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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ【書籍化決定】  作者: 藍敦
第七章 火種を投げる者と育てる者
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第百話

v(´・ω・`)v祝 百話達成

「ここ、通ったことがある」

「ですね班長。確かこの先は……王家直轄の空き家があったはずだが」

「ええ、俺がお世話になっている人が与えられたんです。俺は今、留守を預かっている身なんです」

「ふむ……確かに君は女王の印がされた通行許可証を持っていたな。その関係かい?」

「そうなりますね。ただ普通の一軒家としてしか使ってないようなので、お客さんを迎えるのは大丈夫なはずです」


 キルクロウラー第一攻略班の二人を家に招待する。

 中々に特殊なシチュエーションだが、今はメルトもいない為、多少の融通は効く。

 それに、この人達とパイプを繋いでおけば、今後何かの助けになるかもしれないし。


「ん……そろそろ夕暮れ」

「そうですね、急ぎましょうか」

「了解です」


 少し速足で我が家に案内し、家の鍵を開け二人を招待すると、意外にもガークさんの方がなにやら楽し気に周囲を見渡し始めた。


「いい家だ! 俺も、こういう自然に囲まれた家で余生を過ごしたいと常々思っているんだ」

「おじさん臭い」


 リヴァーナさん、辛辣です。


「じゃあとりあえず軽食と飲み物でも用意するので、寛いでいてください」

「そうさせてもらうよ。……良いな、あの暖炉。これからの季節は必要だな」

「ガーク、煩い」


 なんだか、少しほっこりする二人のやり取りを聞きながら軽食を作っていく。

 食材は保冷庫にも入っているが、カモフラージュをしつつアイテムボックスからも取り出す。

 んー……定番になりつつあるピカタサンドでも作ろうかな、手軽に作れるし。

 という訳で、恐らく豚肉であろう塊をスライスし、卵と粉チーズを絡ませて焼く工程を繰り返し、最後にハーブも一緒にまぶして焼き上げる。

 スカーレットフリルとマスタード、そしてアクセントにベーコンを薄切りにしたのを加えて、パンで挟む。

 ホットサンドメーカーでもあれば、このまま押しつぶしつつカリっと焼けるんだけどな。

 ……一回り小さいフライパンで上から押し潰しながら焼くか。

 そうして出来上がった、ピカタサンドのホットサンドバージョンを皿に盛り付け、何気に保冷庫にストックしてあるコーラシロップを炭酸水で割り、氷をたっぷり入れて提供させて頂きます。


「シズマは料理も出来るのか……若いのに多芸だな」

「良い匂いがする」

「多芸……確かにそうかもですね」


 そりゃいろんな心得習得してますから……!


「どうぞ、出来ましたよ。詳しいお話は食べてからにしましょうか」

「ん、そうだな。ふむ……美味しそうな料理だ。それにこの飲み物は……?」

「それは料理人ギルドに所属していた友人が残して行ったものですね。俺のお気に入りです」

「ん……ピリピリする」

「ほう……お酒ではないようだが、確かに刺激的だ。気に入ったよ」


 一線で活躍しているであろう人間のもてなしって、緊張するな。

 が、どうやら二人は特製ピカタサンドを気に入ってくれたようだ。


「やはり惜しいな。シズマ君、君は女王に雇われているような状況なのだろう? もし、その契約期間が終わったら我々のクランに来ないか? 君の頭脳も戦闘能力も、そしてそれ以外の能力も僕は評価している。今すぐ団長に掛け合いたいくらいだ」

「うん。入って」

「お言葉はありがたいのですが……自分は女王と、ある取り決めの元でリンドブルムの巣窟で活動中なんです。それが終わり次第、自分が身を寄せている旅団に戻るつもりなんです」

「む……既に他の組織に属していたか……なら無理に引き抜くことは出来ないか……」

「……やだ。シズマ、そっち抜けて来て」


 な、なんて……自分勝手でドストレートな要求……!

 そこまで美味しかったか! ピカタサンド!


