中に、仄かにシナモンとピリっとした胡椒の香りが混ざっていた。
「では乾杯を」
「カンパイ!」
「乾杯!」
一口含むと、ミルクとはちみつの香りと甘さが口内に広がり、そこからアルコールの風味がスパイスと共に広がる。
一瞬、少し癖を感じるも、それを完全に認識する前にスパイスがそれらを消し去ってしまう。
早い話が……とても甘くて美味しいってことだ。
「美味しいねー!」
「そうですね、飲みやすいのにそこそこ強いらしいので、あとは料理だけにしましょうか」
「そうですね、じゃあ……あ、ここにも鴨肉があるんですね」
「おや、もう食べたんですね? どうやらこの街は鴨の越冬によく使われている林があるらしく、名物だそうですよ」
そうして、甘めのお酒と、スモーキーな風味付けがされた鴨肉を頂き、程良く酔いが回り始めたところで、コヤンさんの故郷である『シジュウ連邦国』について話してもらうのだった。
「隣の大陸、私の故郷なんですけど『ライズアーク大陸』と言うんです。その面積はおそらく世界最大、他の大陸に比べても圧倒的な広さを誇っています。一説によると、ここダスターフィル大陸の四倍の広さだとか」
「それは……もの凄く広いじゃないですか。そんな大きな大陸を治めている国なんですか?」
「いえ、ライズアーク大陸は東西で治めている国が違うんですよ。こちらの大陸に面している、ライズアークの東半分を治めているのが『コンソルド帝国』となっています。私は、西側の『シジュウ連邦国』に属する『セキリョ国』の出なんですよ」
連邦国……地球で言うところのアメリカがこれに該当するんだったか。
あちらは『州』で別れていたが、こちらは『国』という呼び名のまま、連邦国に属しているのか。
「セキリョ国は主に、狐族と狸族が暮らしていますね。狐族は主に外世界を相手の商売を、狸族は国内を相手に商売をしていることが多いですね」
「狸族! 絵本で見たことあるわ、狐族と仲が悪いって書いてあったけど、嘘だったのね?」
「そうですね、基本的に仲が良いです。ただ、お互いに尻尾の素晴らしさは譲りませんけどね。毎年、尻尾の毛並みを競うコンテストでは競い合ってますよ」
「へー! 尻尾コンテスト! 私も出たいわ! きっと優勝よ!」
「ふふふ、確かにメルトさんの尻尾は類を見ない、美しい毛並みですからね」
そう、そうなんです。我が家のお狐様の尻尾は、魔性の尻尾なのです。
サラサラで触り心地が良く、細い毛が水のように流れる、しなやかな毛質。
それでいて温かく、包まれると幸せな気持ちになるのだ。
「シジュウ連邦国では『ドーナ』『セキリョ』『ハチウ』『コーロン』『シリュウ』からなる五つの国が存在し、それらを束ねる連邦首長国として『シジュウ』が存在します。つまり六つの国の集まりなんです」
「へー! いっぱい国があるのね? 喧嘩とかしないのかしら?」
「んー、多少はライバル視をしていたり、仲の悪い国もありますが、戦争が起きるようなことはありませんね。なにせシジュウ国がそれを許しませんから。あの国は、私達獣人の中でも『先祖返りを起こした上位獣人』のみで形成されていますからね。人口は少ないですが、その力はあらゆる面で圧倒的なんです。その庇護や支援を受け、平和で余裕のある生活を送っているのですから、戦争なんて起きようがないんですよ」
「先祖返り……ですか?」
「ええ。私達獣人の歴史の中では、時折特別な力を秘めた『上位獣人』という種族が誕生するのです。長い歴史の中で消えて行った種族もたくさんあるのですが……代表的な例で言うと『銀狐』『幻狼』『金狼』『赤熊』『白獅子』『黒竜』『火鼠』『ハム鼠』が有名ですね」
……なんか最後に変なの混ざらなかった?
ハムネズミ……ハムスターかな?
「メルトさんはおそらく、強く銀狐の血が遺伝しているのでしょうね。正直初めて見た時、驚いて跪きそうになりましたよ。シジュウ連邦首長国の国民は、皆なにかしらの上位獣人の血を色濃く受け継いでいるんですよ」
「へー! すっごく興味深いわね! いつか行ってみたいなー!」
「そうだね、行ってみたいね」
メルトに似た獣人の国民もいるかもしれないし、きっとメルトも気に入るだろう。
「そうなると、国外の方は帝国を通り抜け、更に大陸の中央を占める巨大な湖『ハム湖』を渡る必要がありますね。実は、ダスターフィル大陸からシジュウ連邦国に直接渡る船は存在しないのです。無論、シジュウの商人はその限りではなく、こうして直接この大陸に来ることが出来るのですが」
「なるほど……たぶん、帝国との間の協定ですかね?」
「正解です。凄いですね……これだけの話で理解しましたか」
「なになに? どういう意味なの?」
おそらく、連邦国と帝国との間で戦争が起きないように……どちらかの国が秘密裏に戦力を集めたり、隣の大陸と同盟を結んだりできないように、直接の交流をある程度制限しているのだろう。
きっと、ライズアーク大陸の更に隣の大陸も、直接帝国とはやり取り出来ないようになっているのではないだろうか? と、ここまでの考えをメルトに説明する。
「よく分からないけど、お互いに約束して牽制してるってことなのね?」
「そういうことです。とまぁ、私がお話出来るのはこれくらいですかね? なにぶん、私もただの商人なので、詳しい国の運営方針やら、他国との詳しい関係には疎くて……」
「いえいえ、とても貴重で興味深い話、教えてくれてありがとうございました」
これは、将来ライズアーク大陸を旅するのが楽しみになって来たな。
そのうち、帝国側の情報も誰かから聞けたら良いのだけど。
「ああそうだ。コヤンさん、俺は明日の朝、この街を発って一足先にリンドブルムに戻るのですが、もし何か困ったことがあればメルトに言ってください」
「おや、そうだったんですか。いやぁ……短い間でしたが、本当にお世話になりました、セイムさん。我々も国に戻った後は、商会本部に貴方のことを伝えておきます。もし、将来セキリョの国を訪れることがあれば、是非とも顔を出してください、我らがコンコーン商会に」
「ええ、その時は是非」
そうして、楽しく興味深い一夜が過ぎていく。
美味しいお酒に美味しいおつまみ、面白い話。
本当に充実した夜だった。
その後、コヤンさんを宿に送り届け、その足で街の外にある秘密基地、地下バスに帰還する。
「面白い話が聞けたねー! もしかしたら私の同族、銀狐族もまだいるかもしれないわね!」
「やっぱり、同族と一緒にいたい?」
「んー……会ってみたいかも? でも、私が一緒にいるのは家族のシズマやみんなだよ?」
「嬉しいこと言ってくれるなぁ……じゃあ、明日……いや、今日から俺は鍛冶師の姿になるね? まぁ中身は俺のままだから安心して欲しいけれど、初めて見せる姿だから少し慣れないかもね」
「おー! 新しい人になるのね! ワクワクするわ!」
「よし、じゃあ今から変身するぞー」
そうして、俺はメニューを操作し、キャラクターカーソルを『シジマ』に合わせるのだった。
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(´・ω・`)よろしくお願いします!
(´・ω・`)あと日本の気温ちょっと高いから、温度設定下げてくれる?