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第百二十九話

(´・ω・`)お待たせしました、第二部開始です

 光が完全に収まる。

 そこに立っていたのは見紛うことなく、俺の持ちキャラの一人であるシーレだった。


 ローズピンクの瞳が、日の光を受けて美しく輝く。


 少しだけ朱に染まりつつある日差しを受けた髪もまた、銀に朱を溶かし込む。


 確かにシーレが、何も言わず、表情一つ動かさず、そこに立っていたのだ。


「シーレだ! あれ!? でもセイムもここにいるよ!? どうなってるの!?」

「シーレ、こっちの声が聞こえる?」


 微動だにしない。まるで人形のように……いや……NPCのように。


 ……まさか、この機能は本当に【採取】や【門番】や、それぞれの技能を使う【生産】を指示するだけの、いわばNPCとして召喚するだけの機能なのだろうか……?


「シーレ? ねぇシーレってば……! セイム……どうしよう、シーレの様子がおかしいわ」

「あ、ああ……」


 メニュー画面にて、俺は【採取】の項目を選ぶ。

 すると、シーレが颯爽と歩き出し、近くの森に入っていってしまった。


「あ! シーレどこ行くの!?」

「追いかけよう、メルト」


 恐らく、本当に採取に向かったのだろう。

 本来は採取場所を指定して派遣すると、場所に応じた生産用の素材をランダムに入手してくる機能なのだが、この世界では近場で採取してくるのだろうか?




「……シーレがキノコ狩りしてる……しかもちゃんと食べられるの選んで」

「ふむ……シーレはこの世界の植物についてもある程度調べていたのか……」

「ねぇねぇ、これってどういうことなの?」

「シーレは今……たぶん、心が宿ってない、簡単な命令しか実行出来ない状態なんだ。魂は俺の中に宿ったまま……姿だけを召喚して、簡単な指示を出せる、そういう新しい力をさっきコアをいじっていたら目覚めた……って感じかな」

「なるほど……そっか。なんだか少しだけ寂しいわ。シーレとおしゃべりしたかったのに」

「はは……そうだね」


 もう……俺がシーレになっても、彼女の人格は現れないけれど。

 だが、ハッシュは完全ではないにしろ、そしてスティルは完全に自分の人格を表に出せていた。

 シーレも、その気になれば出来るのではないか……?


 いや……違うか。彼女は本質的に俺とは別人だ。

 だからもう、俺と魂が同化した以上、俺の人格を退かすことなんて出来ないんだろうな。


 どこまで行っても俺の人格+キャラクター人格だからこそ、スティルは俺の前面に出られた。

 それに加え、元々の人格が非常に我の強いものだったのだろう。


 そしてシーレも、別の魂が根本にあるから、ある程度自由に身体の前面に出てくることが出来た。

 だが、既に俺の魂と同化している以上、前のように自由に動けない上、根本が別人だから、俺の人格を押しのける程の力が備わってない……と考えるのが自然か?


