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悪魔がウチにおりまして・882

ウチには牛がいる。

寝そべって電子タバコを吸っている牛が。


「ウチで吸わないでよ」

ウチには喫煙者いないんだから。

「ミミさんに呼ばれて。これでも遠慮してるんですよ」

そのふてぶてしい身体をこんがり焼いてやろうかしら。

「悪魔が呼んだの?」

「ですねぇ、なんかこの前の油の感想を聞きたいと」

あー、アボカド油。評判良いならたくさん作るってやつ。

「悪魔ももいろいろしてるわよねぇ」

そんな大したことない感想に牛はむっくり起き上がる。

「ニンゲンさん、いつまでミミさんのこと”悪魔”って呼ぶんです?」

「……アンタも私のことニンゲンって呼ぶじゃない」

「あいたたたー」

あいたじゃないのよ。

「まぁ、それはそれとして。私たちが関わっているニンゲンはニンゲンさんだけですからね。でも、ニンゲンさんは違う」

ニンゲンのゲシュタルト崩壊が起きそうなんですけど。

「かと言って今更ミミ呼び?」

絶対に気持ち悪がると思うのですが。

「それは私もそう思いますよ」

なら、なんで言った。

「ここまで長く付き合っているニンゲンは初めてなので。大抵追い出すか、祓うかします」

「祓う必要、ある?」

騒がしいけど悪意は……たまにある。

「やっぱり祓う必要かもしれない」

「10秒前の言葉覆さないでくださいよ」

牛は呆れながら2本目のタバコカートリッジを差す。

「ニンゲンさんが困ってないなら構わないんですけど」

「含みがある言い方じゃない」

牛は特に表情を変えずにむっつりこちらを眺めている。

「含みを感じるならそれはニンゲンさんが思うところあるんじゃないですか?」

「むぅ」

「むぅじゃ無いですよ、良い大人でしょ」

「ただいまですー」

タイミングが良いのか悪いのか、悪魔がクローゼットから飛び出してくる。

「ミミさん、呼んどいて待たせるのは罰金ですよー」

「そんなこと言ってたらうどん値上げですよー」

嫌なジャブを打ち合うな。

「ねぇ”ミミ”今夜何食べたい?」

悪魔はゆっくりと近付いて私の頭に手をやった。

「熱は……」

「無いわよ!」

もう2度と呼ばん!


ウチには牛がいる。

拳がめり込むまでニヤけていた牛が。

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