あまりにもおばかさん
今日はマジメなお話です。
タイトルに覚えのある諸兄もいらっしゃるかも??
従弟の中で女の子は、私ただ一人だった。
さりとて祖父から何か特別扱いされた覚えはない、良くも悪くも……
高校1年が終わり、せっかくの春休みに突然祖父から電話が来た。
ちょうど出掛けようとした私のフードをひっ捕まえながら母は祖父の応対をしている。
「ええ、孝弘さんは出張中ですし、私と和希は入塾説明会があるので咲来一人で行かせますね」
またお祖父ちゃんの“迷惑”が勃発したようだ!!
私同様(ってか順序は逆か)『お祖父ちゃんが苦手』なお母さんは早々に電話を切って肩を竦めた。
「聞いてたでしょ?!アンタ、明日からお祖父ちゃんのとこへ行って来なさい!」
「ええ~!!何で??!!」
「さあ……アンタに用があるって言ってたわ。それから!!お祖父ちゃんにお小遣いとか、せびっちゃダメよ!この間お年玉いただいたばかりなんだし」
「こないだって!! もうふた月以上前じゃん!! ヤコちゃん達と“シー”行く予定だから軍資金作りで春休みはバイトしようと思ってたのに!!」
「取って付けたような事、言わないの!!」
「いいもん! お父さんに損失補填してもらうから!」
「じゃあ、そうしなさい! ま、お父さんがヘソクリでもしていたらの話だけど……」
「オニ!!」
という訳で、次の日、電車を3つも乗り継いで(交通費の出所はお母さんのパート代)お祖父ちゃんの家へ向かった。
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長年連れ添った夫婦は普通、年上の夫の方が先に亡くなるものだが、ウチは優しかったお祖母ちゃんが先に亡くなった。
後に残った偏屈なお祖父ちゃんは誰に面倒をみてもらうでもなく、独り暮らしだ。
私が小さい頃はまだ葡萄園をやっていて、シーズンになると親戚総出で行ったものだけど、7年前に閉園してからは、ろくに手入れもせず葡萄畑も荒れ放題!!
お祖父ちゃんは丸二日、私をこき使ってこの荒れた葡萄畑の一角を整え、私の名を記した札を立てた。
「この区画だけはオレが手入れしておいてやる! だから安心してひ孫を連れて来い!!」
この有り難くも無い申し出に、こき使われヘロヘロになっていた私は心の中で悪態をついた。
「来年の事を言っても鬼が笑うのに、いったい幾つまで生きるつもりなんだよ!! 第一、こんな所へ自分の子供は連れて来ねえよ!!」
そんな私とは裏腹にジジイはすこぶる満足気だ!
「もう、私の役目は終わったよね! 明日の朝、駅まで送って! 明日の朝ごはんまでは私が作ってあげるから」
「何言ってんだ! 明日はお前を連れて行く所があるんだ!!」
「ええ~っ!!!」
その夜の私のグチはL●NEだけでは物足らず、お母さんやお父さんに直電し、結果、お父さんのヘソクリを吐き出させた。
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ジジイが途中で花なんか買うから「?」だったが、軽トラで連れて来られたのは見ず知らずの人のお墓だった。
この“千草家”のお墓もジジイの指示の元、“私”が掃除させられた。
“千草家”のお墓は周りのどのお墓よりも手が入っておらず、啓蟄していた不気味な虫ドモに私は何度も叫び声を上げ、都度!涙目になった。
「オレに感謝しろよ! これでお前はどこへは墓参りに行っても恥ずかしくなくなった!!」
場所が場所でなければ……
「ジジイぶっ殺す!!」と言いたかったがグッ!と言葉を呑み込んでお線香の束にライターで火を点けようとした。
「コラッ!! ろうそくからお線香に火を灯すんだ!!」
ジジイが目を三角にして怒るので私はしぶしぶ従った。
お線香から煙が立ち上り、ジジイがお墓に手を合わせるので私もそれに倣った。
「ねえ、誰のお墓なの?」
と聞くと、ジジイがはいかにも話したそうに
「お前、このじいさんの秘密を聞きたいか?」
なんて言うので、
本当はそんな気は皆無だったが、ここまで来たらもう“ボランティア”の気持ちで、私は黙って頷いた。
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「このお墓に眠っている方はオレの高校時代の1学年上の先輩で……オレにとっては憧れの女性だった。だからオレは迷う事無く、彼女が進学した東京の私学へ進学し、全共闘に入ったんだ。55年前の話だ……」
ここから先の話は令和のJKの私には余りにもピンとこない話で……ジジイの独善と偏見に満ちていると思われるので、ここには記さない。だから最後の所だけ……
「……貴子さんは、24日後に亡くなった。そんな事情から報道もされなかった。彼女の家族はそれを恥としていたからな。もっとも今はみんな亡くなってしまったので、その家族ごと、オレがこうしてたまに来ては想い出している」
私はジジイにどんな顔をして良いか分からなかったのでただ、お墓の方を向いていた。
「まあ、お前にこんな話をするのもどうかと思ったんだが、オレの血から出た初めての女の子だから……やはり言っておこうと思ってな!」
「何を?」
「お前、貴子さんをどう思う?」
「そんなのわかんないけど……私は、やっぱり命がけとかは考えないと思う。うん! 逆にそこまで行っちゃうのは恐い! 貴子さんには申し訳ないけど……」
いつもの様に怒り出すかと思ったお祖父さんは……私に静かな笑顔を見せて頷いた。
「うん、それを聞いて安心した。オレの孫の中で一番しっかりしているのが女の子のお前で良かったよ。オレも貴子さんが亡くなった時には泣きながら同じ様に思ったよ!」
お祖父さんはお墓にもう一度手を合わせ、深く頭を下げた。
「オレも所詮、その程度のノンポリだったからな。 ちょうどその頃に流行っていた唄の歌詞が思い出されて……ただただ泣けちまったよ」
私はお祖父さんの感傷に寄り添う事もできないし……そもそも“寄り添う”なんて事はやらないから、その歌にも興味は無い。
ただ……お祖父さんも少しは私の事を思っていてくれたのは……悪くはないかな。
おしまい
色々差し障りがありそうなので思いっ切りボカしてます<m(__)m>
このお話は“昭和デカ”の資料集めの中からネタを拾って来ました。
私は咲来ちゃんほどは若くはないですが(笑)当然、リアルな世代では無いので、あちこち違っているかもしれませんが<m(__)m>
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