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第七話 初任務

 屋上での戦いから一夜が明け、俺は天宮のもつもう一つの事務所に来ていた。


 「おはよう。ちゃんと来たのね」


 昨日。殺し屋の手伝いをすると宣言したのも束の間、それ以上の追求や手続きもなく、天宮は近くのホテルに宿泊の手配をしてくれた。


 「まさか、逃げる可能性のある俺を一人でホテルに泊まらせるとはな」


 普通であれば考えられないことだが、こと彼女に至っては全てを把握していそうな底知れぬ不気味さがある。


 血迷って内緒で逃げようものならバレて直ちに殺されてしまってもおかしくない。


 「恨むなら自分の運命を恨むことね。もっともこれはあなたの決断。そうでしょ?シンタロウくん」


 「…そうだな」


 お得意の読心術か。もう驚かないけどな。


 「ところで、結局あの後草薙はどうなったんだ?」


 先の戦いで致死量の出血により戦闘不能になった草薙だが、俺が最後に見た時やつの首は繋がってはいた。


 結局その顛末を見届けることなく俺はホテルに帰されてしまったため、後のことはまだ知らない。


 「彼ならもう帰したわよ」


 「帰したって、大丈夫なのか?」


 「体のことなら、しっかりと不足した分の血液はある程度戻してあげたわよ」


 「それもそうだが…」


 「心配しなくても大丈夫よ。彼とはある取引をしたから、もうこちらに危害を加えようとは思っていないはずよ」


 取引という言葉に少し興味を持ったが、それを聞こうとした時、レイナが部屋に入ってきた。


 「あらレイナ、早かったじゃない」


 「おはようございますボス。と、シンタロウ」


 「おう、おはよう」


 「言われてたもの、用意できましたよ」


 そう言ってレイナは右手に持っていた少し大きめのカバンを机に置くと、その中身を取り出した。


 「手が早くて助かるわ。これで()から例の依頼に取り掛かれるわね」


 今から?依頼?

 「ちょっと待ってくれ、その前に、今日は俺が今後ここで活動していく上での確認だったりをするんじゃ…」


 「そのつもりだったのだけれど、レイナの準備が早かったものだから、依頼の方を優先するわ」


 「そうか。だったらさっさと済ませてきてくれ。話したいことが山ほどあるんだ」


 「それは結構なことだけれど、何を勘違いしているのかしら?あなたも既にここのメンバー。仕事はあなたも同行してもらうわよ」


 「は?いやいや、だって俺はまだ何も…」


 「OJTってやつですよ。いいから早く、シンタロウはこれに着替えてください」


 手慣れた様子で渡されたのは…高校の制服?


 「おい、コスプレとかどういう趣味だよ」


 俺の不満を孕んだツッコミに対してレイナは怪訝な顔をしながら答える。


 「つべこべ言わずに着替えてください。せっかく早く来たんですから、急げばホームルームに間に合います」


 ホームルーム!?

 という響きを懐かしく感じるってことは…少なくとも記憶を失う前の俺は学生ではなかったってことなんだろう。


 抵抗はあるが仕方ないのか…?

 とにかく、言われた通りに制服に着替えて俺たち三人は事務所を後にした。



***



 私立里神高校。事務所やホテルのあった場所から地下鉄に乗って八駅離れた所にある。


 都心の高校にしてはやや大きめの校舎。

 総生徒数1000人以上を誇るいわゆるマンモス校だ。


 マンモス校って響き、なんかいいよな。


 「わざわざこんな制服まで用意したってことは、ここの生徒になりすますってことだよな」


 「ええ。今回の任務の依頼人兼護衛対象はここにいる。じゃあ、あとは任せたわよ」


 「おいおい、天宮は行かないのかよ?」


 そういえば天宮だけは制服に着替えていない。


 「デリカシーのない男性はモテませんよ」


 「ちょ、ちょっとレイナ?それはそれで不適切なんじゃないかしら?」


 「大変失礼いたしました。以後気をつけますボス」


 どうやら変な茶番のスイッチを入れてしまったようだ。


 しかし、確かに天宮は学生って風には見えないもんな…


 「シンタロウくん、余計なことは考えなくていいのよ。ほら、2人とも急がないと遅れるわよ」


 天宮に背中を押されながら俺とレイナは校舎に足を踏み入れた。


 学校…か…


 どうだろう。何か思い出せるようなことがあるだろうか。


 「まずは職員室に向かいましょう。私たちは家の都合で転入してきた兄妹という設定になっています。互いにどのクラスに割り当てられるかはまだわかりませんが、普通の学生としてなるべく溶け込めるよう自然体でいることを意識してください」


 「お、おう。それで、俺はまだ具体的なことを何も知らないんだが…」


 「今は周りの生徒の目もありますし、説明は後です。とにかく自然体です。学生になりきってください」


 「そうは言っても、俺には当時の記憶だって…」


 記憶としてはないが、知識としては知っている。

 なんとも不思議な感覚だ。


 まぁ、やってみるさ。

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