悪魔がウチにおりまして・729
ウチには羊が居る。
さっきから何かを探している羊が。
「どうしたの?」
「いえ、探し物をしていて」
それは、わかってるのよ。
クッションひっくり返したり、机の下に潜ってるんだから。
「羊さん、これでも食べて落ち着いて」
たまたま焼き芋を持ってきてくれていたモグが、羊にイモを差し出す。
「いえいえ、そんな」
「食べてくれるとありがたいな。コイツ、10キロ持ってきたから」
「……いただきます」
なぜそんな量を、と思うかも知れないけど悪魔が居たらそれくらい食べるからモグラを責めるわけにいかないのよ。
「ところで、何探してるの?」
羊がテーブルに着いたとき、確認がてら聞いてみる。
「手伝ってくれるので?」
「うんにゃ」
手伝うわけないでしょ、私は配信見るので忙しいんだから。
「ニンゲンさん。それは、ヒマと言います」
「モグ、冷蔵庫にバターあるわよ」
「ボクはモグラです。バターは頂けるので?」
普段はタヌキと否定するのに、食欲には忠実なことで。
足音を立てながら、答えも聞かずキッチンに向かうモグラ。
「良いのですか!いざという時助けに来れなくなるかもですよ!」
ちらりと横目で羊を見ると、探し物がわかった。
でもさ、普通それ失くす?
「角、でしょ。失くしたの」
「ど、どきー!なぜそれを!」
見たら片方角が無かった、としか言えないんだけど。
「番号覚えてないの?鳴らしてあげようか?」
羊の角は確か電話機能が有ったはず。
「こっちの電話だとかけられないのですよ」
そっちからかけることはできるのに、不便ねぇ。
「もう片方の角からは?」
「それはもうやったのですが、充電が切れているみたいでして」
角の充電ってツッコミ入れたら負けなんだろうな。
「GPSなど付いて無いので?」
バターを箱ごと持ってきたモグがイモにぺたぺた塗りながら戻る。
「それを調べてこの場所で最後の通信が切れていたので」
……角にGPS、付いてるんだぁ。
「なのでこの辺りに……」
「羊さーん、ちゃんと充電してくれないとー」
のんびりと悪魔が帰宅。手には探していた角。
「み、ミミ君。私の角どこにあったのですか?」
「ほえ?昨日貸してくれたじゃないですか?こっちの電話使えない深さに潜るからって」
「羊さん、若年性は早めの治療が良いそうですよ」
モグラ、満足そうにおさつバターを頬張るのでした。
ウチには悪魔がいる。
イモが足らぬと文句を言っている悪魔が。




