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第十四話 不穏な予感

 放課後。レイナに呼ばれ、どういうわけか今朝の地雷系少女と三人でケーキを食べに行くことになった。


 彼女は今日転校してきた一年生で、クラスはレイナと同じ。名前を茅辻シュカというらしい。


 特にこの名前に聞き覚えはなかったが、やはり今朝感じた彼女に対する謎の思い入れは、再会した今も感じている。


 恋心、なんてわけもあるまい。

 冗談はさておき。彼女のことをもっと知ることが、失った記憶の手がかりにつながるかもしれない。

 今はこの違和感が頼りだ。


 「それで、お二人はどうしてこんな時期に転校していらしたんですか!?」


 「その話、どこで知ったんだ?」


 いきなりぶっ込んだことを聞いてきた。

 任務のことを話すわけにもいかないし、どう返したものか。確か設定では、家の都合…とかだっけか?


 「父の転勤の都合です。あなたの方こそ、どうしてこのような時期に転校を?」


 流石レイナ、甘味と聞いた時こそ少し乱れていたが、やはり彼女は冷静だ。

 天宮によれば、この茅辻シュカも一応警戒すべき人物。

 それとなく彼女に探りを入れるとは、こういうことは慣れているのだろうか。


 「家の事情で転校なんて、高校生にしてみればたまったものじゃありませんね!」


 「初めてのことじゃないし、もう慣れたよ。あと。別に敬語じゃなくていいよ。歳だって一つしか変わらない」


 「そ、そうですか?でもなんだか悪いですよ」


 「私も別に構わないわ」


 「ほ、ほんとですか?それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」


 「それで、あなたが転校してきた理由を伺っても?」


 「私がこんな変な時期に転校してきた理由はね…」


 そう言った茅辻は歩みを止め、少し身を屈めながら俺たちに手招きをする。


 それに応えて俺とレイナは彼女と同じく身を屈めると、茅辻は小声で囁いた。


 「私が転校してきた理由はね、任務のためなんです」


 任務。その言葉を聞いた瞬間、俺とレイナは即座に彼女と距離を取る。


 「任務とは一体なんですか?」


 警戒ゆえか、レイナがいつもよりも低い声色で彼女に問いかける。

 右腕をブラザーの下に入れて、いつでも手斧を取り出せるような体勢をとっている。


 俺もカバンの中に忍ばせた拳銃に手を伸ばす。


 とはいえここは学校からの帰り道。

 人の通りも少なくない。目立った戦闘は避けるべきだが…


 「え!?ちょ、ちょっと、え、なにどうしたの!?」


 「いいから答えなさい。任務のことを」


 「に、任務って、私はただ、人探しをしたいだけで!」


 「人探し?」


 「そう、人探し!失踪しちゃった私の幼馴染を探しに来たの!」


 「それは誰の命令ですか」


 「め、命令?違うよ!私は自分の意思で彼を探しに来たの!」


 と、ここで俺は気づく。

 俺たちが勘違いをしていたことに。


 レイナもそのことに気づいたのか、俺の方を一瞥した後、短いため息とともに姿勢を戻した。

 彼女が任務などという茶目っ気の効いた紛らわしい表現をしたおかげで危うく武器を見せるところだった。


 こんな業界に暮らしていても、銃刀法違反とかは気をつけるべきなのだ。バレたら普通にお縄だろう。


 「何か誤解をさせちゃったのかな…?だとしたらごめんね!私、たまに空気読めないからさ!」


 そう言って彼女は両手を胸の前に合わせてごめんのポーズをとる。

 てへぺろ とでも言いたげに舌を少し覗かせて。


 茅辻シュカ、なんというか、少し苦手なタイプかもしれない。予想外に楽観的というか、軽い性格なのだろうか。

 今朝の段階ではずいぶん礼儀正しい印象だったが、まぁ関係値によって口調や態度が違うのは何も珍しいことではないか。


 誤解も解けたことで、俺たちは間も無く目的のケーキ屋へとたどり着いた。

 イートインスペースのある店で、俺たちは一番奥の角席に陣取った。


 彼女の奢りということで、俺はアイスコーヒーを注文する。

 レイナがホールケーキを頼もうとした件については割愛しよう。茅辻にドン引かれた挙げ句、結局自腹でと言いながら注文していた。


 「それで、人探しのために転校とはこれまた随分思い切ったことをするんだな」


 「あまり合理的とは思えませんね。生徒数の多い高校といえど、わざわざ転校してくる必要があるのでしょうか」


 「まぁ色々事情があるんだよ」


 「事情…というのは?」


 「うーんそうだなぁ。例えばその相手が私のことを忘れてしまっている、とかね!」


 え?


