悪魔がウチにおりまして・88
まだ正月です。
正月ったら正月なんです。
仕事から帰ってきたクモがせわしない。
いつもはウチの子たちの中で一番精神年齢が高いはずのクモが、なにやらそわそわしている。
うぱがふよふよと近付くと何やら会話しているような気がする。
どっちの言葉も拾えないのでどんな話をしているのかは全く分からないのだが。
「ニンゲン、ただいまなのですー」
畳から生えてきた悪魔。
仕事は終わったのかしら。
「いやー大変でしたー。始末書がたくさん溜まってまして。とりあえず首にはならなかったですー」
それ、間違いなく大晦日のアレのせいよね?
なんか、ごめん。
始末書という単語を聞いてクモが脚を振っている。
そう、それ!みたいに見えるけどどうしたの?
「クモちゃん、どうしましたー?ふむふむ、あーなるほどですねー」
そういえば、悪魔はクモと会話出来たんだっけ。
「なんかクモちゃん、こちらの世界に入ったときに瘴気吸っちゃったみたいで。しばらく謹慎だそうですー」
そんな朗らかに言うことじゃなくない?
「大丈夫ですよ、ニンゲンも未知の病気貰うと隔離するでしょー」
悪魔界の瘴気とインフルを一緒レベルに語られても。
「クモちゃんの仏門はボクたちの世界に疎いですからね。しばらくお休みするそうです」
「それって破門とか?」
クモが破門という言葉を聞いたら飛び跳ねて泣き始めた。
クモって…泣くのか。
「ただいま戻りまちた…クモ殿?いかがなさいまちた?」
いいタイミングで狐が帰ってくる。
似たような系統だから安心させてあげなさい。
「ふむふむ。大丈夫ですよ、クモ殿。破門されても一から修行をすれば」
狐の言葉にクモはコテンと気を失ってしまう。
トドメを刺すんじゃない。
「実際、ウチの空気はキツイ方にはキツイと聞きます。瘴気ですから。クモちゃんがたまたま平気なだけかも知れません」
珍しく悪魔が腕を組んで考え込んでいる。
「そうだ!」
悪魔が手を打つと、スマホを取り出して電話を始める。
「あ、もしもし?急用です。正月?お仕事してほしいのです」
割と不機嫌を隠そうとしない悪魔も珍し…。
「あのねー。正月くらい休み欲しいんだよ?」
電話の最中、耳にスマホを当てた歯医者がスッと現れる。
もはや、隠す気無いのね。
歯医者の検査?の結果瘴気を全部取り除くことに成功。
クモは晴れて自宅謹慎が解けて修行に戻っていくのでした。
「請求は誰に?割り増し料当然取るからね」
「専務充てにお願いします」
悪魔がまた始末書書かされないか不安です。