 ……そもそも、彼女は俺の魂と同化し、他の人格と一緒に過ごすことを望んでいたんだ。

 俺の我儘で表に出すなんてことはしたくない。


 だがもし、この外に出てきた身体にシーレの人格が宿っていたら……寂しい思いをさせることなく、一緒にいられるのではないだろうか……。


 俺とメルトと、シーレと。ずっと一緒にいられたら……なんてな。


「そろそろ暗くなる。今日はバスの中で眠ろうか」

「うん、そうね。そっか……あれならテントよりも快適ね?」

「人目に付く場所では使えないけどね」

「そっかー……いいえ違うわ! 私の魔法で土で囲んじゃえば『なんか小高い丘が出来てる』くらいに誤魔化せるわ! 私、あったまいい!」

「なるほど……なら土に埋めた方が目立たないね。お風呂の時みたいに」

「……セイムの方が頭良かった……」


 なんかごめん。


「ねぇねぇ、シーレと一緒に寝てもいい?」


 メルトが無表情無反応のシーレと手を繋ぎ、こちらに連れてきてそんなことを聞いてきた。


 ……ふむ、問題なければそれでもいいのだが、現状シーレは無反応ではあるが人間だ。

 どこまで自発的に動けるのか分からない、言ってしまえば『何をするか分からない』のだ。


「んー、シーレがどこまで動けるか分からない。もし、寝苦しくても自分で動けない、眠れなくても自分で眠れない、トイレに行きたくなっても自分で行けない。そんな風に行動がどこまで制限されているか分からない状態だからね。検証してからならいいけど、今日のところは一度戻そう?」

「そっか……どうにかしてシーレをシーレに出来ないかしらねー……」

「そうだなぁ……」


 名残惜しそうにしているところ申し訳ないが、一度シーレを帰還させる。

 するとやはり『オーダー可能キャラクター0/1』という表示に戻った。


 この最大人数もどうして一人なのか、考えないとな……。

 一先ずバスを召喚し、今日のところは中で眠ることにする。


「ね、ねぇ……夜勝手に『ブルルルン!』って音がして動いたりしない……?」

「はは、大丈夫だよ。勝手に動いたりはしないから」


 ふむ……エンジンをかけなくても空調って効かせられるだろうか?

 一応毛布は持ち運んでいるが、暖房をつけられたら快適なのだが。


 いや……ガスとか必要なんだっけ? それは冷房だっけ?

 よく分からないな……。


「あれ? でもライトは普通に点くな。エンジンかけなくても点くのか」

「おー! 光った光った! 小さいのに明るい照明魔導具ねー」

「魔導具じゃないぞー、別なエネルギーで点いてるんだ」

「へー! シズマの住んでいた世界って凄いのねぇ」


 俺から言わせれば魔法の方が凄いのだが。

 ふーむ……バッテリーとか、そのうち使えなくなっちゃうんだろうなぁ。


「あら? ねぇねぇシズマ、椅子のところに何か落ちていたわ」


 するとその時、一番後ろの後部座席で横になり、毛布を被っていたメルトが、何かを見つけたと言い、白いビニール袋を持ち出してきた。


 回収忘れがあったのか。誰かが旅行中にコンビニで買い物したんだな?

 懐かしのコンビニロゴが印刷されている。


「メルト、たぶん中身ダメになってるだろうから、外に捨てるんだ」


 もし、コンビニでホットスナックとかおにぎりとか買ってあった日には……もう恐ろしくて袋の中身が見られませんな……!


「え? 捨てるの? ……なんだかおいしそうな匂いするよ? もったいないよ?」

「え? そんな訳が……」


 メルトが差し出す、某コンビニのビニール袋。

 それを受け取ると、確かに……ホットスナック、から揚げの香りが漂ってきた。

 それだけじゃない、触ると確かにまだ……仄かに温かいのだ。


「なんで……!? そんなはず……!」


 ふと、俺は自分のリュックサックを取り出し、そこにしまわれていた未開封のスポーツドリンクをもう一度取り出す。


「……確かに冷たい、でもそれは冬の森の中に放置していたからじゃ……」


 もし、違ったら? 俺達がバスごと召喚されたあの直前、たしかコンビニに寄っていたが、その時購入したドリンクがそのままの温度だっただけなのだとしたら?

 この、まだ温かいから揚げも同じ理由なのではないか……?


「……あむ」


 意を決して、からあげを一つ食べる。

 まだカリッとした食感と温かさ、肉の水分が保たれていた。

 つまり……買ってからあまり時間が経っていない状態だ。


「あー! 食べたー! 私が見つけたのにー」

「い、いや……ちょっと確かめたいことがあって……」

「私も確かめてあげるわ!」


 すると、メルトがからあげを奪い、パクっと一つ食べてしまった。


「美味しい! ダージーパイに似てるね! 一口で食べやすいわ!」

「あ、ああ……そうだね」


 どうなっている……? アイテムボックスに入った物品の時間が停まるのは知っている。

 だが、これはずっとバスと一緒にこの森に放置されていたもののはずだ。

 この現象にアイテムボックスへの収納の有無は関係ないはずだ。


「また考えることが増えてしまった……よし今日はもう寝る!」

「わはっは!」

「メルト、念の為食べるのはそこまでにしておこうね。そろそろ寝るよ」

「んぐ……了解よ。はい、ごちそうさま」


 そう言うと、彼女は空になったからあげの容器を手渡してきた。

 ……遅かった!


