悪魔がウチにおりまして・839
ウチには悪魔がいる。
半紙に筆でサラサラしている悪魔が。
「悪魔、何しているの?」
休日の昼下がりにテーブルの上で書道。
それ自体は構わないのですけれど、書いている文字が「胸やけ」とか「二日酔い」とか不健康な物ばかりだからつい気になってしまう。
「書初めです!」
初めてない、初めてない。なんならもう1月も終わるのよ。
「昨日の肉が当たったのです、その恨みを筆に乗せるのです!」
……あれだけ肉を食べたら脂当たりくらいするわよね。
「それにしても書初め文化、そっちに伝わってるなんてね」
「何を言ってます、ニンゲン。伝わってませんよ?」
ならアンタが今しているのは誰が教えたのよ。
「こう見えてボクは全国世界津々浦々渡り歩いた旅の者、異文化交流ならお手の物なのですー」
筆を振るな、墨が飛ぶでしょうが。
「ミミ殿、筆を持つならば心も落ち着けねば」
悪魔の飛ばした墨をしっかり浴びた狐がむっつり顔で睨んでいる。
今のうちに謝っておかないと怖いよー?
「珍ちく頼み事と思ったら……」
案の定椅子に縛られてお化粧させられてる悪魔。
「狐ちゃんもいつのよく付き合ってるわねー」
なんのかんの悪魔の戯けた行動の尻拭いしているイメージ。
「そんなことないですー。ねー、ごんちゃん?」
狐、目を合わせてあげなさい。
「そうは言っても、大きな迷惑は掛かってませんので」
大人過ぎる対応じゃない
「ほら、ニンゲン。ボクとごんちゃんは持ちつ持たれつなのです」
持たれてはないでしょ、絶対に。
「ミミ殿には時々仕事を手伝ってもらっているので」
そういえば年末に頭数が必要な時借り出してたっけ。
「ですです。こう見えて迷惑だけじゃないのですー」
つまり自覚はあるんだね、アンタ。
「それにごんちゃんにこちらの遊びを教えることもあるのですよ」
「昔は、です。今はお互い遊んでいるヒマが……ミミ殿にはありますね」
今、遊びが過ぎてお顔真っ黒だからね。
「そうは言っても生きるには遊びは必要ですよ?楽しいのですよ?」
そうね、今の悪魔の顔いろんな意味で楽しそうだからね。
「悪魔といると飽きないのは確かね」
2匹が私の言葉を聞いて目を丸くしている。
「てっきりいつもみたいに怒ると思ったです」
「ニンゲン殿も昨日のお肉当たりましたか?」
この2匹は私のことなんだと思ってるのよ。
「ニンゲンもボクの魅力に気付いたのですねー」
「あまり深入りちてはいけませんよー」
よし、この2匹は晩御飯もやしにしましょ。
ウチには悪魔がいる。
……書初めが前向きになってた悪魔が。
仕方ない、許すか。




