悪魔がウチにおりまして・9
映画館には悪魔がいる。
赤い髪に角を生やした悪魔が。
近所のモールに着くと早速券売機に向かう。
休日の朝だというのに、なかなか賑わっている。
悪魔が見たいと言った「天使対悪魔」を見るためにこの地雷系に身を包んだ悪魔を連れて来たのだが、結構浮いている。
同じ時期にアニメ映画が封切りになったせいだろうか、親子連れが多い。
「ニンゲン、早くチケットを。ポップコーンが買えなくなります」
はいはい、と空返事をしながら券売機に並ぶ。
映画館で映画を観ることなど久しぶりだ。
タイトル、人数、座席を指定したのちチケット種類で手が止まる。
この子は、どれだ?
見た目ティーン。実年齢不明…というか気にしたこともなかった。
「あんた、いくつ?」
「数えてません。この中ならシニアですかね?」
見えません、なんなら学生にすら見えます。
面倒になり、大人2枚購入。お金を出そうとする悪魔の財布をしまわせる。
「ならポップコーンは奢ります」
そう言うとスナックコーナーの列に並ぶ悪魔。
人波に埋もれているが大丈夫だろうか…。
「ギリギリ間に合いました」
ソファーに座っていると明らかにLサイズのポップコーンとドリンクをふたつ抱えた悪魔が舞い戻る。
え、ふたつ?
ご丁寧にバターのたっぷりかかったポップコーン。
知ってます?カロリーって太るんですけど。
「カロリーは美味しいですから」
食事で栄養を取ってないこいつは幸せそうにひとつ口に含む。
「ほら、ニンゲン。早くいかないと始まってしまいます」
「始まるまであと10分あるから平気でしょ」
スマホを見ると、やっとシアターに入れる時間、そんなに慌てなくてもまだ時間に余裕は…。
「何言っているんですか。映画は予告編から楽しむのがマナーです」
どこのマナーだ。
その言葉がきっかけになったかのように、入場アナウンスが鳴り響く。
「ほら、ニンゲン!行きますよ」
満面の笑みで入場の列に進んでいく悪魔。
突っ込まないようにしようと思った。
でもそろそろ無理だった。
「外でニンゲンと言わないように」
「ほぇ?」
映画館には悪魔がいる。
自分も今はニンゲンと忘れて居る、悪魔が。