「じゃあおやすみなさい、セイム」

「うん、おやすみ、メルト」


 ライトを消し、目を閉じる。

 少しだけ肌寒いが、しっかりと毛布を身体に巻き付け、意識が、落ちる――








 もう、学習した。この感覚は、夢であり夢じゃない、俺の精神世界だ。

 目を開く。そこはバスの中ではなく、一度見たことのある、円卓が置かれている闇の世界。


 スティルと会う時はただの闇の世界だったのだが、この差はなんなのだろうか。

 今回も俺はシーレに呼び出されたのかと、辺りを見回す。


 だが、無人の円卓が置かれているだけで、そこに誰の姿もない。

 俺は、誰に呼ばれてここに来たんだ?


「……椅子の数は……キャラの数と同じだな」


 俺は、今回も一つだけ違う装飾のされた椅子に腰かける。

 本能的に、ここが上座であり、俺が座るべき場所だと感じるのだ。


「よう、やっと直接話せるな、シズマ」

「っ!?」


 その時、すぐ隣から突然声を掛けられる。

 驚きに一瞬身体を跳ねさせ振り向くと、そこには、見知った姿が、シレントの姿があった。


「シレント!? 今回はお前が俺を呼んだのか!?」

「いや、そうじゃない。『俺達』だ」


 その言葉に疑問を持った瞬間、円卓の席が次々に埋まっていく。

 まるで、最初から座っていたかのように。


 シレント、レント、シーレ、セイム、セイラ、ハッシュ、そして……スティル。

 次々と、まばらに席が埋まっていく。が、俺にはそのまばらに埋まる理由がすぐに理解出来た。


『作られた順番』だ。そして……『この世界で使ったことのあるキャラクター達』だ。

 ……あれ? じゃあレントってなんでいるんだ? レントは確かこの世界に来た初日、ダンジョンから抜け出して、真っ先に姿を確認してすぐに戻しただけなのに。


「あ! シズマ今何考えてるか分かるぞ! なんで私がここにいるんだって思ってるでしょ! そんなの私が聞きたいよ!」

「えーと……レントはなんで怒ってるんだ?」

「……自分の胸に手を当ててよーく考えてみてよ」

「……作って着せ替えして遊んでずっと放置してて申し訳ありませんでした……」

「ん。よろしい」


 す、すみません……名ばかりセカンドキャラクターさん……。


「本題に戻るぞ、シズマ」


 隣のシレントが、空気を変えるように真剣な声色で話し始める。


「今回、シズマが新たに手に入れた力についてだ。俺達もシズマの心の中で、大きな出来事があればそれを窺い知ることが出来る。この『ハウジング機能の制限解除』に関する衝撃は、俺達にも伝わって来た。この力について話し合いたいと思ってな」