 「なーんてのは冗談!まぁ、とにかく一筋縄じゃ行かない理由があるのよ」


 おいおい、心臓に悪いじゃないかまったく。

 人を揶揄ってる自覚があるんだかどうだか…


 それにしても、敬語をやめさせた途端、見違えるほどにキャラが変わった。


 もっとこう、気弱な印象だったのだが。今となっては見る影もない。クラスの人気者、所謂一軍女子という雰囲気だ。(一軍女子=人気者かどうかは疑問が残るが)


 しかし、不思議なことに、こうして様子を変えた彼女であっても、俺が感じた妙な思い入れは変わらず、むしろ強くなっているようにも感じられた。


 やはり、俺は彼女のことを知っているのだろうか。


 だがもしそうだとすると、彼女の方から触れてこないのはおかしい話だ。

 知り合いを前に初対面を偽る人間がいるはずもない。

 俺の勘違いなのだろうか。


 「とにかく、変な時期に転校してきた者同士、これから仲良くしていこうよ!」


 「仲良くなれば教えてくれるんですか?あなたが転校してきた理由」


 「うーん。それはお互い様、だよね!」


 ピロン という携帯の通知音。

 どうやら茅辻のスマホから鳴ったらしく、彼女は真顔で画面を一瞬確認する。


 「あーっと、ごめん!私いかなくっちゃ。改めまして、今朝は大変失礼いたしました!それと、これからよろしくね。お金、ここ置いとくから!じゃあねー!」


 と、一方的に打ち切られ、彼女は足早に店を去っていった。


 「レイナ。彼女のことどう思う?」


 「かなり怪しいですね」


 「だよな。あいつ、俺たちが転校してきた理由が嘘だってこと、わかってるみたいな雰囲気だった」


 「ええ。小出しにする情報のほとんどが冗談と言いながらも核心的です。万が一敵じゃないにしても、一般の生徒という線は消えましたね」


 茅辻シュカ。天宮とはまた違う形で不気味で不思議な女だ。


 「ただ、今日の昼に戦った相手が今回の依頼人に殺害予告を出した犯人だとするのであれば、それは男性であるはずです」


 「確かに。姿こそ見えなかったが、一瞬だけ聞こえたあの声は間違いなく男の声だ」


 「相手が複数人である可能性もなくはありませんが、あの場所で襲ってきた相手が一人であった以上、今は茅辻シュカよりも、佐久間ハヤテに警戒するべきでしょう」


 「そのことなんだが、どうやら坂城ヒロも午後の授業を欠席していたみたいなんだ」


 「坂城ヒロ?依頼人の弟がですか?」


 「ハヤテもヒロも揃って午後は欠席だ。ああでも、ヒロの方は鞄も靴も置きっぱなしだったな」


 「それ、ボスには報告したんですか?」


 ケーキを食べながら話していたレイナの動きが止まる。

 少し動揺したような表情でこちらをのぞいてくる。


 「い、いやまだしていない…天宮には帰宅してから伝えようと思っている」


 「そうですか…大事な情報は以後、なるべく早く伝えるように心がけてください」


 「重要?ヒロの欠席がそんなにか?」


 「ええ。佐久間ハヤテだけでなく坂城ヒロも午後は欠席。となると、坂城ヒロが今回の件に絡んでいる可能性が出てきました」


 「まさかヒロを疑っているのか?あいつは依頼人の弟だぞ」


 「飽くまで可能性の話です。それに、万が一彼が巻き込まれてしまっていては……いや、そうですね。かなりまずいかもしれません」


 「まさか、ヒロが人質に取られているかもしれない、なんてこと言わないよな?」


 「そのまさかですよ。常に最悪な状況を想定して動くべきです。とにかくボスに連絡を…」


 レイナが慌ててスマホを取り出したのと同時に、その画面には着信が表示される。


 『非通知設定』とだけ書かれた電話。

 一瞬躊躇いながらも、レイナは一呼吸おいてからその電話に出る。


 「…もしもし」


 『三琴レイナだな』


 電話越しに聞こえてきたのは男の声。


 『三琴シンタロウもそこにいるな?』


 聞き覚えのある男の声。


 『()()の身柄は確保した。生かしてほしければ、お前たち二人だけで校舎裏に来い』


 まさか。天宮は何をやっている。依頼人のそばにいたんじゃなかったのか。


 『嘘だと思うなら来なくともいい。その時はこいつらの首を掻っ切ってやるまでだ』


 「時間指定などはあるのでしょうか?」


 『今すぐ来い。必ず二人だけで来い。この件は他言無用だ。無論、『魔術師』を連れてこようものなら判明した瞬間に人質は殺す』


 「……わかったわ」


 そして電話は切られた。


 「どうするレイナ」


 「今は言う通りにするしかないでしょう。急ぎますよ」


 「わかった」


 俺たちは直ちに会計を済ませ、店を飛び出す。


 人質をとった上で、俺たちが二人だけで来ることを強く命令した犯人の目的はわからない。

 ただ、あの声を聞いてピンときた。


 犯人の正体が。

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