悪魔がウチにおりまして・83
私は悪魔の世界に居る。
専務さんの部屋で紅茶を飲みながら。
牢獄から連れ出されるとそのまま、専務さんの部屋に連れて来られた。
「そう警戒しなさんな。毒など入れていない、ヤギの物以外は」
その言葉を聞いた羊は飲んでいた紅茶を滝のようにティーカップに戻している。
バッチいからやめろください。
「冗談に決まっている。今日労基がうるさくてな、あとあと突かれても敵わない」
その言葉に胸を撫で下ろしながら再び紅茶を飲む羊。
倣って悪魔も紅茶に口を付ける。
ツッコミが足らないので口を閉ざすことにいたしましょう。
「しかし、なぜわざわざ偽造してまで?」
解せない様子で尋ねてくる専務さん。
それ、書類用意した歯医者に言って欲しいものである。
「歯医者さんに貰ったんですけどね、ニセモノだなんて知らず」
「…あぁ、なるほど。ただの悪ふざけか」
悪ふざけで投獄された身にもなってほしいものである。
「やはりあのニンゲンは悪魔です…そうです、ボクのお口も蹂躙してきました…これは殲滅するべき存在…」
なんか悪魔の目がまた虚ろになっている。
それは自業自得、弁えなさい。
「それにしても、解せない。ヤツのイタズラ好きは今に始まったことではないが、ニンゲンがこの土地に足を踏み入れる理由にはならないだろう?」
「いや、それは後始末と言いますか、自己責任と言いますか」
私はこれまでの経緯を簡単に説明した。
「…なるほど、あの裂け目はお前のせいだったか…。もう閉じたが」
「そうなんです、だから閉じに…はい?」
「農民から苦情が入ってな、ムカデが増えて困る、さっさと閉じてくれ…ん?どうした?口も閉じたほうが良いか?」
だって、開いてるって!閉じてないって!
愕然とする私の視界の端にこっそり逃げ出そうとする羊が入る。
「おい、羊」
声をかけた瞬間勢いよく走り始める。
「専務!捕縛!」
専務が指パッチンをすると扉が閉まり、羊が数珠のようなものでがんじがらめになっている。
「身内の不始末なので何も言わないが、私を顎で使うとは豪気な」
「ノリです!」
変な関心をよそに、じわりじわりと羊に近付く。
「め、めぇ…」
「問答無用!」
「みぎゃあああ」
この後に偽造書類を持った者が現れた後に審査が厳しくなったという事実の陰にこの惨劇があったことは秘匿とされるのであった…。
不本意すぎるんですけど!?