「班長……無理を言わないでください。ここまで出来るヤツを手放すとこなんてないですよ」

「でも、欲しい。シズマが」


 やだキュンってした。このつよつよ少女にそこまで気に入られるとは。

 が、残念ながら頷けないんだよ。俺の秘密を知るメルト以外とは……一緒にいられないのだから。


「さて……じゃあそろそろリンドブルムの巣窟でのあらましを報告しましょうか」

「む、そうだな。今日の夕方になって急遽ダンジョンの立ち入りが禁止された。あの段階でダンジョンに挑んでいたのは七つのパーティだったが、その彼らも低階層のうちに帰還していた。だが、君だけはその禁止令が出る直前に戻って来たそうだね。何か知っているんだろう?」

「ええ、関係あります。実は――」


 俺はどんな魔物が現れたのかの詳細は語らず、ただダンジョンを踏破したと改めて報告し、手に入れたダンジョンコアが異様な姿をしていたことや、異変に関わっている可能性を説明する。


「――故に、このままコアは王宮の研究院に提出する予定です。今はダンジョンに変化が起きる可能性を考え、一時閉鎖をしているんだと思います。先日の貴族の子弟の死亡については方便でしょうね、閉鎖の」

「……そうだったのか。いや、しかしそれを抜きにしても……今のダンジョンを単独で踏破するとは驚異的だ。うちの班長とも渡り合えるんじゃないか?」

「え、まだまだですよ。俺が勝てたのは相性がよかったからなんです。それに……最後の相手は異質ではありましたが、とても弱かったので」

「ふむ……何やら事情がありそうだが、これ以上は追及しないよ」

「シズマ、やる?」


 話を聞き終えると、ガークさんは納得してくれたのだが、何故かリヴァーナさんは武器を取り出し構え始めた。

 まさか手合わせするって? 嫌です!


「お断りします。代わりにコーラのおかわりどうです?」

「ん、貰う」

「ああ、私にもくれないか。これはかなり美味しいな」

「たぶん、そのうち冒険者の巣窟あたりでも提供されると思いますよ。なんならアルコール入りで」

「ほう……? 期待していよう」


 気が付けば、すっかり日も暮れ夜になっていた。

 要件も済んだので、二人もそろそろ帰るつもりで席を立つのだが――


『シズマさん、ご在宅ですか?』


 こんな時間に玄関扉をノックする音と、こちらの名を呼ぶ声が聞こえて来た。

 少しだけ警戒しながら扉に向かうと、こちらの様子を見て察したのか、キルクロウラーの二人も武器を構える。


「どちら様ですか?」

『おや、警戒させてしまいましたか。先日、謁見の間に同席したコクリ・マーヤです。獣人の綺麗なお姉さんですよ』


 自分で綺麗なお姉さんなんて言うのか……!

 ……知的で美人なお姉さんだと思います、正直。


「十三騎士だと……」

「……本当だ、コクリの気配がする」


 リヴァーナさんの言葉を信じ、扉を開ける。

 すると、本当にそこにはコクリさんが、いつものように私服の上から白衣を纏い、どこか底が見えない笑みを浮かべて佇んでいた。


「おや? 珍しい来客がいるね? ダンジョンアタックをしている以上、どこかで関わることもあるだろうと思っていたけど……家に呼ぶまでの仲になるとはね」

「お久しぶりです、マーヤ女史」

「久しぶり」


 顔見知りなのか、軽く挨拶を交わす二人。


「ふむ……偶然か、それとも狙っていたのか。シズマ君、この二人と仲を深めたのはよくやったと言うほかないかな?」

「ええと……?」

「こっちの話だよ。今日はシズマ君に伝えることがあってね、私が直接来たんだ」

「……いよいよですか?」


 恐らく、貴族への根回し、オールヘウス侯爵家への突入作戦の準備が整ったのだろう。


「そうだね、そんなところだよ。キルクロウラーのお二人にはまだ話せないけどね。ただ、君達にこの後、女王からなんらかの打診があると思う。少し難しいかもしれない打診だ。ただ、それを受けてくれれば、シズマ君に大きな貸しを一つ作れると思ってくれて良い」


 コクリさんが、突然そんなことを言った。

 キルクロウラーに打診……? 今回の作戦に関わらせるつもりなのか。


「……相変わらず、意味深なことを言う人ですね。分かりました、覚えておきます」

「シズマに貸し? 勧誘出来るなら受ける」

「いやーそれはどうでしょう」


 何勝手なこと言ってるんですかコクリさん……。

 この状況を一目見て、有効そうな手を即座に打ってくるとか……油断出来なさすぎだろ……。


「では我々はこれでお暇するよ。何か事情があるのだとしたら、多少は融通が利くように働きかけるつもりだ。君に恩を売れるのなら、高くはないだろうからね」

「期待してる。シズマは私のところに来るべき」


 最後まで何やら不穏というか、申し訳ないような、そんな空気を残しつつ二人は去って行った。


「勘弁してくださいコクリさん……あの二人、こっちを勧誘しようとしてたんですよ……」

「へぇ、そうなんだ? あれから数日、本当に成長したんだね? キルクロウラーに勧誘されるなんて。……これなら作戦に参加させても安心だ。君はセイムさんから預かっている大切な客人だからね。もし、本当に勧誘で苦労しているのなら言っておくれ。まぁあの二人が無理難題をふっかけるとも思えないけど」

