第十五話
(´・ω・`)予約投稿した時点ではこの豪雪地帯の洗礼を受けていました
解決してるといいなぁ今頃
セイムことシズマがリンドブルムでちょっとしたいざこざに巻き込まれていたその頃、王国に戻った元クラスメイト達は、一つの決断をしていたのだった。
彼らに与えられていた会議室で、一同は他の人間に聞かれないように密談を交わす。
「……今回のことは王には黙っておくことにする。コアを他の冒険者に持っていかれたなんて知られたら僕達の待遇に関わる」
まず、今回の遠征で何が起きたのか、その一部を秘密にするべきだとイサカが語る。
「……だな。幸い、このことを知っているのは俺達だけだ。元々シレントを捜索していたんだ。国境のあのダンジョンで見つからなかったのなら、引き返すしかねぇよな」
「まぁ言わなきゃバレないっしょ。てか、コアって一般人でも取れる物っぽいし、アタシらも鍛えたら余裕っしょ」
「うん、そうだよね! 今はまだ無理だけど……ダンジョンだってまだまだ沢山あるよね? 他の場所で取れたらそれで問題ないはずだよね」
ムラキが、サミエが同意し、そしてイナミが希望的観測を述べる。
保身の為、生徒達は自分達がダンジョン深部で見た光景、そしてセイムがダンジョンコアを入手したという事実を隠蔽することにした。
『国境に存在する天然の大ダンジョンのコア』を奪われるというのが、一体どういうことを意味しているのか、そこまでまったく考えが及んでいない一同。
が、唯一この面々の在り方に疑問を持ち始めた一人は、静かにこの集団から抜けることを決意したのであった。
(シズマ君、もしかしたらまだあの大森林にいるかもしれない……誰かに相談して連れて行ってもらわないと。たぶん、この連中と一緒にいたらそのうち大きな失敗をすることになる)
その一人であるヒシダは、そう判断を下す。
だが理解していないのだ。自分もまた、憎まれ、そして既に切り捨てられた側の人間であることを。
もう、二度とシズマと道は交わらないのだということを。
「とにかくこれからは重点的に自分達の強さを磨こう。ダンジョンコアを集め出すのはもっと強くなってから……少なくともあの子、途中で手伝ってくれたメルトさん、あれくらいにはならないと話にならないからね」
「そうだな! 俺達も……あんな超人的な動きが出来るようになるんだよな」
「ああ、間違いない。俺もこの武器を使いこなせるようになってみせる」
「私も魔法、練習するよ!」
近い将来、きっとこの生徒達は、セイムと……シズマと再び出会うだろう。
それはきっと……何かが終わる時。
「はい、復唱。お前達はなんだ?」
「私達は愚かで人間以下のケダモノです。人に討伐されるのは当然の雌豚です」
「おら、お前ら二人も続くんだよ」
はい、この腐れ酔っ払いの女冒険者(?)を完全に心折れるまでボコりました。
誰も止めに入らなかったよ。警備の人間を呼びに行った感じの人がいたけれど。
と言う訳でそろそろ解放したいと思います。
「二度と視界に入るな。報復に来るなら今度は殺す。俺が口だけじゃないのは身に染みただろ? それとも今ここで一人選ぶか? 最初の犠牲者を」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! この街から出ていきます! だからどうか命だけはお助け下さい!」
「お金なら出します! なんでもしますから!」
「いらないよ。じゃあさよなら。五秒以内に視界から消えて?」
瞬間、猛烈なダッシュで路地裏に逃げ込み消える三人組。
やりすぎだって? 武器突きつけて人の尊厳踏みにじる気満々だった人間ですよ?
