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第百二十三話

 翌朝、朝早くから王宮へと向かう。

 まだまだ戦後処理で忙しいであろう王宮に、アポイント無しで向かうことへの罪悪感はある。

 だが、今だけはこの我儘を通させてもらう。この戦争に関わる最後の目的を果たす為に。


「門番さん、おはようございます」

「セイム様……! 至急、取り次いで参ります」


 門番さんの反応が、もはや要人に対するそれと変わらなくなっていた。

 昨日の一件も無関係ではないのだろう。今、この国は本当に『旅団ならびにセイムとの関係崩壊の瀬戸際に立たされている』と感じているのだろう。


 確かに、スティルの言うように『不健全』ではある。だが、必然でもある。

 これは俺が架空の組織『旅団』の存在を仄めかし、所属する人間としてキャラクター達を活躍させてきたツケでもあるんだ。


 便利に使える設定である反面、実態の掴めない組織が力を持ちすぎるというのは……危険だ。

 本当に……全ての注目と警戒を、スティルが奪い去ってくれなければどうなっていたことやら。


『旅団の最高戦力も負ける、所詮人である』そう印象付けられたのは、確かに大きい。

 だが同時に、今回シレントが、旅団が上げた功績も大きい。しばらくは不自由な身になることも覚悟しないといけないだろうな。


「ところでメルト……まだ口を閉じなくても大丈夫だよ?」

「ん! そうね! 挨拶もしないといけないもんね。門番さんに挨拶忘れちゃったわ!」


 ……スティルは、もしかすれば俺がメルトを大切にしていたからこそ、今回の策を考えてくれたのかもしれないな。アイツ自身、結構メルトを気に入っている風に見えたし。


「お待たせしました。本日も会議室にご案内します」

「集まっている人間は誰ですか?」

「女王陛下とコクリ様のお二人のみとなっております」


 その方が良い。

 俺個人としては信用したいが、どうやらスティルは総合ギルドの長であるバークさんのことも何やら疑っていた。

 

……確か、襲撃者とも話していたな、スティルは。そこでギルド側に襲撃者を逃がす算段をしている人間がいると断定していた。


 そうなると、あの大掛かりな仕掛けを用意出来る人間は限られてくる。

 が、もしも『脱獄させることがギルドや国にとって有益である』と判断された場合はどうだ。


 正直、現代の知識や常識、法律だけでは考えられない選択もあるのではないだろうか。

 それこそ、簡単に思いつくものでも『潜入捜査』なんてものもあるのだし。

 ……それにしては劣悪な環境で放置されていたが。


「少々お待ちください」


 考え事をしているうちに、会議室前に到着。

 謁見の間ではないということは、今は王宮内に多くの人間が存在し、謁見の間やその近辺には人が出入りしているのだろう。

 人払いをするより、人のいない会議室に移動した方が早いと判断したのか。


「セイム様とメルト様をお連れしました」

「セイムセイム……! メルト様だって!」

「シー」


 以前よりも扱いが上がった気がする。そしてメルトが少し嬉しそうだ。

 室内に通されると、予告通り女王とコクリさんの姿しかなかった。

 戦々恐々、女王陛下の不安の感情がこの部屋に満ちているのを感じる。


「お久しぶりです、女王陛下。まずは……此度の戦争の勝利、おめでとうございます」

「……うむ、其方達の尽力のお陰だ」

「否定はしません。今回は、少々大きく動き過ぎたとも思っています」

「……すまない。私は、其方達になんと詫びればよいのか分からぬ。少々、其方達に甘え過ぎていたのかもしれない」


 既に、俺の持ち出す話がシレントの死についてだと確信しているのだろう。


「確かに、俺達もこの国に少々肩入れをし過ぎだったかもしれません。それは、国家のあり方としては少々歪だと言わざるを得ない。俺は、ただの一国民に過ぎなく、旅団はただ世界を放浪するだけの存在でしかありませんから。ただ戦争が終わった以上、もう俺達が必要になることもないと考えて良いでしょうか」

