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狐の花嫁  作者: 悠木 泉
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光の中へ

九尾の狐との約束は守らねばならない。

しかし、霊力は戻らない。

狐が戻すことを許さないのだ。

結婚式は一週間後と決まった。

るりかの父は、よりによって狐の花嫁になると言う娘が不憫でならない。

「大丈夫よ。お父さん何とかなるわ」

るりかは、自分の悲しみや不安は胸に隠して父を慰める。

そんなとき九尾の狐が夢に現れる。

「お前を花嫁にするつもりだったがそれはやめる。その代わりに私の息子ハヤトの嫁になってほしい。」

狐の言うことには、息子のハヤトはずっとるりかのことを見守ってきた。

霊力を戻してもらえないるりかに、何とかして力を戻してやってくれないかとうるさく言ってくる。

力を戻してやる代わりにお前は何をするのかとたずねると、私の狐としての全ての能力を父上に返上しますというのだ。

狐から全ての能力を取ったら唯のキツネ、いやキツネ以下の人間になってしまう。

しかし、ハヤトはそれでも良いと言う。

お前に力が戻り、また神社に参拝客がつめかけて里が賑わえば満足だと言うのだ。

昔、ハヤトを助けてくれたことへの恩もあるし、かわいい一人息子の願いもきいてやれないで父親とは言えないからハヤトの思う通りにしてやることにした。とのこと。

「つまり、お前は私ではなくハヤトの嫁になるのだ。どうする?」

るりかは承諾する。

自分に霊力を戻すために狐としての全能力を失くすことを選んだハヤトに愛情を感じたからだ。

人間であってもあの男は、己のことだけ考えていた。

自分の命さえ助かれば良いと。

私の悩みも苦しみも全く意に介さずに去って行った。

それを思えば狐であっても私への深い愛を感じる。

一週間後、るりかとハヤトの結婚式が行われた。

稲荷神社の赤い鳥居の下に立ったるりかは、純白の花嫁衣装に紅をほんのり唇に差しとても美しい。

その隣りにはグレーヘアーを肩まで垂らした長身の美青年がいる。

狐としての全能力を無くしたハヤトは最早狐ではなく人間の姿をしているのだ。

「るりかさん、とても綺麗です。こんな私の花嫁になって頂いて有難うございます。本当に幸福です」

「ハヤトさんはずっと私を見守っていて下さったと聞きましたがなぜ?」

「それは、私が子供の頃、人間のいじめっ子たちに石を投げられケガをして動けなかったとき、るりかさんに助けられたからです。それがうれしくて何かお返しがしたくて、でも唯、見守ることしか出来なくて…」

「あの時の子ギツネさんがハヤトさんなのね。本当に長い間ありがとうございます」

 そう聞くとるりかには思い当たることがあった。

カゼをこじらせて熱が下がらなかったとき、窓辺に熱さましの薬草が置かれていたし、霊力のある自分を気味悪がって母が家を出て淋しかったとき、キレイな野の花が束ねられていたし、かわいいお人形が添えられていたこともあった。

どれも父がしてくれていたと思っていたが、すべてハヤトがしていたことだったのだ。

改めてるりかは、ハヤトのやさしさに感動した。

たとえハヤトが狐であっても、心やさしいならうまくやっていけるかもしれない。

「ハヤトさん。私の方こそよろしくお願いします」

るりかの父は、娘が狐の嫁になるなど哀れすぎて共に命をたとうかとも考えたが、るりかが心からそう願ったので断念したのだ。

 しかし、心配でならない。

結婚式の朝、稲荷神社に出向いた父の前に九尾の狐が現れた。

「何も心配することはない。お前の娘と私の息子はきっと仲睦まじくやっていくだろう」

そう言うと朝もやの中へ姿を消した。

るりかの父は、その言葉を信じたかった。

そうするしか自分とて生きていく術はない。

父は神殿の入口に立ち、はっきりと見た。

鳥居の下から神殿の奥へ入っていく花嫁衣装のるりか、その側には真白い美しい毛並みの狐が寄りそっているのを。

その瞬間、神殿奥から眩しい光が差しこみ、るりかとハヤトはその光の中へ吸い込まれるように消えて行った。


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