「まぁそれは俺も信用してますね。あ、そうだ……コクリさんが今日来てくれたのは丁度良かったかもしれませんね。ちょっと見てもらいたいものがあるんですけど」


 俺は、この暴走した人工ダンジョンコアをコクリさんに見せてみることにした。


「現在、リンドブルムの巣窟が非常に不安定な状態、異常事態であることは把握していますよね? その影響を受けていたのか、それともその原因になったのかは定かではありませんが、『コレ』を現在の人工ダンジョンを踏破した結果手に入れました。とても欠片とは言えない、歪に成長したダンジョンコアです」

「! 踏破したのかい!? この短期間で!? あそこの状態は聞き及んでいるけど……キルクロウラーと協力したのかい?」

「いえ、ほぼ単独です。少々こちらの成長速度が異常なのだと自覚していましたから、誰かと組むようなことはしませんでした」

「……正解だよ、それで。それに……私の目から見ても、君は少々貴重な装備に身を包んでいるのが分かる。それはあらかじめ旅団から支給されていたのかな?」


 おっと、俺の現在の装備の異常性が看破されたか、これ。

 ……この人も、俺の持つ【観察眼】に似た力を持っているのだろうか?


『コクリ・マーヤ』

『希少種族である幻狼族の女性』

『力の強さと寿命が比例する種族である為彼女は非常に長命』

『現代の女王の祖母の代からリンドブルムに仕えている』

『先代の研究院長は彼女の同期で恋仲であったが寿命差で死別した』


 っ! すみません! 好奇心で覗くべきじゃなかった……!

 ……飄々としているようで、色々と複雑な事情があったんですね……。


「そうですね、セイムから旅団で取り扱ってる装備の一部、俺に合いそうなものを借りていました。そのお陰もあって踏破出来たようなものです」

「ふむ、そっか。そのコア、もしよければ解析してみても良いかな、研究院で」

「そのつもりでお見せしました。ただ、最終的にそのコアを大地の力に還元……するのは危険ではないかと俺は思います。もしかしたら、リンドブルムの巣窟の平定に今後必要になるかもしれないと睨んでいます」

「ふむ……ありえる話だね。分かった、気に留めておくよ。じゃあ……本題に入って良いかな?」

「……はい」


 すると、コクリさんは椅子に座り、こちらも席に着くように促してきた。

 それはまるで『少し長くなるかもしれない』と暗に示しているかのようで、ゴクリと唾を飲む。


「……まず、お察しの通り貴族街の根回しが済んだよ。当日、貴族街の全ての家は神公国の騎士団によって守られる……というよりも監視下に置かれる。だからオールヘウス家は他の家の干渉や協力を望めない。召喚された者達が魔物と化した場合も、被害を最小限に抑えられる手はずだよ」

「なるほど……了解です」

「そしてリンドブルムの四方の門も作戦時刻には一時閉鎖される」

「なるほど……」


 一見すると、これで完全に封殺したようにも思える。

 だが……俺は、かつてシーレが聞いた情報を共有している。だから、これを指摘出来る。


「コクリさん。オールヘウス邸にはアンダーサイドに通じる抜け道がある可能性があります。そちらの警戒はどうなっていますか?」

「む……その情報の根拠は?」

「はい。以前、メルトから聞きました。アンダーサイドで怪しい人影を見つけたそうですが、忽然と姿を消したそうです。直接は関係ないかもしれません。ですが万難を排する為にも、警戒は必要かと考えました」

「……アンダーサイドの警戒は私も考えていたよ。けれども、あそこは半ば『治外法権』なんだ。私達の独断で取り締まるには少々面倒な場所でね……けれども、出入口の警戒は外から行う予定だよ。それに――」


 すると、コクリさんはにやりと笑みを浮かべ――


「キルクロウラーはアンダーサイドの一大勢力でもあるんだ。あそこと繋がりを持てたことはプラスに働くよ、きっと」

「なるほど……それで俺を売るようなことを言ったんですか」

「ふふ、すまないね。……明日、登城してくれるかな? 最後の打ち合わせと……作戦まで私達と一緒にいてもらうよ、監視も兼ねて」

「……了解です。俺も連中の同胞……ですからね」


 いよいよ、明日。

 明日、俺は元クラスメイトとの決着をつけることになるのだろう。

 今日は少しだけ、寝つきが悪くなるかもしれないな――

(´・ω・`)いや冷静に考えて暇人の時ですらこんなに毎日更新続けてこなかったよ僕……いかに暇人書いてた当初はまだまだ素人だったのか分かるよね。

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