悪魔がウチにおりまして・725
ウチには……。
いや、ここはどこだ?
「ニンゲン!これに着替えるですー!」
悪魔が手渡してきたのは白い道着と黒い袴。
「……説明、即」
さすがに理解が追い付かない、追い付けない。
本音を言うなら諦めたい。
「修行を」
「私たちの冒険は、これからぜっ!」
悪魔がウチにおりまして、完!
宝田メノウの次なる活躍を……。
「ニンゲン!?打ち切りみたいな終わらせ方しちゃダメです!それと名前言われても誰もわからんです!」
……覚えられてないって言われると、結構傷付くのね。
「どうしたですか!名前も忘れ去られたニンゲン!なんでうずくまってるですか、誰だかわからないニンゲン!」
ここぞとばかりに悪魔が私の心を抉ってくる。
「アンタだって名前、覚えられて無いでしょう!」
私がアンタを悪魔という呼び方をしているんだから、絶対……。
「ずわぁんねんでした!ボクは羊さんをはじめ、みんながボクの名前を呼んでくれているのです!みんなー!ボクの名前わかりますよねぇ!?」
『みーみちゃーん!』
どこから聞こえてきたんだよ、このコール!
「どうですか、名も失ったニンゲン!」
名前を失ってはないよ!
「これだけの人数に名前を知られているのです!名実ともにボクが主役なのですー!」
悪魔の背景でどーん!と火柱が上がる。
その火柱が天井を焼いている!
「燃えない?」
「たぶん平気です」
「平気なわけないでしょー!!!」
血相を変えた狐が飛び込んできて、消火器をぶちまける。
そして初期消火完了、空になった消火器を担いで悪魔の頭をぶん殴る。
「ミミちゃん!?修行で使うって言ってたので貸したのに!なんで?火柱なんで?修行関係ないでしょ?殴るよ!?」
狐は涙目になりながら、悪魔を肉球で何度も張り倒している。
「狐ちゃん、口調、口調」
いつもは”し”が”ち”になっているのに。
「そんなこと気にしてる場合!?燃えたら全部無くなるんですよ!?お母様にだって叱られるでしょ!」
普段の丁寧さはどこへやら、首だけこちらに向けて、涙をこぼして悪魔をしばき続ける。
当の悪魔、白目を剥いて泡を吐いているんですけど、それ大丈夫?
「狐ちゃん、悪魔、悪魔」
「わざとです!これくらいやらないと反省しないじゃないですか!?」
相変わらず怒らせると怖いなぁ……。
ウチらは正座している。
……私、とばっちりじゃない?




