第十三話
(´・ω・`)作者はハムスターが大好きなんや……
「はむす亭……」
「うん、はむす亭……」
「ちなみにメルトはハムスターって知ってる?」
俺達は辿り着いた。その問題の宿『はむす亭』に。
名前こそおかしいが、外観は他の宿と特に変わった様子もなく、こぢんまりとした、どこか温かな印象を受ける宿だ。
今は肌寒い季節だが、もしかしたら夏になれば、宿の前にある花壇にひまわりでも植えるのではないだろうか?
「『ハムスター』は隣の大陸『ララレイア』の内陸部にある巨大な湖、そこに浮かぶ島に存在する独立国家『ハムステルダム』固有の精霊種だよ。大きさはまちまちで、小さいのは親指程度から、大きいのは私の身長くらいの個体もいるんだよ。ハムステルダムではハムスターを崇め、崇拝し、共存しているんだって」
「……なんだって?」
どうやら俺が知ってるハムスターとは関係ない生き物みたいです。
「こんにちはー」
「こんにちは!」
はむす亭の扉を開け、まずあいさつをすると、受付にいた女性がにこやかに応対してくれた。
「お二人さんかい? 一泊なら銀貨二枚だよ。もしも長期契約なら一月で銀貨五〇。食事つきなら一泊銀貨三枚、一月で銀貨七〇だね」
ほほう、銀貨二枚か。銀貨一枚の価値は大体千円くらいって認識だから、一泊二千円、食事つきで三千円はかなり格安だと感じるな、日本人の感覚だと。
ふむ……とりあえず生活の基盤を作ったり、生活に慣れるためにも長期で契約しておくべきかな?
「じゃ、じゃあ私は一泊で……銀貨三枚、はい」
「うん? 二人で銀貨三枚だよ、お嬢さん」
「あ、そうなんだ……じゃあええと……銀貨一枚と銅貨五枚?」
む、なんで分ける必要があるんですか。
「メルト、俺が払うよ。すみません、二人で食事なしで一月お願いします。支払い大金貨一枚で」
「あいよ。珍しいね大金貨なんて」
宿のおかみさんらしき女性から鍵を受け取り、二人用の部屋へと向かう。
以外にもこの宿は三階建てらしく……長期の客は三階を使うことになるらしい。
「ええと……いいの? 私もうお金残り少ないから一泊だけしてお金稼ごうと思ったんだけど……」
「いやいや、この国に連れてきたのは俺だよ? 生活が落ち着くまでは俺が面倒見るのは当然じゃないか」
「あ、ありがとうセイム……私頑張ってお金稼げるようになるよ。だから……もし家を買ったら、お家賃払うから一緒に住んでもいいよね……?」
「そりゃもちろん」
別に家賃の必要はないけれど、なんだか彼女は義理堅そうだし遠慮しそうだしな、とりあえず受け取るって言っておこうか。
「さて、じゃあ俺について教えるって約束してたからね。教えるよ」
「う、うん。いよいよセイムの秘密が……」
どこから説明しようか……分かりやすく掻い摘んで……でいいかな。
「俺は、この世界じゃない場所から召喚されたらしいんだ」
「うん、それで?」
「え!? 反応薄くない!?」
「いや、だってゴルダで異世界の勇者候補が呼ばれたのは噂で知ってたし……ほら、私が谷底のダンジョンで、あの子達の捜索を依頼されていたでしょう? そこで兵士の人達の噂? 愚痴っていうのかな? そこで色々探ったから知っているんだけど……」
「そうだったのか……うん、じゃあ俺も一緒に呼ばれた人間なんだよ」
「やっぱりそうなんだ。でも人種? 種族? が違うよね」
「ああ、それは……俺が召喚された時、あの大森林の中にあるお屋敷のダンジョンマスターが力をくれたんだよ」
彼女にとって、もしかしたら因縁のあるダンジョンマスターの話をしたところで、彼女の耳がピクリと震えた。
「ダンジョンマスターから……力……」
「そもそも召喚ってダンジョンでするものなんだ?」
「うん、そうだよ。供物をダンジョンに捧げるの。それで、ダンジョンマスターが供物を受け取って、外の世界から魂を連れてくる……召喚というよりも、契約なのかな。私はそれで囚われた原住民っていう扱い。だから本能的に自分がどういう存在で、どういう扱いなのかは分からされるんだ」
「そうだったんだ。それで、ダンジョンマスター……グリムだったかな。そいつが俺達全員に力をくれるって言ったんだ。だから俺は……元々俺の魂の中に眠っている人間、その姿になれる力を授かったんだ」
とりあえず、通じるように『魂に人が眠っている』という形で説明にする。
「え!? 魂に人が宿ってる……生まれ変わりとか、そういうのなのかな? なんだかそういう神話とか知ってるよ、私。セイムは別な世界の神様なの?」
「いや、そんなんじゃないよ。まぁたまたまそういう人間だったってことで納得してくれないかな?」
「う、うん。そっか……別の世界だもんね……不思議な人もいるのかも?」
「そういうこと。だから俺は姿を変えられるんだ。ちなみに他の連中が俺を分からないのは、本来の姿じゃないからってこと」
「じゃあ、始めに見たあの大きい恐い男の人がセイムなの?」
「いや、あれも違うよ。他の連中と同じくらいの年齢人間」
「じゃ、じゃあ元の姿も見てみたい」
それって可能なんですかね?
