泡沫じゃない、やるせない現実
「おはようございます」
朝の生駒駅のホーム。あいさつしてくるのは、1人しかいない。
「おはようございます」
森井さんだ。私と同じく、生駒市に住んでいて、何よりも同じ会社で働いている。
当然のことながら、仲がいいわけではない。
「そういえば、星野さんは慰労会に出ますか?」
慰労会は金曜日の夕方から夜、仕事終わりにある会社の飲み会だ。会社から補助金が出るらしいし残業扱いになるしで、出る人は多いはず。
「参加しません」
でも私は参加しない。
だって仕事でぐったり疲れているのに、飲み会に出る元気なんてないって。もしそんな元気があるのなら、私は飲み会に出るよりも仕事をもっと頑張りたい。
「僕も出ませんよ。似たもの同士ですね」
「そうですね」
生駒駅のホームから会社へと向かい、慰労会にもでない。そう考えると、同じところが多い。
「あっ夢洲行きの電車がきました」
くるっと後ろを向き、別のホームへ入ってくる電車を森井さんは指さす。
「確かに夢洲行きですね。コスモスクエア行きの電車が、夢洲行きの電車になったみたいです」
私や森井さんが利用しているのは、近鉄奈良線だ。そして今森井さんが見ているのは、近鉄けいはんな線。
近鉄けいはんな線から中央線へと、そのまま向かう。そのため中央線最後の駅の名前が、生駒駅でも見られる。
「星野さんは、万博行きますか?」
「万博には行きません」
疲れが脳にヘドロのように固まって、とれない。これで万博になんて、行く元気があるわけない。
「生駒駅でも万博アピール少ないですし、きっと価値がないんですよ」
「そうですね」
奈良県ではよう分からんうちに、イベントがどんどんなくなっていった。そこで万博をアピールする機会も少なかった。
それは仕方ない。
世の中全てがうまくいくわけないし、万博もそうだろうな。