「それは勿論だ。此度の働き……そしてシレント殿の献身は……決して忘れぬ。我が国の英雄として、末永く語り継ごう……」


 そろそろ良いだろう。これまでの流れが歪だったのだと、国側も理解してくれているようだし。


「いえ、英雄だのなんだの語り継ぐのは止めてください、本人が絶対嫌がるでしょうから」

「そう……か。其方が言うのなら、間違いないのだろうな……セイム、此度はそちらの貴重な戦力、そして大切な人間を失う結果となってしまったこと……心からお詫びする」

「女王陛下……残念ですが、その謝罪をお受けする訳にはいきません……」


 瞬間、女王の表情に影が差し、控えていたコクリさんもまた、深々と頭を下げる。

 と、ここでネタバラし。


「何故なら、シレントはまだ死んでいなからに他なりません。女王陛下、コクリさん、こちらがシレントがゴルダ城から盗み出した、黒幕と思しき連中が行っていた実験の資料となっています」


 俺は、スティルが宝物庫から回収していた、フースが主導していたと思われる実験のデータが纏められたレポートを提出する。

 ゴルダ王は、恐らく形式的にレポートの提出だけはさせていたのだろう。だが興味がなく、かといってどこか人目に付く場所に置いておく訳にもいかず、それで宝物庫に保管したのだろうな。


「な……! シレントが生きていると!?」

「ゴルダに背後にいた存在の実験資料……それは、とても気になりますね……」

「シレントは、自分を付け狙う謎の人物、スティルと名乗る男を警戒していました。そこで一計を案じ、己の死を偽装し、秘密裏にゴルダ城内を調査、黒幕と思われる『フース』と名乗る人間が主導と思われる、勇者への改造を始めとした研究資料を奪取してきたのです。ですが、それでもかなりの重傷を負い、今は旅団本部で治療に専念しています」

「なんと……報告によると、シレントは単独で千を超えるゴルダの兵を倒したと聞いたが、それだけでなく……そんな情報まで持ち帰ったというのか……!」

「……そのフースという人物と、スティルという人物が同じ勢力の人間である可能性は?」

「それはないかと。シレントが探ったところ、その二人は確かに敵対関係にあったそうです。スティルというあの男は……完全に第三の、いえ第四の勢力と見て間違いないでしょう」


 スティルの策を、補強しよう。アイツの思いを、優しさを無駄にしない為にも。


「なるほど……。この資料については私の方で調査します。シレントさんが無事なのは本当に喜ばしいことです。少々、友人がそのことで落ち込んでいましたから」

「……そのことについてですが、シレント生存については出来るだけ内密にしておいて欲しいのです。その友人一人なら良いのですが、その際には必ず『何人たりともこの事実を漏らさないよう』念を押してください」

「ふむ、了解だよ」

「……たとえ、この国の重鎮や懇意にしてる人間であろうとも、ですからね」

「なるほど、我が国の内部に他の『内通者』の存在を疑っているのだな。分かった、情報の秘匿は徹底すると約束しよう」


 さて、ここからが本題だ。


「こちらからの報告は以上となります。次の話題に移っても宜しいでしょうか?」

「頼む」

「シレントが報酬として求めたゴルダの上層部の生殺与奪について。ゴルダ王が既にここに移送されていると聞いています。シレントに代わり、私がゴルダ王と直接話したいのですが、良いでしょうか?」