いや……メニュー画面で切り替え可能なのは持ちキャラだけだ……じゃあ俺ってもう元の姿には戻れないのかね……?
流石に愛着というか、人生のすべてを過ごした肉体だったんだけどな。
まぁ願いで『ネトゲの自キャラにして』なんて願った時点で、それほど愛着があったわけじゃないのかも。
「うーん……」
「見せたくない? 信用出来ないかな」
「いや、そうじゃなくて……戻り方を知らないんだ……」
「え!? それって大丈夫……?」
もし、このメニューにある『ログアウト』を使ったらどうなるのだろうか?
もしかして戻れるのか? 試してみるのもありか……?
「よし。メルト、今からちょっと実験するから、この荷物を受け取って欲しい」
俺はそう言うと、メニューにしまい込んでいた大金貨の詰まっていた樽から、大金貨の一部を移し替えた革袋を取り出しメルトに手渡す。
「これは?」
「俺が今から元の姿に戻れるか実験するけど、もしかしたら俺は消えちゃうかもしれない。もし消えたら、その袋の中身をあげる。これからの生活にどうか使って欲しい」
「え!? ちょっと待ってよ!!」
いつかは実験するつもりだったんだ。なら、せめて価値ある物を人に残せる状態で試したいじゃないか。
俺は意を決して、ログアウトを選んでみる。
すると――
「あれ……どうなった……?」
光に一瞬包まれたと思った。が、今はもうなんともない。
声……変わったか? 自分じゃよく分からない。
部屋に鏡は――
「セイム! なんでそんな危ないことしたの!? 消えるって、死んじゃうってこと!? これ中身お金だよ、凄い大金! 死ぬつもりだったの!?」
「どわ!」
次の瞬間、怒声と共にメルトが突進してきた。
そのままベッドに倒れこみ、引き続き胸にダメージを断続的に受ける。
いたいいたいいたいいたい! 叩かないで!
「ご、ごめんごめん……いやもしかしたら……元の世界に還っちゃうかもって思ってさ」
「そんな危ないことさせてまで元の姿なんて見なくていいよ……もう絶対にやらないで」
「いやほんとごめん……ところで……俺の姿変わってる?」
いやごめんなさい、軽い気持ちでやることじゃなかった。
マジで人生ログアウトとかありえたもんな。それに……お金だけ渡して一人放っておくのもどうかしてた。
「変わってるよ、うん。子供になってる」
「子供って……まぁ確かにセイムより背が低いけど」
アジア人って童顔に見られがちなんだっけ?
「名前、違うの?」
「姿ごとに名前が違うけど、全部覚える?」
「そ、そんなに多いの……?」
「あと二〇人以上とだけ」
「ええ……元の姿の名前はなぁに?」
「シズマだよ。でも、訳あってこの姿はあまり出さないようにしてたんだ。ほら、あの召喚された他の連中、あいつらと関わりたくなくて」
「そっか。でもあの子達がゴルダにいるならたぶん大丈夫だと思うよ」
「だといいけど……でもとりあえず宿にもギルドにもセイムで登録したからね、戻っておくよ」
「それもそだね。うーん……セイム子供だったんだ……」
「いやいや、子供子供って、今年で一七歳なんですが」
「え!? うそ、私と同じだ! ぜんぜん見えない!」
「くっそー……そんなに幼く見えるのか」
セイムに戻すにはどうすればいいか考えていると、どうやらこの姿でもメニュー画面は開ける様子。
早速その項目を確認してみると――
「あれ……この姿でもステータスって表示されるのか」
体力 120
筋力 120
魔力 70
精神力 90
俊敏力 70
【成長率 最高 完全反映】
【高速移動】
【投擲】
【料理Lv1】
【細工Lv1】
【裁縫Lv1】
【剣術Lv1】
【盗賊の心得Lv1】
【剣士の心得Lv1】
【戦士の心得Lv1】
【傭兵の心得Lv1】
「なんだこりゃ」
これ、今まで試したキャラクターのスキルとか、セイムで戦ってる時のスキル、それにシレントとして試したスキルやデフォルトのスキルがこっちにも反映されている……。
どういうことだ? シレントのスキルはセイムには引き継がれなかったのに……。
「……要検証だな」
ひとまず、セイムの姿に戻る。
「あ、戻った。うーん……子供のままでもいいよ? なんだか落ち着くし」
「俺が落ち着かないの。それにあの姿だと弱いし」
「そうなの? なら仕方ないね」
けど、もしも元の姿なら……生産職のスキルだけでなく、全てのスキルを引き継げるのならば、最終的に一番強いのは元の姿……?
