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第十話

 現状をはっきりさせよう。

 まず、今回の依頼は『商品の大部分を隣国の主都リンドブルムに輸送したいので護衛をお願いします』という内容だった。

 本来護衛任務に新人の俺が参加出来るなんてありえないことだったが、元々ベテランのパーティーが担当しており、そこに俺がねじ込まれた、という形だったはずだ。

 これも、俺が嘘の経歴で『可哀そうなヤツ』って扱いだったのと、想像以上に戦えることがテストで判明したお陰、という話だった。

 本来護衛は国境まで。国境を過ぎれば、隣国レンディアの騎士が街道の警備を行っているので、危険度はグっと下がるという話だ。

 で、俺はそのまま国境を抜け、レンディアのギルドに転属する……という流れだ。


「と、言う訳なんだ。だから、俺もこれから向こうの国にお引越しするところなんだよ」

「へー、そうなんだ。なら新しいお家、探さないとね」


 この同行者が事態をどこまで把握しているのか少し不安になってくる……。

 ただ彼女も天涯孤独なのは間違いないようだし、最低でも自活出来るまでは世話を焼きたいな、というのが正直なところだ。


「セイムさん、私共の商会では物件も扱っていますよ。もしもあちらに定住するつもりなら、多少は物件を紹介することも出来るでしょう。例の原石……やはり心変わりをして我々に売却して下さるのならば、今度こそオークションにかけ、そちらにより良い利益をもたらすことも出来ましょう」

「ははは……考えておきます」


 前回、あの谷底のダンジョンで見つけた……ことになっている、新たに二つ用意した原石。

 今回はエメラルドと少し大きめなサファイアの原石。

 どうやら、商会としてはサファイアの原石だけでも売って欲しい様子だった。


「実は、知っているかもしれませんが、レンディアの国旗に使われている色は濃紺、深い青色なのですよ。その関係で、青い宝飾品は向こうの貴族には大変人気が高いのです。そこにここまでの大きさサファイアの原石となれば……オークションに出せば宝飾職人を抱えている貴族たちはこぞって入札するでしょう。そして加工された特大のサファイアを使った装飾品を、年末の建国祭で女王陛下に謙譲する……十分に考えられる流れです」

「そういえば以前も言っていましたね、年末がどうって」


 もしや、今はもうその年末が近いのだろうか?

 実は今がどれくらいの季節なのか、一年がどれくらいの周期なのかも知らないんだよこっちは。

 けど口ぶりから察するに、今から装飾品の準備を始めてもおかしくないような物言いだし、おおよそ秋頃……なのだろうか?


「……もしかして、その建国祭で女王陛下に謁見出来たりするんですかね」

「ふむ……その宝飾品が目に留まり、正式に献上されることになれば、加工した職人ならば一緒に謁見出来るかと。ですが、確かにあそこまで大きなサファイアを持ち込んだとなると……一緒に謁見出来る可能性は確かにありますな」


 ふむ……ダンジョンコアを直接国に売り込むなら、この方法が良いだろうか?

 それともギルドを通して……かな? いまいち組織としてのギルドがどれくらいの影響力を持っているのか、どれくらい信用出来るのか、国との関係がどうなのかはっきりしていない今のままだと、迂闊なことが出来ないんだよね。

 って……あれ?


「むむ……」

「どうかしたのですかな?」

「セイムどうしたの? お腹冷えたの? しっぽもっと巻きつけようか?」


 あら優しい。じゃなくて!

 なんだか最近、思考が俺らしくないんだ。

 俺、高校生だよな? 高校二年生、まだ一七になったばかりだよな?

 なんで、こんなに慎重に考えて行動してるんだ? 俺、ここまで思慮深かったか?

 そもそも、このメルトっていう子の世話を焼きたいとか……なんで思った?


「……キャラ補正……経験と思考と知識の同化……?」


 もしかして、このセイムの身体を長い間使っている関係で、そういうキャラクターが本来持っているはずの知識、経験が俺にフィードバックされているのか……?

 確かに、俺がやっていたオンラインゲームは、作ったキャラクターにはそれぞれ『出自』が設定されている。

 ある程度自由に職業をカスタム出来るが、それによって出自が固定される。

 そしてセイムの職業は『剣士』と『盗賊』だ。

 それにより、自動的にこのキャラクターの出自、つまりバックボーンが設定される。

『剣士』を選んだ場合は、もれなく貴族の次男坊という設定が付随される。

 そして『盗賊』と組み合わさると『没落した貴族の次男坊が生きる為に裏の世界に足を踏み入れた』みたいな感じの設定を背負わせられる。

 その影響か、深く過去を思い出そうとすると、知らない家族、知らない家で過ごした記憶が蘇ってくるのだ。

 どうやら、没落した貴族の次男は、剣の腕を使い裏の世界で立身を目指し、そこで盗賊の技を学び、義賊のようなことをしていたみたいだ。

 確か、そういうストーリーもキャラ毎のクエストで登場したはずだ。

 つまり、この思慮深さや用心深さ、人に対する思いやりは……セイムが本来持っていてしかるべき感情と経験が俺にフィードバックされたってことになるのか……?

 なんか……自分が自分じゃなくなるみたいで少し恐いな。

『ネトゲの自キャラにして』この願いは……外見や力、所持品を同じにするだけではなかったのだろう。

 文字通り『キャラになる』のだ。経験も記憶も感情も思考も、俺と一体化していくのだろうな……さすが、あの性悪悪魔の力だ。しっかり俺の力にも落とし穴があった。

 でも、少なくともこの世界で生きていくのにはかなり有用な副作用ではないだろうか?

