第一話
(´・ω・`)お久しぶりです、新作を今日から投稿していきやす
(´・ω・`)また今回はカクヨムと同時投稿です
「じゃあ決まったね? どうする? 願い事は被ってはいけないよ、それに得られる効果が同じ場合も被ったと見なす。君は何を願う? 先に裏切った連中を『先行ったヤツ殺せ』と願って殺す事も出来るよ? ほら、ぴったり一〇文字の願いだ」
文字通りの『悪魔の囁き』。
願い事は一〇文字までと縛られている。
既に他の連中が願いを叶えているのなら、俺は……ってさすがに殺すとか願わないけど。
殺したら俺その後どうすんのよ? 俺に何も残らないじゃないか。
「これ小さい文字ってカウントする?」
「小さい『つ』じゃなければカウントしないよー?」
「先に願い事した連中の願いって教えてくれる?」
「おしえなーい。だから被ったらその段階で終わりー」
なるほど。じゃああの連中が言わなさそうな願いにするか。この先生きのこる為にも効果の大きい願いにしないとな。
「じゃあ『ネトゲの自キャラにして』」
「固有名詞はダメだって言わなかったっけ?」
「固有名詞じゃないでしょ。調べてみてよ」
「……あ、本当だ。自キャラっていうのも固有名詞じゃないんだ……うん、受理したよ。じゃあ、君はネトゲの自キャラになって、この館の外から異世界に旅立ってもらう。じゃ、頑張ってねー!」
するとまばゆい光に包まれながら、気が付けば自分の目線が高くなり、身に着けている物も変化していた。
「お、おお! すげぇ! 『エルダーシーオンライン』の自キャラになってるじゃん! メニューとか開けたり?」
あ、開けた。ステータス表記もそのまんまだし、これは本当に強さまで得られたってことでいいのか!? 見てろよ腐れビッチとその仲間ども、お前らなんかに協力してやらねぇからな!
まったく……なんで突然こんなことになったんだよ。
修学旅行なんて本当……グループ分け勝手に決められるって意味分からんわ。
思い返す、ここに来るまでの出来事を。ああ……班分けの日に学校休んだ俺が悪いのか。
「七班の引率を勤める『吉岡』だ。全員マイクロバスに乗ったら目的地まで静かにしているんだぞー」
「うーっす! なぁ、着いたら先にどこ行くよ? 俺屋台街ってとこ行きたいんだけど」
「いいねぇ、何あるか見てみようか!」
修学旅行。二年生前期の内に大きなイベントを終わらせ、三年になる前から受験勉強に集中させるという学校の方針により、俺達は春先の福岡にやって来ていた。
グループ自由行動の班分けを教師に決められたせいで、俺はあまり話したことのない、いわゆる陽キャグループに紛れ込むという大惨事に見舞われたのだが、正直別に苦手でもないし、無理に話に誘ってこないので、これはこれでいいのかな、なんて考えていた。
――バスが突然急停止し、気が付いたら見知らぬ空に投げ出されていたその時までは。
「なんだ!? おい、これ落ちてるんじゃね!?」
「なんだよここ! 今街中走ってたじゃん!」
「ヤダ、死にたくない! 死にたくない!!!」
車内が悲鳴に溢れ、俺も意味のない悲鳴を上げていると、急激に浮遊感がおとずれ、気が付くと知らない森の中に停車していた。
え? なに、夢? 集団催眠? すると引率の吉岡がいちはやく動き出し、運転手に無線での連絡を頼み、自身もスマートフォンを取り出していた。
「ダメです、無線、届きません」
「こちらもダメだ……圏外だ」
「な、なぁ先生、その屋敷の人に助けてもらおうぜ」
誰かが発言したその言葉に周囲に目を向けると、俺達のバスが着地した場所のすぐ隣に、地元じゃ見かけないような立派な洋館が聳え立っていた。
「ああ……それしかあるまい」
意味が分からない。なんで? なんでここにいるの俺達。
何も分からずただ先生に続き洋館を訪ねると、こちらが声を掛ける前に自動で扉が開いた。
「入れってことなんじゃ……先生、入ろう早く」
「待て。一応声をかけるべきだ」
先生が『すみません、お邪魔致します!』と大きく響く声で呼びかけ、そして運転手含めて俺達全員が屋敷に入った瞬間、バタンと扉が閉じられた。
しかも、開かない! 閉じ込められた!? するとその時、屋敷の中に声が響いた。
「君達全員死んだよって言ったらどうする? ここが死後の世界の入り口だよって言ったらどうする?」
「なんだと!? 誰だ、出てきなさい! 子供が大人をからかうんじゃない!」
幼い声に、子供の悪戯だと思ったのか、先生はそう叱りつけるように言う。
