悪魔がウチにおりまして・819
ウチには悪魔がいる。
ウチっていうか、温泉なんだけどね。
「ニンゲンー!下を見るです、雪ですー」
悪魔は露天風呂の淵に踏み出し、景色を見下ろしている。
「なんで私たちは温泉に居るの?」
正月休みが終わったばかりなのですが。
「何を言ってるです、ニンゲン!今日は12/29ですよ!」
時空を歪めないで頂きたい。
「よく思い出すですよ、ニンゲン!ほわんほわんほわん」
「それ、口で言うの?」
「回想になったですー!」
あー、はいはい。付き合うから話しなさい。
「今、ニンゲンの脳内に直接話しかけています……」
湯船の隣から聞こえるんだけど。
「今は仕事も始まり、早3日。ニンゲンに疲れが見えてきている頃です」
時魔法でも習得してましたっけ?
「ヘイ、ニンゲン!今年の年越しは楽しめましたか!」
また来てないのよ、あと350日はあるんだから。
「そんなお疲れなニンゲンにプレゼントです、ぱぱぱっぱぱーん!温泉ー」
掘り当てましたか?
「だから、休みが終わってるの」
「そんなあなたにぃ!ぽちっとな」
悪魔は脇から取り出したストップウォッチのトップを押す。
すると、この温泉に……おい。
「悪魔、今日何日?」
「だから12/29だと言ったじゃないですかー」
そのストップウォッチをよこしなさい、それだけで充分だから。
「ニンゲンにはまだ早いですー」
あ、隠しやがった!どこにだ!
「ほらニンゲン!カメが飛んでます!」
ウソおっしゃい……と思ったら悪魔が指した方向に本当に飛んでるカメがいた。
「ここってもしかしてあっち?」
「でも無いんですけど、そうとも言えます」
詳しく聞かない方が良いかもね、巻き込まれたくないし。
「ニンゲン、仕事疲れは取れたですか?」
「それなり?」
お風呂にのんびり浸かるだけでもかなり取れたけどね。
「ここの番台ではフルール牛乳が豊富なのですよー」
アンタ、ここの常連じゃない。
「ボクのおススメはピスタチオ牛乳ですー」
……太りそうな牛乳だなぁ。
風呂から上がると悪魔と牛乳を選んで縁側に並んで飲む。
昔ながらのビン牛乳、火照った身体にちょうどよかった。
こういうなんでもない日も、いっか。
悪魔と縁側で涼む。
「アンタ、何本飲んでるの?」
「数えてないですー」
空き瓶の山を作っている悪魔が。




