検閲
むかしむかし、あるところに年齢を重ねた男性(『おじいさん』という表現は侮蔑的なため検閲)と、年齢を重ねた女性(『おばあさん』も同様に検閲)が住んでいました。
二人は仲睦まじく、互いを尊重しながら生活していました。ある日、二人で川へ洗濯に行くと、川上から大きな林檎(桃は性的な表現を含むため検閲)が『どんぶらこ、どんぶらこ』と流れてきました。
誰かの落とし物ではないかと考えた二人はその林檎を拾い上げ、自宅に持ち帰って保管することにしました。
「しかし、年齢を重ねた男性や、この暑さでは林檎がすぐに傷んでしまいますね」
「ううむ、確かにそうだ。食べ物を無駄にすることは良くない。食品ロス問題に加担することになる。二人で食べるとしよう。もし落とし主が現れたら、ちゃんと事情を説明すればいい。私はフェミニストだから、どんな相手とでも冷静に話し合える自信がある」
「そうですね。ちなみに私はジェンダー・フルイドです」
そうして二人は林檎を食べることにしました。しかし、林檎を割ろうとしたそのときでした。林檎がぽんと二つに割れて、そこから「おぎゃあ、おぎゃあ!」と耳心地の良い産声を上げるとても可愛らしく元気な赤ちゃんが飛び出してきました。
赤ちゃんを見て、二人はびっくりしましたが、すぐに大喜びしました。
「子供は国の宝ですね。赤ちゃんの誕生は素晴らしい。しかもこの子は服を着ています。男の子のようですが、すでに紳士的な振る舞い方を理解しているようですね」
「いや、この子はまだ自分の性別を認識していない。これから二人でジェンダーについてじっくりと教えていこう」
「そうですね。私としたことが、これは失礼しました。ところで、この子の名前はどうしましょうか」
「林檎から生まれた男の子だから、『林檎太郎』はどうだろう?」
「あら、男の子って決めつけちゃ駄目だって話したばかりじゃないですか。太郎だなんて……」
「これはうっかりしていた。しかし、太郎が男性専用の名前と決まっているわけではないぞ」
「なるほど、ジェンダーレスな名前が良いと思ったのですが、そういう考え方もありますね」
二人は話し合いの末、気に入らなかったら本人があとで改名できることを条件に『林檎太郎』と名付け、二人は赤ちゃんをそれはそれは大切に育てました。そのおかげで、林檎太郎は健やかに成長し、村の人気者になりました。
ある日、林檎太郎は村の子供たちからこんな話を聞きました。
あの山を越えて海を渡った先にある鬼ヶ島という島には、存在感のある人たち(『鬼』という表現は差別的なため検閲)がいて、ほうぼうの国から奪い取った宝を守っている、と。
義憤に燃えた林檎太郎は家に帰ると、年齢を重ねた二人にこう言いました。
「鬼ヶ島に行って、存在感のある人たちを成敗してきます。そして、奪われた宝を取り返してきます!」
二人はその決意を聞いて感動し、快く送り出すことにしました。
旅立ちの日の朝、林檎太郎は二人が手作りしたきび団子を受け取り、丁寧にお礼を言って家を出ました。
林檎太郎が道をずんずん進んでいると、草むらから「ワン、ワン」と吠えながらトランスジェンダー男性(『犬』という表現は侮蔑的なため検閲。また、多様性の観点から全体のキャストの四割以上がマイノリティの人種、女性、LGBTQ+、障がい者などであることとされています)が現れました。
トランスジェンダー男性は、林檎太郎に行き先を尋ねました。
林檎太郎が鬼ヶ島に行くことを伝えると、トランスジェンダー男性は「子供の一人旅は危ない。ついていこう」と申し出ました。林檎太郎はその好意に感謝し、二人で旅を続けることになりました。
山を越え、森の中を歩いていると、今度は木の上から「キーッ、キーッ」と叫びながら、トランスジェンダー女性(『猿』という表現は侮蔑的なため検閲)が降りてきました。
林檎太郎は行き先を尋ねられ、トランスジェンダー男性と同じように鬼ヶ島へ向かうことを伝えると、トランスジェンダー女性も仲間に加わることになりました。
森を抜けて広い野原に出ると、空から「ケーン、ケーン」と鳴きながら、雉が飛んできました。雉もお供になりました。
林檎太郎たちは海を渡り、ついに鬼ヶ島へ辿り着きました。
「ようこそ鬼ヶ島へ。さあ、どうぞこちらへ」
林檎太郎たちは、さっそく存在感のある人たちに出迎えられ、島内を案内されました。話し合いの場が設けられ、林檎太郎たちと存在感のある人たちは、社会問題やジェンダー、多様性について深く議論しました。
存在感のある人たちは林檎太郎たちがよく勉強していることに驚き、また林檎太郎たちも存在感のある人たちの多様な価値観にいたく感心しました。
最後に、林檎太郎は存在感のある人たちと握手を交わし、言いました。
「今日は素晴らしい話し合いができて、大変勉強になりました。ところで、あなた方がほうぼうの国や人から宝を奪ったという噂を聞いたのですが……」
「ああ、それは誤解です。私たちはそんなことをしていません。インターネットの根も葉もないデマですよ。それどころか、そうしたデマが広がるSNSの問題に頭を悩ませています。法律での規制が必要ですね」
「まったくもって同感です。フェイクニュースや誤情報は社会に悪影響を及ぼしますからね。私たちも注意しましょう」
こうして林檎太郎たちは鬼ヶ島での学びを終え、村へ帰りました。でも、物語はこれからです。林檎太郎は年齢を重ねた二人に今回の旅の成果について詳しく報告し、この経験を踏まえ、改めてこの社会の問題について私たちがどうすべきか、マイノリティが活躍できる環境を作るために、政府にどう訴えていくべきかを――国家安全保障上の理由で削除。