悪魔がウチにおりまして・863
ウチには悪魔がいる。
なんか長い棒を持っている悪魔が。
「ニンゲン!クリケットを食べたいのです!」
おう、冒頭から異世界の話をしている。
「アンタが持ってる棒でやるスポーツよ、クリケット」
「そんな!この棒で薄く切ったお肉をしゃぶしゃぶして食べるって聞きました!」
正解の料理名、言ってるのに気付かなかったの?
「なに、しゃぶしゃぶ食べたいの?」
それくらいなら、と思って聞くと悪魔は大きく首を振った。
「しゃぶしゃぶ、じゃなくてクリケットを食べてみたかったのですー」
あー、分かる気がする。知らない料理って気になるよね。
「ちなみに誰から聞いたの?」
「いっつみー!いもむーし!」
勢いよく、くるくると回りながらベランダから入ってきたイモ虫を、悪魔はクリケットバットを使って転がしていく。
「ふげっ!うごっ!ミミちゃん!上手い!」
感想そっちなんだ?
そのまま玄関の扉を開いてお外にシュート!
「ニンゲンー、運動したらおなか減ったですー」
ウチには悪魔がいる。
ハンバーガーをイーツしようと……。
「おわ!るな!」
イモ虫は再びベランダから飛び込んできた。
「イモちゃん、ボクの純情を踏みにじった罪は重いのです。ボクにクリケットを御馳走するのです、罪はそうじゃないと漱げないのです」
食べ物の恨みって恐ろしいわねぇ。
「ない!そんな料理は!ない!」
「ニンゲン!煙!」
今焚いたら、私らも煙いでしょうよ。
「そんなミミちゃんには大鵬という料理を」
「相撲取りよね?」
「ちっ!」
イモ虫、今全力で舌打ちしなかった?
「たいほー!縁起がよさそうな名前ですー!」
「その昔、巨人・大鵬・卵焼きと言って、荒ぶる巨人に捧げた卵焼きに付け合わせる……」
「関取よね?」
「ちっっ!!」
なんで騙せると思ってるの?
「ニンゲン、何を言ってるです!お相撲さんが巨人を勝てるわけないです!」
こうやって騙されやすいのは抜け出せないんだなぁ。
「しかし、大鵬を手に入れるには希少なドーパミンを仕入れないとですね」
絶対に手に入らない物を仕入れるんじゃない。
「ニンゲン!旅に出るです!ドーパミンを探しに!」
ウチにはイモ虫がいる。
「こうやって騙すの楽しいわぁ」
やっぱりコイツ焚いておくべきかも知れないイモ虫が。