「なるほど……こうしてみんなと話せるのって新鮮だよ。初めましてって気持ちは湧かないけれど」


 まるで、久々に会った家族のような、そんな親しみと信頼感を覚える。


「ずっと一緒だったもの。私達は一心同体、いつだって傍にいるわ」

「ええ、そうですとも。我らはシズマを主旋律としたシンフォニーの如き存在。常に寄り添い、共に人生を奏でる同志なのですから」


 セイラとハッシュが、嬉しそうな笑みを浮かべながら語る。

 あとハッシュ、こうして直に見ると癖が強いぞ、凄く。


「で、だ。俺達の意見をシーレが纏めた。報告してくれるか?」

「ええ、分かりました。シズマ、先程まで私を召喚していましたよね?」

「え、ああしていたね」


 シーレが、真剣な表情で語り始める。


「実はその最中、私の意識は完全にこの場所から消えていたそうです。ですが、他の皆さんはこの円卓で、シズマの感情を観測出来ていた。つまり普段と変わらなかったそうです。このことから、私は確かに、召喚されたあの身体の中に宿っていたはずなんです。ですが、一切その記憶もなければ、シズマも私から生き物の気配、意識のようなものを感じられなかったのですよね?」

「そうだね、指示通りに採取を近くでするだけだった。ある程度呼べば付いてきてくれたけれど」

「なるほど。それともう一つです。現状、オーダーを与えられる人間が一人だけだということについてですが、もしかすれば『所有しているダンジョンコアの数』が関係しているのではないでしょうか? ダンジョンコアを正規の場所で使ったことで解禁された能力です、無関係ではないかと」

「なるほど……一応、人工ダンジョンで手に入れた歪な成長をしたコアと、イサカの胸からスティルが取り出したコアもあるけど……それはノーカウントなのかな」

「そうでしょうね、ダンジョンに根差したモノではないでしょうし」


 ふむ……これは他のダンジョンを攻略する理由になるな。


「ちなみに、先程からチラチラこちらに視線を向けている『彼』がこのコアの数が召喚数に関係しているのではないかと真っ先に指摘したんです」


 その時、なぜかシーレがため息を吐きながら、呆れたように視線を俺の背後へ向けた。

 ふむ? いったいどこを見ているのかと、俺もその視線の先へ振り返ってみると――


「うわ!」

「ふふふ、こんばんは、我が主」


 振り返ると、すぐ近くにスティルが満面の笑みで立っていた。

 え、恐い! 圧が恐い! 近くで見ると顔面偏差値高い! でもそれが逆に恐い!


「早速またこうして会えましたねぇ! ほら、見てください。私もこの場所に来ることが出来た……それ即ち、主に認められたということ! 警戒心や未知への恐怖、そういった不安を我々は突破出来ませんからねぇ! ここに来られない者は皆、主が警戒しているか、まだ未知であることを恐れている証! しかし私はこうしてここにいる! 嗚呼……我が主シズマ、感謝致します」


 ……恐い通り越して若干引いています。


「んで、なんでコアの数が召喚可能数と連動しているって思ったんだ? 確かに関係していそうではあるけれど」

「簡単な話です。恐らく異世界の勇者召喚は、ダンジョンマスターであっても容易なことではない。故に生贄を必要としているのでしょう。つまり『この世界の者ではない人間』を呼び出すというのは非常に困難だという証拠。たとえキャラクターの召喚だとしても、それは人間と変わらない。つまり生贄……いえ、この場合は依り代となる何かが必要なのでしょう? そしてそれは、恐らく勇者召喚が可能な、強大な力を持つダンジョンマスターのコアに他ならない。私はそう推理しました」


 ……こいつ、こんなんだけどマジで有能というか、頭がよく回るよな。


「なるほど。スティル、お前やっぱりよく気が付くよ、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして。まぁ伊達に? 主の持つ『三強』の一角ではありませんし? これくらいどうってことありませんよ」


 物凄いドヤ顔で周囲を見渡すスティルに、他の面々が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 ……この人達喧嘩してるの? それともこういう性格なのかコイツ……。


「さて、まだ他にも気になることがあるそうですが、今回は『彼女』が主にお話があるそうですよ。聞いてあげてください」

「ん?」


 すると、スティルはある方向を指し示した。

 そこには、何やら言いにくそうにしているレントの姿が。

 はて……どういった話があるのだろうか?

(´・ω・`)本日より特典SSのサポーター限定公開も再開しました。

(´・ω・`)また、新作の方もカクヨムにてストックがつきるまで毎日17時に更新予定です。

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