霊獣
どのくらい気を失っていたのだろうか。目を開けると一麒の優しい瞳が細くなる。
僕を抱えながら一麒は皆に指示をだしている。目が醒めるような青い官服が揺れているので青龍が来ているのだろう。となればもう朝が来たのだ。昨夜の事はどうなったのかと身体を起こすと周りの景色が目に入る。
そこは中庭だった。芝生の上に一麒は座り僕を抱きかかえていたようだ。
庭には緑が覆い茂っていた。色鮮やかな花々が咲き乱れている。
池の中には金と銀の魚が泳いでいる。白い水連が咲き誇り、桃色の花びらが風に乗って舞っていた。なんて幻想的な風景なのだろう。桃源郷のようだ。
「あぁ、そうだ。この景色を僕はいつも見ていたんだ」
ふいに記憶がよみがえる。此処は僕のお気に入りの場所だったのだ。だから無意識に入り浸っていたのだろう。確かめるように一麒を見つめると優しくほほ笑んでくれた。
暖かい風がふわりと吹くと赤い官服が現れた。
「朱雀? その手にあるのはなあに?」
「これは、玄武ですよ」
「え? 玄武なの?」
朱雀の手には布にくるまれた小さな霊獣がいた。ふるふる身体を震わせてあくびをしている。
「ふふ。可愛いなあ」
あのあと、チカラを取り戻した一麒が闇を一掃し、玄武から邪悪を分離させたらしい。
結界のほころびは青龍が直し、玄武の再生は朱雀が請け負ったようだ。
「僕が玄武を育てるよ」
「そういうと思ってたよ……思っておりました」
いつの間にか白虎が傍に立っていた。まだ夕方じゃないのに?
「今まで通りに話しかけてよ。白虎に丁寧に話されると気持ち悪いよ」
「なんだよそりゃ。わかったよ。無礼講で頼む」
麒麟が再生し四神達のチカラも戻ってきたようで、しばらくの間は時間規制なしで皆で交代に持ち場を護ることになったらしい。
◇◆◇
――――チリーンと鈴の音が聞こえる。
一麒が片眉をあげて立ち上がり正面を睨んだ。
「怖いよ〜。そんな顔でみるなよ。リンちゃん連れてきたのボクなんだからさあ」
白い衣装に身を包んだ青年が現れた。事故後すぐにリンに声をかけた青年だ。
「それにおいては感謝している」
「でしょ? でしょう? まあ、ボクもさ悪い事したって思ってたからさ」
「あの、その節はどうも? それで、貴方はどちらさまですか?」
「ボク? ボクはね~。白澤其処の白虎が連れてきた子の旦那様だよ」
「ええ? では最初の候補の子を攫って番にしたのは……」
「攫ってないよ。合意の元。素直で良い子で気が合ったんだよね」
「リン、こいつも霊獣だ。親戚みたいなもんだ」
「一麒も四神達もチカラが弱まってたみたいだからね。ボクが探しに行ったんだよ」
「ほんとはお前みたいなやつに頼みたくなかったんだ」
白虎がふくれっ面をみせる。
「ひょっとして白虎は、白澤が僕を見つけてきたから機嫌が悪かったの?」
「うっ……そうだ。すまなかった。でもこんなチャラチャラした奴が連れてきたんだぞ! 誰だって警戒するだろうに!」
「ひっどいなぁ。でも、まぁ。いろいろと無事に片付いたみたいだしボクはそろそろ退散するかな」
「白澤。番を大事にしろよ」
「わかってるよ。麒麟の愛情深さにはまけるけどね」
白澤はぴょんと白猫に姿を変える。
「あ! あれは……そっか。シロだったのか」
チリーンと鈴の音が鳴ると今度は大きく身体を膨らませ左右に目を四つ持った霊獣になって消えて行った。
「僕はいろんな人、いや、霊獣たちに見守られてたんだね」
「リン。お前は本当に素直だな」
「これからも一麒と一緒に皆を護っていきたい。僕を番にしてくれてありがとう」
「私こそ。戻ってきてくれてありがとう。もう一生離さない」
たくさんの花が咲き乱れる霊獣たちの園は今日も楽し気な笑い声が響いていた。。
おわり