 少なくとも過酷な人生経験がそのまま手に入るのだ。ある意味ではおまけを貰えたとは言えないだろうか?


「……今度色々試さないと……」

「ふむ? 何を試すのですかな? もし、原石をどこか他の商会やギルドに持ち込むつもりでしたら、くれぐれも相手の出方をしっかりと観察、どういう人間か調べた上で現物を見せるようにしてくださいね? 主都は広大です、様々な人間がひしめいていますから」

「あ、すみません。そうじゃないんです。原石なんですが、そちらへの売却については前向きに検討したいと思いますよ」


 やばい、思考が口に出てた。

 しかし、確かに売却するにしても、今のところ信用できるのはこの商会だけかな?

 この『ピジョン商会』は少なくとも、ゴルダ国の王都で幅を利かせるだけの力は持っていたんだ、きっとレンディアでもそれなりの地位にはいるんじゃないかな。

 まぁそれでなくとも、こうして俺に助言をしてくれる程度には信用出来る人みたいだし。


「本当ですか!? 契約のあかつきには必ずやオークションで高値が付くよう、こちらも手を回しておきますよ! しかし……まさかこんな機会が舞い込んでこようとは……」

「そ、そこまで喜んでもらえて恐縮です」

「それはもう喜びますとも! 我々はまだレンディアでの知名度は低い、故にオークションの目玉になりうる商品、それももしかすれば王女の目に留まる品に化けるかもしれない程の品を取り扱ったとなれば、必ずや一目置かれることでしょう」


 な、なるほど……出来ればこのピジョン商会とはこれからも良い関係を築いていった方が良さそうかな……?


「さっきから何の話してるの?」

「んー? 俺が見つけたお宝をどうやって売ろうかってお話だよ」

「ふーん、きっと高値がつくのね? お家も買えちゃうかもしれないね」

「ふふふ、もちろんですよお嬢さん。とびっきりの大豪邸を見繕いますからね」


 いやぁ、まだ永住するかは分からないので。

 あと、豪邸は勘弁してください。俺、元2LDKのマンションで家族と暮らしてた高校生なんで……。


「楽しみだねー、人がいっぱい暮らしてる街。街の中に入るのも、人がたくさんいる場所に行くのも初めてだからさー」

「ほう、そうなのですか。メルトさんはゴルダの冒険者ではなかったのですか?」

「あ、いやメルトは山奥の出なんですよ。俺が保護して、一緒に行動をしていたんですよ、暫くは」

「なるほど、そうでしたか。ふむ、どうやらお二人は冒険者としても中々見どころがある様子、リンドブルムでダンジョンの探索やギルドで依頼を受けることがあれば、是非我が商会で入用な物を買い揃えてくださいね。無論、手に入れた品も買い取らせていただきますとも」

「はは、覚えておきます」


 もう少し、メルトには色々気を付けてもらうようにしないとかな?

 とりあえず向こうに着いたら……俺の転属届をギルドに提出して、ついでにメルトもギルドに登録してもらわないといけないかな。

 なんか……転属届って妙にリアルだなぁ……。






 それから、国境から主都リンドブルムまでの三日間、本当に旅路は平和そのものだった。

 なにしろ寝ずの番が必要ないくらい、道中には管理された野営地が点在しており、しっかりとそこを管理する国の騎士が常駐しているのだから。

 治安面は確実にこっちの国の方が上だ。これからの生活もきっと以前よりは改善されるだろう。

 特にメルト。この子、街に入れないから街の外で野営しながら、通りかかった行商人から食べ物買って生活してたんだって。

 しかも随分と足元見られていたようだし。


「もうすぐ主都……リンドブルムね?」

「そう、リンドブルム。なんだかカッコいい名前の主都だね」

「そうねー! 大陸の覇者だったドラゴンの名前を冠するくらいだし、きっとすごい歴史があるのね!」

「え、そうなの?」

「そうだよー」


 マジか、メルトが思いのほか物知りでちょっとびびった。


「教えようか? 教えてあげようか?」

「んー……お願い」


 調子に乗っているのか、ニマニマとしているメルトさんをさらに調子づかせよう。


「リンドブルムは、大陸がまだ人の住めない魔境だった時代、南部を治めていた巨大なドラゴンの名前なんだ。でも、北部を治めていた巨人ゴルディオンに討たれて、その時にゴルディオンも不治の毒を受けて死んじゃったんだ。たぶん、それがゴルダ国の名前の由来になったんじゃないかなー?」

「ほー……マジで物知りだった……驚いた」

「実家の集落にある本は全部読みつくしたからねー。暇だったんだもん、何年もさ」

「なるほど……」


 凄い知識欲……なのか? それとも純粋に暇つぶしで全て頭に入るまで読み込んだのか。

 もしかしたら、メルトって想像よりもずっと賢い子なのかもしれないぞ……。


「知らないことがあったらなんでも聞いていーよ?」

「ははは……その時はお願いするかも」


 でも、隣国がどういう国かも知らなかったみたいだからなぁ……近代の歴史は知らなさそうだ。

 そんなこんなで、時折メルトからいろんな話を聞きながら、無事に俺達はレンディア国の主都、リンドブルムに到着したのであった。

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