が――これが超常現象の一種だと、俺達はいやがおうにも分からされた。
「子供だぁ? うるせぇ、四〇年程度しか生きてねぇ人間ごときが。消すぞ」
その瞬間、何もない空中に唐突に少年が現れた。
「なんだ、無礼だな君は。礼儀を知らないのか。いいから大人の人を呼んできなさい」
その子供の背には翼、頭にはツノと、まさしく想像上の悪魔っ子に見える。
それが目に入っていないんですかね先生。
すると少年が指を立て、それに合わせて先生が空中に浮かびあがり、苦しそうにもがき始めた。
「なぁ、口の利き方に気を付けろよ。折角お前らにチャンスやろうとしたのによぉ?」
「ぐ……やめ……う……」
「見せしめにお前殺せば、残りも従順になるよなぁ!?」
その瞬間、先生が破裂した。
水風船のように、赤いしぶきを飛び散らせながら、いとも簡単に。
「はい、じゃあみんな大人しくしてねー。ああなりたくないよねー?」
悲鳴すら、上がらなかった。俺含めて全員口を押えて、声を殺しているようだった。
「はい、じゃあ聞いてな? お前らはこの世界のアホによってここに呼び出されました。でも可哀そうに思った僕は、君達に生き抜くチャンスを与えようと思いました。なのに、それを棒に振った馬鹿が、こうして真っ赤なお花を咲かせました。ここまでOK?」
OKだから……睨むなよ恐いから……なんだよこれ、なんなんだよ、世界に呼ばれた?
異世界転移ってか? んなWEB小説じゃあるまいし。
「太っ腹な僕はね、まだこの世界に存在が確定していないお前達に情報を付加してやることにしました。楽しそうだし。だから、今から全員一つずつ、願いを叶えてあげます」
その瞬間、マイクロバスの運転手が大声を上げた。
「だったら『元の場所に戻して』くれ!」
「はいよ、んじゃばいばい」
すると、本当に運転手がこの場所から唐突に消えた。え? それいいの? なら俺も――
「まだ話の途中だったから静かにな? 今の運転手? っていうの? たぶん道路の真ん中に戻ったろうから、運が悪いと即死じゃない?」
元の場所……そうか、俺達バスに乗っていたんだもんな……。
「続きいくよ。願い事にはルールがある。まず『君達の世界の言語で一〇文字以内の願いであること』そして『他の人と同じ願いは叶えられないし、それでもうチャンスは終わり』つまり被ったら願い無しって扱いね? で、この同じ願いっていうのは『同じ結果を生む願い』も含む。まぁさっきの例えで行くと『地球に戻して』『日本に戻して』って願いは却下。残念だったねー、さっきのアイツのせいで君達が元の世界に戻れる目はなくなったよ」
マジか! 俺も戻れると思っていたのに、一気にその希望が消えてしまったんだが!?
「『願い事に固有名詞は使えない』『他人に影響を与える願い事は受理されない』この場合はそうだねぇ『先生を戻して』とか『この子の心をくれ』とか『スー〇ーマンにして』とか。それと、僕に害をなす願いは無効。したら殺す。安心しろ、お前らの世界の知識くらい、ちょっと調べればすぐ手に入るから。だから僕を出し抜けると思うなよ?」
……なるほど、抜け穴を探す事は許さないって感じなのかな……。
「いきなり言っても決められないだろうし、君達には一人一部屋、じっくり考える為の部屋を用意しました! じゃ、考えてみてよ。相談してもいいし、出し抜いてもいい。ただし願い事は慎重に。この館を出るとすっごい危険だからね、生き残る為によーく考えて願わないと……死ぬよ?」
それだけ言い残すと、悪魔っぽい少年が唐突に姿を消し、そして声だけが響いて来た。
「んじゃ、一時間くらい考えておいてよ。僕はちょっと外の様子見てくるから」
皆、黙り込んでいた。自分に付着した先生の血のことも忘れて。
「なんだよこれ……なんだよこれ!!!」
「おい騒ぐなって! 考えろよ、俺達が生き残る方法を考えないと……」
「願い事って言ってたよ……? どうにかして私達も日本に戻れないのかな……」
「ダメ元でお願いしてみよっかー? ダメだったらうちのこと守ってよー?」
「何言ってるのよ。外が危険って言っていたのよ、戦力を下げる訳にはいかないでしょ?」
「戦力って……外で何かと戦うかもって思っているの……?」
リーダーシップを発揮したり、あらぶっていたり、怯えていたり、冷静だったり、気だるげだったり。正直……俺には言葉を出す気力すらない。
なんでやねん! なんで現実にこんなこと起きるんだよ!