「許可する。元より、其方が訪ねてきた時はすぐに引き渡す気でいた」

「では、俺とメルト、それとゴルダ王の三人だけで話せる場を用意して頂けないでしょうか。誰も、絶対に話を盗み聞きできない、そんな場所を」

「分かった、すぐに用意させよう。……それと、万が一ゴルダ元国王に危害を加えても、一切咎めないことを約束する」


 それは遠回しに、処刑を勝手にしても良いと言っているのかもしれない。

 もし、話の内容があまりにも酷いものだとしたら……容赦なく殴る蹴るの暴行くらいはする。

 つもりじゃない、する。生きてさえいればそれでいい。それくらいまでは最悪、する。


「では、私からは以上です」

「分かった。セイム……シレントが生還していたとはいえ、本当に申し訳ないことをした。其方の言う通り、我が国はダンジョンコアの提供から始まり、其方達に依存しきっていた。たとえ善意の申し出だったとしても、そうさせてしまうだけ、我が国が其方達に『恩を感じさせる』ような行いをしてきてしまったのだ。もう、無理な願いはしないと約束しよう」

「んー……相談程度なら問題ないですよ。結局俺はこの国の人間で、この国の冒険者ですからね」

「そう、か。出来れば……其方達の力を借りるような問題が起きてくれなければ、それが一番良いのだがな」

「それは仰る通りですね。きっと……これからはそうなると思いますよ」


 もう、この国を危機に貶めるような問題は、表向きは起きないと思う。

 そりゃ、ゴルダの領地を治めるにあたる問題やら、貴族に関係する問題もあるだろう。


 今回の戦争を外から見ていた他国との関係もあるだろうし、国のトップの視点からすれば、問題は山積みなのだとは思う。

 が、それは俺には関係ないのだ。本来、俺はただの国民でしかないのだから。


「では、しばし応接室で休んでいてくれ。面会の場を用意させる」


 そうして俺とメルトは応接室に案内され、ゴルダ元国王との面会に備えるのであった。




「少し緊張するわ、やっぱり」

「そうだね。メルトはもう、質問内容は決めているんだよね」

「うん、決めてる」

「失礼な態度をしたら、容赦なく攻撃して良いからね。多分俺がするけど」

「……うん、そこは任せるわ」


 ゴルダはなぜ、あそこまで獣人を毛嫌いしているのか。

 きっと、メルトの故郷を生贄に捧げたことと無関係ではないのだろうな。

 スティルは『メルトの一族を潜在的に脅威だと感じていた』と予想を立てていた。


 正直、それは俺も考えていた。メルトただ一人しか俺は『銀狐族』を知らない。

 だが、その能力の高さは一緒にいてひしひしと感じるのだ。

『学習能力があらゆる分野でずば抜けている』これに尽きる。


 バイオリンもそうだし、エビのから揚げもそうだ。ただの慣れと呼ぶには、呑み込みが早すぎる。

 戦いにおいても、魔物との実戦経験もあるのだろうが、それでも『本を読んだだけ』で、様々な技や技法を習得している。

 そして、膨大な植物や錬金術の知識に、あまりにも万能な『自然魔法』の存在。


 身内贔屓なしに見ても、メルトは天才と呼んでも差し支えがないように思える。

 もし、それが種族全体の特徴ならば……確かに脅威ではある。

 が、メルトは過去に『銀狐族は流浪の一族、時に捨て子を拾ったりして一族を増やしてきた。これは家族になる為の儀式』そう言って、俺と何か不思議な握手のようなことをした。

 その結果、俺の元の姿であるシズマに【銀狐の加護】というスキルまで習得させられていた。

 あの効果をしっかりと確認していなかったが、それもまた、メルトの一族の秘密なのだろう。

 もしかすれば……その力にこそ、本当の銀狐族の強さが隠されているのかもしれない。


「メルト。メルトはゴルダ王の処遇は女王に委ねると言ったから、尊重するつもりだよ。でも、俺にも我慢の限界だってあるからね。もしかしたら……俺が我慢出来ないことがあるかもしれない」

「それは私もよ? 私だって大嫌いよ、一番恨んでる相手よ。でも、全部聞いてからだもの」


 この戦争の最後の締めくくりの為。

 俺の人生が変わった召喚の元凶であり、メルトの人生を変えたダンジョン化の元凶でもあるゴルダ王との面会が、ついに始まる――

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