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第百四十二話

 馬車に揺られること数分、こんな短い距離でも馬車で迎えに来るあたり、相当ワシは重要視されているのだろう。


 恐らく、既にレミヤ嬢から昨夜の事件について報告もされているはず。

 故に、こちらの力は十分に示されていると見て良いだろう。


「……あ、あの」

「なんじゃ、騎士団長殿」

「その……お、お名前をお聞かせ願えないでしょうか」

「ルーエじゃ。此度は『王家と深く関わるのを避けたい』と願うセイムに代わり、こちらに参った」

「っ……分かりました、ルーエ殿」


 若干の胸の痛みはある。が、ダンジョンコアの入手の発表について、セイムや旅団の存在を公表する必要が何故あるのか、未だワシにはそれが疑問なのだ。

 ……虚偽の報告か否かは、来年になれば否が応でも分かるだろうに。

 春の実りが想定を大きく超えるとなれば、もはや誰も疑わないと思うのだが。


 ……まぁ、地方の領地を見捨ててリンドブルムに集結している貴族が多い以上、諸手を上げて喜ぶ人間だけではないってことだろう。

 それらを納得させる為にも、やはり立役者や関係者の紹介は必須という訳か。


「中々どうして……まだまだ問題が残されている国じゃな……」


 そう一人呟きながら、王宮に到着するのであった。




 王宮に到着すると、ワシはすぐさま謁見の間へと通されることとなった。

 既に人払いはされており、ここには女王とコクリさん、そしてクレス団長の姿しかない。

 跪くべきか否か。……ここはあえて跪こうか。


「『旅団』を取りまとめているルーエと申します。本日はお招きいただき恐悦至極でございますじゃ」


 赤のカーペットを数歩進み、檀上の女王に向かい跪き、臣下の礼を取る。

 どう対応するのか、それを見極める為にも。


「……面を上げてください」

「……陛下のお言葉とは思えませぬの」

「それでも、上げてください。ルーエ殿」


 初対面にも関わらず、こちらに対し敬意を持って接する、この国の頂に存在する人間。

 やはり、シズマは間違っていなかったようだ。

 この国に根を下ろすと決めた、我らが主の選択は、間違っていなかったようだ。

 たった一言のやり取りで、それが伝わってくる。


「……力への畏怖か、それとも恩義からの心遣いか。女王陛下は今、しかとワシの中で『良き為政者』の称号を得ましたぞ」


「それは……恐縮です。今この瞬間、私はこの国の長として、救いをもたらした偉大な戦士達を多数抱え従える、そんな紛れもない英傑と対面しているのだと認識しています。貴殿にそのように言ってもらえて、今心底安堵の息を吐きたい気分ですよ」


 少しだけ、周囲を威圧する空気を弱める。少なくともこの国の最上層は、ワシ達と敵対する意思がないとはっきり分かったのだから。


「まず、今回はご足労頂き誠に感謝します、ルーエ殿。貴殿達『旅団』の面々により、我が国の未来は救われました。それだけならまだしも、我が国の『内部の問題』の為に、貴殿の存在を明かそうとしています。まず、そのことを謝罪させて頂きたい」


「構いませぬ。セイムを下がらせ、ほぼ無関係のワシを代役に立てることを是としてくれた。それだけで、こちらは最大限の譲歩をして頂いたようなものですから」


「そう言って頂けて、こちらこそ恐縮です。そちらのお陰で、此度の戦の被害を最小限に抑えることが出来たのですから……まさか、ゴルダ側のダンジョンコアまで所有していたとは、本当に想定外でした」


「それはこちらも当時は驚いたものです。我が団に所属しているシレントが、まさか異世界から召喚された勇者で……召喚直後、自分を呼び出したダンジョンマスターを殺害したなんて、初めて聞かされた時は耳を疑いましたからのう……」


「それはそうでしょうね。しかし、そちらは初めてダンジョンコアを入手した段階で、何かに思い当たり、更なるコアを求めたのではないですか?」


「少し違いますのう。当時、我が団の副団長を務めていたセイムは、シレントの話を聞き『ダンジョンは本人の意思を無視して人を違う世界に拉致してくる邪悪な存在だ』と判断したようじゃった。が、コアそのものには大地を豊かにする力があることを、シレントから聞かされていた為、コアを入手し、痩せつつあったこの大陸の南部、つまりレンディアを豊かにすれば、コアをめぐって引き起こされるかもしれない諍いを、未然に防げるのではないかと考えたのじゃ」


「なんと……では最初から平和の為にダンジョンに挑んだというのですか」


「いえ、あれはセイムの独断ですじゃ。が、ワシらはその考えを支持したのじゃ。セイムは元々、親しい友に新しい故郷を与えようと旅をしていた者なのじゃ。それで、今回のコアの入手により、この国に移住するだけでなく、一定の地位を得ようと動き出した。ワシら旅団としては、有能な副団長と、将来有望な若者を同時に失うという痛手じゃが、本人達がこの国に根を下ろしたいと言う以上、反対は出来ませんからの。なら、ワシに出来るのは、友の新たな故郷の問題を少しでも減らし、この国が真に信用出来る国なのか見極めることのみ……ですじゃ」


「それが……コアを献上し、我が国に助力してくれた本当の理由……なのですね」

「そうなりますの」


「さらに、早速貴殿は我が国の問題の一つ……難民の移住問題とこれに付随していた犯罪、人身売買を未然に防いでくれた訳ですね?」


「いや、あれは成り行きですじゃ。が、セイムはどうやら、難民の移住に対して、こういう問題が起きることを予期していたみたいでの。ワシも警戒はしておったのじゃ」


「実際、貴殿の予想通り、倉庫街から多数の難民が見つかっています。危なく、我が国が『敵対国を滅ぼしその国民を奴隷として売る鬼畜国家』というそしりを受けるところでした」


