悪魔がウチにおりまして・822
ウチには悪魔がいる。
カヌーを漕いでいる悪魔が。
気が付くと私はカヌーに乗っていた。
後ろを振り向くとイタリアよろしく、漕ぎ手1本でぎっこんばったんしていた。
「旅ニンゲン、どこまで行くのですか」
そこは素直に旅人でいいのよ。
「いつになれば終わるのですか」
良かった、クセ強い読み方で。
よし、この状況は夢であると判断しよう。つまり遊び倒して問題ないというわけだ。
「終わらせることはできるけどね」
「……ニンゲン、いきなりなんです?おかしくなりました?」
どぼんと大きな音がして、漕ぎ手のいなくなるカヌー。
さて帰り道はどっちかしら?
「ニンゲン、躊躇なく足払い繰り出すのやめて欲しいです」
のっぺりとカヌーに戻ってきた悪魔。
「あら、おかえり。何かいる?」
自らの毛に沁み込んだ水を絞りながら悪魔は物憂いな顔を向ける。
「冷たい水をください、できればアイスティ」
いやぁ、このカヌーよく滑るのね。また落ちたわ。
「ニンゲン!2度も落とすなです!」
その受け答えするならわかってて人のことおかしいっていったんでしょうが。
「ところでどこに行ってるの?」
「すごいでしょう!この前イタリ魔で船舶免許3号を取ったのです!」
情報が多い!いや、言うほど多くないか。
「つまり、自慢?」
「ニンゲン、日本人はオブラートという文化無いのですか?」
アンタに包んで飲ませたら、味がわからないって文句言うでしょう。
「で、ここはどこ?」
「牢魔です」
くぅ!絶妙に上手いのが悔しい!
「悪魔、イタリアでカヌー有名なのベネチアだけど?」
「バカモノー!」
悪魔が殴りつけてきたヒヅメを躱すとそのまま水に落ちて行った。
「何がしたいのよ」
「ニンゲンのバカー、悪魔でなしー」
それ誉めてる?
「良いじゃないですか、たまには頑張った自慢くらい!この免許取るためにどれだけの金を積んだか!」
お巡りさん、ここに不正者がいます。
「具体的には月2回あるテストに12回連続で落ちました!1回5,000円のテストです!」
この子ちゃんと頑張ってたのでお巡りさん、お引き取りを。
「はいはい、今度からちゃんと勉強して1回で合格しようね」
コイツ、たまーに真面目だから困る。
ウチらはカヌーに揺られている。
「ニンゲン、帰り道どっちか分かります?」
誰だ、コイツ合格にしたヤツ!