まぁ一部始終見てた野次馬も、さすがにこちらと目を合わせてくれませんでした。
「こええ……こええよ……あんな奴この街にいたか……?」
「豹変しやがった……さっきまで酒場で楽しそうにしてたろアイツ……」
「自業自得だ……あいつらの質の悪さは有名だったろ……いい気味だ」
……警備の人が来る前に急いで逃げましょう。
「ただいま戻りました」
「ん。……大丈夫だったか?」
宿に戻ると、聞いていた通りおかみさんではなく、ご主人が出迎えてくれた。
が、口ぶりから察するに、事情はメルトからある程度聞いていたのだろう。
「ええ、何の問題もありませんよ。どうしたんです?」
「さっき、連れの嬢ちゃんが慌てて帰って来た。お前さんが変な女につけられてるとかなんとか」
「でも、そういう問題って日常茶飯事なんですよね?」
「そうだな。だから通報もしなかった。悪いな、こっちも客商売だ」
「いいですよ、大方メルトから『たぶん大丈夫だ』とでも言われていたんでしょう?」
十中八九、この主人は本当は助けを呼ぼうとしたのだろう。服装が外出向けのものになっているし、剣がカウンター横にたてかけられている。
俺が逃げて来たらかくまうつもりだったのだろう。
「お前さんが強いとは言われていた。どうやら本当だったようだな」
「ええ。お騒がせしました。もう、剣はしまっても大丈夫ですよ。連中はたぶん明日にはこの街を出ていきますから」
「……ふ、頭の回るやつだ。腕も立つらしい。早く嬢ちゃんを安心させてやりな」
会釈をし、メルトの待つ部屋に向かう。
どうやら他の利用客は既に眠っているのか、物音一つしない。
「ただいまー」
「セイム! 大丈夫だった!?」
「シー……もう遅いから、ね?」
「あ、うん。で、大丈夫なの?」
「やっつけてきた」
「おー……流石ね」
「じゃあ寝ようか。明日は朝に大衆浴場に行って、その後ピジョン商会に行こうかな」
「うん、分かった。やっぱり私も付いて行くね」
さっき宿の廊下に浴場のチラシが張ってあったのですよ。
ふむ……探せばお風呂付の宿もあるかもしれないなぁ。
「ど、どこ!? ここどこ!? ……あ、宿だ」
「ん……おはよう、メルト」
翌朝、メルトの騒がしい声に起こされる。
どうやら寝ぼけていたみたいだ。そうだなぁ、最近ずっとテントの中で寝転がるだけだったし、ベッドで起きるなんて久々だったのだろう。
「おはようセイム。どこかに行くんだっけ?」
「うん、大衆浴場。旅の最中は水で体をふくだけだったからね。大きな湯舟に浸かりたい」
「なるほど……大きいお風呂なんてたぶん、最後に入ったのはまだ集落に人が住んでいた時代ねー私も」
「そっか。大丈夫? ルールとか覚えてる?」
「もちろん、馬鹿にしないでくれる?」
「じゃあ手順を説明して」
「まずお金を払います。脱衣所で服を脱ぎます。次に浴場に入ったら、最初に川で汚れを落とします」
「ストップ。たぶん、ここの浴場に川は流れていない」
「え!? でも身体を流してからじゃないと湯船に入っちゃいけないんだよ! 抜け毛とかあるよ!」
「なるほど……しっかり手順は理解してるっぽいね。たぶん、身体を流す専用の場所があるはずだよ」
「そっか、じゃあ行こう?」
なるほど、獣人さんは抜け毛の問題があるから、人よりむしろそういう浴場での振る舞いはしっかりしているみたいだ。
でもあんまりメルトから毛が抜けるとこは見たことないけどなぁ、道中さんざんしっぽに包まっていた俺が言うんだ、間違いない。
大衆浴場は、冒険者の巣窟ではなく、隣の通りにあるそうだ。
通称『旅宿通り』。文字通り行商人や旅人、遠方に向けて旅をする人間が利用する宿の多い通りだそうだ。
まぁ冒険者といざこざを起こしたくないという人間も多いのだろう。昨日みたいなこともあるのだろうし。
こちらの通りの宿や飲食店は基本的に冒険者の巣窟よりも割高らしいのだが、大衆浴場もその例に漏れず、一回の利用で銀貨一枚、約千円程だそうな。
いや、でも銭湯とかってそもそも幾らくらいするものなの……?
行ったことないからなんとも……でも、ゲーム製作者の記憶をたどると……スーパー銭湯で麻雀してた記憶があるな。スーパー銭湯ってそういうものなのか……?
普通の銭湯なら値段的にはほぼ適正なのか?
「あ、あれじゃない? 煙突が沢山あるあの建物」
「お、たぶんあれだ」
宿が立ち並ぶ通りに、二回り以上周囲の建物より大きい、長い煙突の聳える施設を見つける。
文字は読めないが、チラシで見たのと同じ外観だ。
「よし、じゃあハイ、銀貨一枚と念のためもう一枚渡しておくよ」
「いつもごめんね。いつか自分のお財布をお金で一杯にしたら、ちゃんと返すからね」
「いいよいいよ、これは必要経費なんだから。メルトは俺にいろんなことを教えてくれたし、これから先も教えてもらうつもりなんだから」
「あ、文字も教えるんだったよね。うーん……じゃあ今はお言葉に甘えるね?」
それに、メルトと一緒にいられると、荒みそうになる精神が癒えていくのだ。
正直、俺一人だったらもっと破滅的な行動に出ていたかもしれない。
手っ取り早く武力でなんでも解決したりして、ダンジョンコアだって短絡的にギルドに見せつけ、奪われそうになったらそれも武力で解決。国相手に大立ち回りなんてしていたかもしれない。
たぶん、シレントの強さはそんな選択肢が出てくるくらいには強力だと思うから。
……いやセイムも大概だけどさ。
「じゃ、私女湯だから向こう行くねー!」
「あいあい。じゃあ上がったら……向こうの休憩所で待ち合わせしよう」
「うん! あとでねー」
……微妙に周囲の視線が気になるな。
メルト可愛いからね、仕方ないね。
たぶん、髪色も珍しいからなんだろうな。街中で銀髪や白髪の人なんて見かけないし。
……間違っても昨日みたいに俺が目をつけられている訳じゃないよな?