「しかし奴隷を海外に輸出するとなると、相応の人脈や人員が必要になるはずですからのう……恐らく、何者かが背後にいたと思われますが……つい、皆殺しにしてしもうた」


 探れば、アジトからなんらかの情報は出てくるとは思うが、大した情報は出てこないだろう。

 奴隷が何の目的で輸出されるのか、それだけでも分かれば良いのじゃが。


「なんらかの組織が関わっていた可能性は視野に入れています。しかし、我が国は隣大陸とのつながりが薄く、これ以上の調査は断念せざるを得ない状況です。お恥ずかしながら、この大陸は……他大陸と比べてあまりにも立場が弱いですから。故に、今回のダンジョンコアの入手、恩恵を受けているという事実を大々的に発表したい、という側面もあるのです」


「なるほどの。あい分かった。セイムではないが、ワシがしっかりとコア取得の事実を皆に知らしめましょう。疑る者も出るじゃろうが……事実か否かは雪解けの季節になればわかるじゃろて。国はただ、増加するであろう魔物の対策をどうすべきか、そこだけを考えておくれ」


「感謝します、ルーエ殿。では……発表の席は、新年度の始まりを祝う貴族の集まり、晩餐会にて行うとしましょう。国民への発表はその後、国から直接放送します」


「なるほどの。貴族はすぐにでも自分の領地に戻る必要が出てくる、か。地方まで発表を行き渡らせるにはその方がいいじゃろうな。日取りは? その席に出るのはワシだけで良いんかの?」


「晩餐会は、今年度の予算をどう割り振るか、その会議の後に行われます。例年通り会議は今月末、二月の三〇日に行われますので、その日を目途にご用意頂ければ。晩餐会には旅団のメンバーやメルト嬢を連れてくるのでしたら歓迎します」


「分かった、ではメルトちゃんを出席させようかの。彼女はセイムと共に焦土の渓谷の最深部まで到達した娘じゃからの」


 よかった、メルトちゃんにもこういう席を経験させてあげることが出来そうだ。

 となると……衣装が必要じゃな……装備で何か都合の良いものがないか見繕うか、それとも今からオーダーメイドで間に合うじゃろうか?


「では、約二週間後の晩餐会の日に迎えを手配します。夕刻にはご自宅でお待ちください」

「うむ。ご配慮痛み入る、女王陛下」


 終始、女王とは思えない程、こちらに敬意を持ち接してくれた彼女に、こちらも応えよう。

 ……旅団、そしてその団長という存在は、もはやここまでの扱いになってしまうのか……。


「晩餐会に出る以上、衣装が必要になると思うのじゃが……ワシはともかく、メルトちゃんの衣装はどうするべきか。今から作って間に合うものなんじゃろうか?」


「ふむ……コクリ、手配は可能か?」

「そうですね、メルトさんの体格は私と近いですから、職人に私の使っていないドレスを手直しさせれば間に合うかと」


「ほう、よろしいんですかの? 貴重なドレスを貸してもらえるとは」

「実は、着たことのないドレスが大量に眠っている状態でして。私はああいった席でドレスは着ないので」

「なるほど……では、お言葉に甘えさせてもらいますかの」


 正直、助かる。それにドレスを合わせて貰えるのなら、後程ワシが買い取ることも出来るだろう。

 メルトちゃんにそういう式典用の衣装を一着、持たせておくのも良いかもしれん。


「ふむ……メルトちゃんはご自宅に?」

「そうじゃの、家で休んでおるよ」

「では、後ほどドレスを数着そちらに持っていきます。職人を同席させますので、その場でどのドレスにするか決めた後、すぐに作業に取り掛からせます」

「おお! それは助かりますじゃ。感謝しますぞ、コクリさん」


 そうして晩餐会の日取りを教えてもらい、コアの発表についての打ち合わせと顔合わせを済ませたワシは、再び王宮の馬車に乗せられ、自宅に送ってもらうのだった。

 ま、雨も降っておるしの。お言葉に甘えさせてもらった。




「ルーエ殿」

「ん? どうしたんじゃ、騎士団長殿」


 帰りの馬車の中、同行してくれていたクレス騎士団長が、どこか緊張した様子で話しかけてきた。


「そちらの旅団で預かっているシズマという青年は元気でしょうか?」

「ん、そういえばシズマと面識があったのじゃったな。その節は世話になったの。シズマは元気じゃよ。目的を一先ず達成して、今はのんびりしているはずじゃ」

「そうですか、元気で安心しました。その、彼は晩餐会に出席したりは……? いえ、あの、彼は我が国の貴族の反乱を未然に防ぐ作戦の功労者ですから、十分に出席の資格はあるかと思いまして」


 ふむ、確かに言われてみればそうじゃな。セイムとしての偉業やシレントとしての活躍もさることながら、シズマはシズマとして、暴走状態の人工ダンジョンの走破に、オールヘウス侯爵の屋敷にてかなりの戦果を上げておるな。


 もし、召喚して意思を持たせることが出来れば、シズマとしてワシを召喚するという手もあったのだがのう。


「残念ながら、こういう席にシズマは出たがらないじゃろうなぁ。元々、自分のいた世界ではただの学徒であったようじゃしな」

「そう……ですか。分かりました」


 ふむ? この騎士団長殿は、シズマに会いたかったのだろうか?

 まぁ確かに若くしてあそこまで戦果を上げられる人間、騎士団以外でも引く手数多だろう。


 さてさて、では帰ったらメルトちゃんにドレスの話をせんといかんな。

 ほほ、喜ぶ顔が目に浮かぶわい。

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