白虎と対峙する
「リン。今日も中庭に行くのかい?」
一麒が僕の髪にキスを落としながら聞く。日に日に僕への接触回数が増えて来ている。最初から距離感がおかしかったが、次第に肩を組んだり、腰を抱いてきたりしだした。一麒が言うには僕に触れると力が湧くのだという。僕自身そんな風に触れられて嬉しく感じていた。
「ん~? 僕ってチョロいのか?」
「ふ~ん、自分でチョロいってわかってんのかよ」
池のほとりで白虎が立ってニヤついていた。ではもう夕方なのか? 草いじりに夢中で時間がたつのを忘れていた。白虎は見た目は少年なのに仕草がエロ親父っぽい。コイツ本当は何歳なんだろうか?
「うるさいよ。一麒なら書き物をしていたよ。早く会いに行けよ」
白虎相手だとついついぞんざいな言い方になってしまう。本当はもっと白虎と話してみたいが、ふざけた態度に腹が立つ。背を向けてその場を立ち去ろうとした。
「ちょっ、待てよ」
白虎が僕の手を掴んだ。瞬間、白虎の背後から黒い影が抜け出ていった。
「うわっ……なんだ?今の?」
「わからないが、何かよくないモノだった気がする。大丈夫か?」
「ああ。リンが俺に浄化をかけたのか?」
「なにそれ? よくわかんないよ」
「そうか……今日はお前に用があるんだ」
「ふうん。僕も白虎に話があるんだ。なんでそんなに僕を嫌うんだ?」
「別に……嫌ってなんかいない。一麒様が気に入ってるのは確かだし。だからこそ、お前がどういうつもりなのかが知りたいのさ」
「正直、世界がどうとかってのは漠然過ぎてわからない。だけど一麒を支えたいと思ってるよ」
一麒様を支えることによって権力を手に入れようと思ってるんじゃないだろうな?」
「なんだよそれ? 仮に手に入れたとして何に使うんだ?」
「それは、その……世界を破滅に向かわせるとか」
「そんなことして何が面白いの?」
「じゃ、じゃあ、なんでお前は一麒様とまだ番わないんだ!」
僕と一麒が番ってないのは四神達にはバレバレだってわけかぁ。だってこちらにきてからやたらと眠いんだ。玄武には疲れてるからだと毎晩疲れを癒すハーブティーを飲ませてもらってる。
「な、なんでそんな事言われなきゃいけないのさ。まさか、一麒ってそんなに力を消耗してるの?」
「それは……。お前には言うなって言われてたんだ」
「もう言ってるじゃん」
「かなり滅入ってらっしゃるのは確かだ」
「僕は本当に御霊なの? 一麒は僕はまだ覚醒してないって言ってた」
「リンは一麒様のことはどう思ってるんだ?」
「嫌じゃないよ。一緒にいて安心するし、ずっと傍にいたいような」
「好きなのか?」
「うん。たぶん」
「そうか。良かった。それなら添い寝するだけでも良いから傍にいてあげて欲しい」
「わ、わかった。善処する」
「それから、玄武には気をつけろ」
「え? なんで?」
「もうリンも聞いてるだろうが、俺が連れてきた番候補は番じゃなかったんだ。そのせいで一麒様のお心を傷つけてしまった。俺は見誤った。でもそれには何か力が働いていた気がするんだよ」
「まさか、それが玄武だっていうの? 玄玄武はそんなことしないよ!」
「俺にリンが何かを企んでるようだと言いに来たのは玄武だぜ」
「えっ? そんな。信じられないよ」
「ったく! 本当にお人よしだなあ。きっと玄武は俺がまだ番候補を憎んでると思い込んでいて近づいてきたんだろう」
「白虎は僕を嫌ってるんじゃないの?」
「何度も言わせるなよ。嫌ってなんかない。リンからは一麒様と同じ【仁の波動】が感じられる。後はきっと、自覚が足らないんじゃないか?」
「だって僕は番候補なだけだって」
「誰がそんなこと言ったんだ?」
「それは……玄武が……」
「ちっ! リン。いいか。今夜からはもう玄武が出した茶や食べ物を口にするんじゃねえ」
玄武は白虎に気をつけろというが白虎は玄武に気をつけろという。
どうしたらいいんだ? 誰を信じたらいいのかわからない。
「リン? どうしたのだ? 顔が青いようだが」
「一麒。なんでもないよ。ちょっと疲れただけだよ」
だめだ。一麒に心配かけちゃ。ただでさえ公務で忙しい身なのにこれ以上つまらないことで気をつかわせちゃいけない。
「リン様は今日は一日中庭にいらっしゃった様子。手入れに夢中になられたのでしょう? 疲れてるならいいお茶がありますよ。お淹れしましょう」
玄武の茶は飲むなって白虎は言ってたよな。
「いや、のどは渇いてないよ」
「ではちょっと息抜きに散歩にでよう。リン着いてきてくれ。今日は一日書き物をしていて身体を動かしたいんだ。玄武、悪いが書類の整理をたのむ」
「御意。お気を付けくださいまし」
笑顔で僕たちをみおくる玄武はどう見ても気のいいおじいちゃん執事だ。