銭湯、男湯入口の前。そこで注目されるとか……考えすぎだな!
「おい……見ろよ見ろよ……あいつ昨日の……」
「たまげたなぁ……綺麗な顔してんのになんて身体してやがる……」
「ありゃ相当な修羅場を経験してる……はっきり分かんだね」
脱衣所にいたのは、昨日の野次馬さん達でした!!! すみません俺は凶暴な人間なんかじゃないんです!
しかし、確かに脱衣所にある立派な鏡で身体を確認すれば、均整の取れた筋肉に、刻まれた古傷の密度、どう控えめに見ても一般人には見えない風貌だった。
……セイムでこのレベルなら、シレントならどうなっちゃうんだ……。
「おお……かなり広い……異国感あるなー」
浴場に入ると、そこは日本の銭湯とは程遠い、どちらかというと古代ローマやギリシャのテルマエのような様相だった。
これは俺の知識だな。だって映画で見たことあるし。
「蒸し風呂じゃないのは良いな……かけ湯は……あれかな」
噴水のようになっている場所があり、そこも湯気が上っていることから、お湯で間違いないだろう。
手近に桶も置いてあるし、今も新たな利用客が予想通りそこで自分の身体に湯をかけていた。
それに倣い、こちらもかけ湯をしてみると、想像よりも少しだけ高い温度に一瞬驚いてしまった。
が、気持ちいい。まるで体の表面を溶かし洗い流しているかのような錯覚を覚えながら、もう二、三度繰り返す。
「あー……癒される」
そうして、いざ大きな浴槽へ。
思ったよりも水深のある浴槽は、身長が一八〇近くあるセイムの身体でさえ、座ると首までお湯に浸かってしまう程だった。
「あー……生き返るわー……」
思考が、経験と記憶が、この世界に来てから今日までの出来事が、改めて頭の中で再構築され、脳裏に刻まれていくような感覚がする。
リラックスして考えがまとまるって感じだろうか。
きっと、想像以上に俺は気疲れしていたんだな……。
「色々あったな……」
始まりは、恐らく悪意。
あのビッチことイナミは、明らかに俺を館に置いて行くつもりだったはずだ。
それに周囲に嘘までついていた。理由は……なんだろうな。
足手まといになると考えた? いや、俺が助言をして実際にそれを試したことからいってそれはない。少なくとも有用な提案は出来たと自負している。
恐らく純粋に俺があの一団にいるのが我慢ならなかったのだろう。
誰かが言っていたが、元々自分達のグループの人間じゃない俺を、こんな状況下でも排除したいと考えていた、か。
そして、その言葉を全員が信じ、確認も取らずに置いて行った。
正直、あのビッチ以外はそこまで恨んではいない。が、助けようとも関わろうとも思わないし、もしも機会があれば、おもいっきり煽ってやりたいし、あのグループが崩壊しかねない暴露もしてやりたい程度には嫌いになっている。
うん、改めて考えてもあの連中を好意的に捉えるのは無理だ。
次。俺の現状、ログアウトを選ぶことでシズマに戻れる状況について。
これは……要検証だが、同時にシズマとしての自分を鍛えるのも必要になりそうだ。
現状、シズマとしての自分は俺の弱点でしかない。どういう訳か結構恵まれたステータスっぽかったけど、あの元クラスメイトとどっこいどっこいだ。
いずれ拠点を手に入れるかして自由に変身出来る環境を手に入れたら、シズマとして冒険者登録をするべきだろうな。
「……なんにしても必要なのは強さか。もっと強くならないとな……」
結論、やっぱり自己強化、いわゆるレベル上げだな。レベルって制度はなさそうだけど。
あのスクロールで自分の力を視覚化、他人と共有することは出来るっぽいが、レベルという項目はなかった。
が、能力の目安が視覚化される世界だ、自分を鍛える楽しみは元の世界よりは遥かに高い。
そうだな、そのうちメルトの能力も見せてもらえないか聞いてみないと。
「聞こえたか……まだ強くなるつもりだ……」
「素手で手練れの冒険者三人相手に勝ったのにまだ鍛えるのか……」
「三人に勝てるわけないだろ……普通」
く! いつもの野次馬三人組! なんで毎回俺の近くにいるんだよ!
(´・ω・`)気のせいやろ……