悪魔がウチにおりまして・8
ウチには悪魔がいる。
堂々とウチに居ることになった悪魔が。
「ニンゲン!映画を観たいのです!」
休みの日の早朝、布団を引っぺがし腹の上に飛び乗る悪魔。
小型犬くらいの軽さに驚きながら、眠い目をこする。
「1人で行ってきなさい、てかまだ7時なんだけど」
スマホで時間を確認するとどこの映画館も空いていない時間ではないか、と布団の端を掴んで引き戻す。
「入館者特典が欲しいのです。独りだとひとつしかもらえません」
…理由、俗っぽくない?
「2回行きなさい」
「セットで欲しいのです。2回行くと両方貰えるとは限りませんが、2人で行けば両方欲しいって言えるじゃないですか」
…確かに?
「仕方ないなぁ…でも早すぎ。もう少し寝かせ…映画?」
むくりと起き上がるとこのなんと称したらいいか分からない2足歩行動物をまじまじと見る。
この生き物が、映画。
「…その姿、断られない?」
着ぐるみと言い張るにも、場所は映画。
脱いでご観覧くださいと突っぱねられること請け合いだ。
「大丈夫!ちょっと待っててください!」
ちゃららーなどどマジックでも始めそうな歌を口ずさみながら押し入れに入る。
しばし待つと勢いよく押入れが開かれる。
「じゃーん!ニンゲン、これならどうですか!?」
押入れの中には赤い髪で角を生やし、いわゆる地雷ファッションに身を包んだ女の子が出てきた。
「うそん」
可愛い。普通に可愛い。
「この日のためにファッション誌を立ち読みしたんです!どうです?ニンゲンに見えますか?」
あの動物姿で立ち読みをしているシュールさと、ずいぶん偏った本を読んでいたことに対するツッコミをしようか悩んでいたが、この姿であれば映画も見れると納得をする。
「その姿なら大丈夫じゃない?」
「やりました!研究大成功です」
そう言いながらぴょんぴょん跳ねる行動は普段の悪魔そのものだ。
馬子にも衣装…ならぬ悪魔にも地雷。
「それはいいんだけど、本当に映画行くの?」
「お金なら心配しないでください。この前帰ったときにお給料、円で振り込んでもらえるようにしてきました」
超長距離外資系に勤めている…などと妙な妄想が働いてしまった。
「そこは心配してません。チケ代くらい出せます」
中身は変わらないとはいえ、こんな幼い見た目の子にお金の心配をされるというのはなかなか矜持が傷付くものがある。
「それより、何を観たいの?気にしているのはそっち」
「えっと、『天使対悪魔』!!」
その映画、多分あんたのお仲間倒されるけど、いいの?
ウチには悪魔がいる。
ノベルティ欲しさに、身内がやられるのを見に行く悪魔が。