折を見てシズマとして冒険者登録するのもありかもしれないな。
「うーん……ねぇねぇ、他にはどんな姿になれるの? あ! でももしまた消える危険性があるならやらなくていいよ!」
「あ、それはもう大丈夫。危険性はないって判明したから」
「そっかーよかったー……」
「んー、じゃあシレント、最初の大きな男になってみようか」
「あの恐い人? 中身がセイムだって分かってるなら大丈夫、変わってみてよ」
さぁ、いざ我が1STキャラクターシレントさん、いでよ! いや俺がなるんだけどさ。
視線がスっと高くなり、天井が近づく。
無事にシレントになれたようだ。
「ひゃー……やっぱりすごい迫力……めちゃめちゃ強そう……」
「やっぱりそう見える?」
「ひ! 声も恐い! 強そうだよ凄く……気配がなんかこう……大きな魔物と対峙してる時くらい恐いもん」
「まぁ実際、俺が変身できる中だとシレントは結構強い方だからなぁ……ああ、シレントってこの姿の名前ね?」
「シレント……分かった、覚えたよ」
なんだか反応が新鮮なので、喜んで次のキャラクターを変更していくことに。
では次は……最初にセイムで料理を覚える為に変身した生産職に変身だ。
「よっと」
視線が急激に低くなる。セイムとほぼ同じか、少し高いくらいだろうか。
「うわ!? 女の人になった!? 性別まで変わるの!?」
「そうなんだよね。ちなみに、この姿は物凄く料理上手だと思うよ。セイムの料理だって、この姿の力の一部を借りてるようなものだから」
「へー!!! じゃあ今度何か作って! ……あ、そうだ思い出した……どうして宿の契約、ご飯無しにしたの? 一か月もご飯無しじゃ死んじゃうよ?」
「あ、それはもちろんいろんなお店で食べたりするつもりだからだよ」
ははは、一か月飲まず食わずだとでも思ったのか。先程宿の近くを見回しただけで、相当数飲食店、酒場があったのは確認済みなのだよ。
資金に余裕もあるのだし、この世界の食事事情を調べる為にも食べ歩きをするんですよ。
と、説明。
「素敵ね! 凄く贅沢だわ、あちこちで食べるなんて。どんな料理があるのかな、街には……私、料理って食べたのおばあちゃんが生きていた頃と、旅の途中にセイムが分けてくれた料理だけだから、何も知らないんだー」
「え!? じゃあそれまではどうしてたんだい?」
「茹でたり焼いたりして、塩とハーブと一緒に食べてたよ。それだけでも十分だったけど……セイムのごはん食べてから世界が変わったんだ。凄いよ、食事の時間が待ち遠しくて、一日が楽しみになるんだよ」
く、哀れで可愛い! これからいろんなもの食べさせてやるからな!
思わず抱きしめてしまった。なんだかこう、たまらなくなった。
なんだ、これはこのキャラ『セイラ』の感情だとでもいうのか。
ネーミングの由来? そりゃもうセイムから察してください。
「うわっぷ! おっぱい苦しい」
「ごめんごめん、ついつい」
「……美人さんねー? おっぱいも大きい」
「あー……確かにそうですね」
この容姿の確認で、一晩でかなり精神的に鍛えられました、とだけ。
理性をね、総動員したんですよ。
ちなみにこのキャラクターは『料理人』『軽戦士』のジョブを持っています。
キャラクターのバックボーンとしては『料理人を志し旅をしている女性。護身のために包丁と同じ大きさのダガーを扱うのが得意。元々は貴族の家に仕えていた』てな感じになっております。
ついでに言うと、俺の数あるキャラクターを育成出来たのも、このキャラクターのお陰だったりします。
やっぱりね、育成にお金はかかるものなんですよ。
金策の為に大活躍したのが料理人なんです。
具体的に言うと『極めた料理人の作る料理はバフアイテムとして非常に需要が高い』んです。マーケットに流すと飛ぶように売れるんですわ。
まぁ生産職極めてるユーザーって少ないからね。
「今日はこのあたりでやめておこうか。セイムに戻ったらご飯食べに行こうか」
「! うん、行こう!」
さてさて、それじゃあメルトの人生の喜びになりつつある食事を堪能しに参りましょうかね。
(´・ω・` )、
チューチュー