「とりあえずみんな、部屋に行こうよ。少しみんなで考えてから、またここに集まって決めよう」
「そうだな、伊坂の言う通りか。みんな、一度部屋で落ち着いて考えよう!」
そう冷静に締めたのは『伊坂 伊織』という男子生徒だった。
冷静な、このグループの中のブレイン担当という感じだった。俺は話した事ないけど。
そして、リーダーシップを発揮しているのは、クラス委員長である『和沼 コウヘイ』。
人気者というか、人望があるというか、たしか立候補したわけでもないのに委員長にされた生徒だ。それって半分嫌がらせもあるんじゃないだろうか。俺ならお断りです。
「クソ……吉岡も死んじまったし……外が危険なら、まだ誰か危険な目に遭うかもしれないんだろ……ああクソ! だったら強くしてもらうしかねぇだろ!」
「えー、じゃあ私のこと守ってよー。それで私試しに日本に戻れないか頼むからさぁ」
いつもなら先陣切って行動する『村木 茂』が、イラついた様子で語調を強める。
そして、なんというか気だるげな、いつも適当な印象をおぼえるこの女子は『沙美江 裕子』。
両方話したことはない。基本、俺は帰宅部で学校終わったら速攻で家に帰ってネトゲするタイプなので。陰キャ言うな、不必要な労力を割いてないだけです。
もう二人いる女子は、ただ大人しく成り行きを見守っている。俺と同じだ。
とりあえず、俺達は部屋に行ってみることになった。
「へぇ……俺達のホテルより豪華じゃん」
個室に入りそう感想を漏らしながらベッドに横になる。
やべ、どうしよう。何お願いしよう。日本に、地球に戻れないって明言されたしなぁ……。
「『安全な場所に移して』ダメだ、一〇字に収まらない……そもそも安全な場所に行ったからってどうやって生きていくんだ……なら力を貰うのか?」
不老不死にして! とかどうだろう……ダメだ。ここを抜け出した後も永遠に生き続けるとか不幸になる予感しかしない!
それに同じ結果を出す願いも無効だったよな……って、それなら誰かがもし先に抜け駆けして願い事をしたら、俺達はそれを知らずに同じ願い事をしてしまう可能性も!?
その考えに至ったその時、扉を誰かにノックされた。警戒しながら扉を開くとそこには――
「『静馬』君、ちょっと話をしたいんだけど……」
「びっくりした……ええと、『稲見』さん?」
そこにいたのは、たぶん陽キャグループの誰かと付き合うことになるんだろうなーと思っていた、カースト上位女子の『稲見 佳穂』さんだった。はて、なぜこんなところに。
「ちょっと他の男子は色々考えていそうで、私の話聞いてくれなさそうだったから……ねぇ、シズマ君はその……やっぱり危険から身を守る為の願いをするつもりなの……?」
「そうだね、たぶんそれしかないんじゃないかな……戻れないなら進むしかない。危険があるなら、対抗する手段を得るしかない。そんな感じ」
「じゃあ、どういうお願いするの? 武器とか、頼むの?」
「んーどうだろう。無限に使える強力な武器っていうのも中々思いつかないし……魔法とか?」
「魔法! そっか、なるほど……」
けどゲームだと魔法って使ったら使った分MP消費したりするのがお約束なんですけどね。この願いは却下かな。
「あ、そうだ。さっき部屋に戻る時さ、他のみんなが『一時間ギリギリまで考えた方がマシかもしれない』って言ってたから、ギリギリまで考えよう。私、勝手に人の部屋に来ちゃったから、みんなには内緒にしておいてね」
「あ、そうなんだ。分かった、じゃあ一時間後にまた。みんなもそれぞれ、何か身を守る手段を考えてくれているといいね。協力したらたぶん、安全なところまで抜け出せるよ」
ここはあれです、ネトゲ三昧の俺がお約束なイベントを指摘して、ちょっと皆の役に立てたり出来るチャンスですな。結構話してもスルーされること多かったから、このグループ。
どういう訳か元々仲良しな陽キャグループに入れられた所為で、若干浮いているというか、半分居ないモノ扱いされていた気がするので。
「なら私もギリギリまで考えておくね。じゃあ戻るから、シズマ君もまた後で」
「うん、また後で」
すると少しして、今度は話したことのない先程あらぶっていたムラキがやってきた。
はて? なんで俺の所に。
「お前、ゲームとかこういう状況に詳しかったりしないか?」
「詳しい訳ないでしょ、こんな超常現象」
「……良い考えはないのか?」
「んー……やっぱ力かな、安全に抜け出す為にも」
「力か。なら……やっぱり俺は武器か……」
「分からない、正直ムラキのことあまり知らないから、何も言えない」
「いや充分だ。邪魔したな、武器は俺が頼む」
む、まさかこちらの意見だけ聞きに来たのか。まぁ役に立てたなら……。
まぁでも、自分が何を頼むのか宣言して行くだけ誠実ではある……のか?
