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01. 魔王暗殺指令

「スティレット13(サーティーン)よ。汝に魔王暗殺の特命を与える」


 ステンドグラスを背景に、漆黒の礼服を召した司祭様から命令が下った。


 暗殺は私のもっとも得意とする任務。

 いかなる相手が標的とされようとも、やぶさかではない。

 しかし、相手が魔王ではさすがに私の手に余る。


「司祭様。お言葉ですが、魔王ともなると私では荷が重いかと」

「いいや、今回は汝こそが相応しい任となる」

「通常の暗殺指令ではないのですか?」

「うむ――」


 司祭様は表情を曇らせた後、話を続けた。


「――昨晩、勇者様がお亡くなりになられた」

「勇者様が!?」


 勇者様と魔王との一騎打ちが行われたのはつい先日のこと。

 双方、互いに瀕死の重傷を負って退いたと聞いているが、まさか勇者様が亡くなられるなんて……。


「最高戦力を失ったことで、人間国家連合(ガヴァメント)の首脳陣はこれ以上の戦いは人間側に不利と判断された。魔王軍の次の侵攻が始まる前に、早急に戦いを終わらせる必要がある」

「それには同意いたします」

「そこで首脳陣がある決定を下された。休戦を申し入れる代償として、聖女様を婚姻相手として魔王に捧げることとなったのだ」

「聖女様を? 魔王が以前より聖女様の神力を狙っていたことは聞いておりますが、それは余りにも酷では」

「その通りだ。我々を神託によって導かれる聖女様を、あのような化け物に捧げられるわけがない。そこで首脳陣は聖女に扮した暗殺者を送り込むことにした」

「……それが私というわけですね」


 私が聖女様に扮して、魔王の居城へと潜り込む。

 そして、魔王の寝首を掻く――それこそが真の狙い。


 戦闘が前提でないのなら、私でも魔王を殺せる可能性はある。


「汝は聖女様と並ぶ美貌に加えて、卓越した洞察力と的確な判断力、さらに暗殺成功率100%という実績を持つ。他に適任はおるまい」

「承知しました。魔王暗殺の任、謹んでお受けいたします」

「うむ。勇者様亡き後、世界の存亡は汝の肩にかかっていると心得よ」

「身命を賭して、必ずや遣り遂げてご覧に入れます」

「スティレット13(サーティーン)よ。汝に女神の加護があらんことを――」









 私には名前がない。

 スティレットとは、私が所属する教会直属の暗殺部隊の一つ。

 13(サーティーン)とは、私という存在を示す番号。


 私には過去がない。

 物心ついた頃には、部隊の一員として殺しの指導を受けていた。

 親も知らず、友もおらず、私の記憶に刻まれていくのは標的の顔ばかり。


 私には軸がない。

 いついかなる時も教会の命に従い、標的を殺すために全霊を尽くす。

 意思はなく、夢や希望を抱くことも許されず、世界のために身を粉にする。


 私は闇に生きる暗殺者。

 それ以外でもそれ以下でもない――他の生き方など知る由もない。

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