そうしてその後は誰も訪ねてくることもなく、圏外ではあるがスマホの時計機能が生きていたので、一時間が経過した段階で部屋の外に出る。
だが、そこで俺が見たのは、他のみんなが屋敷の外へ向かい、扉が閉まる様子だった。
「は!? おいなんでだよ、ふざけんなよ!!!」
急ぎ階下に降り扉に向かうと、先程の悪魔が現れ立ち塞がる。
「願い事はなしでいいのー? 一度出たら戻れないけど」
「っ! アイツら全員したのかよ……」
「したねぇ。いやぁ、絶対抜け駆けしたりこの後ギスギスするだろうなと思って部屋を与えたんだけど……見事なまでに切り捨てられたねキミー! 結構いい線行ってるアドバイスとかしてたけど、この扱い。うーん、これだからやめられないんだよねぇ」
クソ……この悪魔もクソだけど、あいつらなんなんだよ……仲良しグループに俺はいらないってか? くそ……くそぁ!
「さ、じゃあ君の願い事を聞こうか」
――そして今に至る。
お前ら、俺はもう知らないからな、お前らが俺を切り捨てたんじゃない、俺がお前らを今この瞬間切り捨てたんだ。もう絶対にお前達と協力なんてしてやらないからな。
「それにしても……いいね、凄い力感じるねキミー! なになに、その力で復讐する? すっごいわくわくしてきたんだけどー」
「煩い、お前だって同じくらい憎たらしいんだからな」
「は? あんま調子に乗るなよお前。お前も殺して――」
メニュー画面を開けば、しっかり俺が所持していたアイテムも存在している。
俺はその中から【聖大教会の祝福された強力な聖水】という、悪魔やアンデッドに対してダメージを与えるアイテムの中でも、最上位に位置するアイテムを取り出した。
アイテムの説明欄には『どんな悪魔も浄化、消滅させる』とある。
「お前も綺麗な赤い花を咲かせ――あれ? なんで効かない……お前調子乗るなよ、見逃してやるからとっとと引っ掻き回して来いよ!」
どうやら、吉岡先生と同じようになんらかの力で俺を殺そうとしていた悪魔っ子。
しかし特に何か変化を感じられないし、俺には効力がないようだった。なので――
「じゃあお前はこれでも飲んどけ!」
瓶を口に突っ込んでやると、その瞬間悪魔っ子の全身が発光し、そして――
「あああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
断末魔をあげて、跡形もなく消え去ったのであった。
すると、コロンと何かが落ちてきた。
【グリムグラムの心臓コア】
最悪のダンジョンマスターグリムグラムの心臓の魔石
強大な力を秘めている
ダンジョンを司るコアでもある
あれ……普通にメニュー画面に収納出来たし説明文もついてる。
これ凄く便利なのでは……?
「はは……ザマァミロ。後は……アイツらはどうしようか。関わらないでおけばそれでいいか」
すると、突然屋敷が溶けるように消えていった。
そうか……ダンジョンマスターって説明欄にあったけど、ここがダンジョンだったのか!
なら、ここの外に広がる森は別なダンジョンなのか?
「森が消える気配はなし、と。ここはまた別なのか……」
じゃあ……次は俺達を召喚、呼び出したとかいうこの世界の人間とやらに会いにいってみますか。幸い、俺の願いがあの悪魔の消滅で解除される様子もないようだし。
それにやり込みまくったマイキャラの強さは……少なくともあの悪魔程度じゃ敵わないくらいの強さだって判明したのだし。
「うーむ……装備とか耐性重視にしているからなのか、それともレベルか……」
ともあれ、俺は放置されたマイクロバスを捨て置き、一同が去って行ったであろう深い森の中へ向かうのだった。