悪魔がウチにおりまして・721
ウチにはイモ虫が居る。
ローブを目深にかぶっているイモ虫が。
「……なんで着れるのよ」
ローブだけではない。
杖を持ち、なんでかヒゲを生やし、まるでタロットの隠者のよう。
「この者、灰の衣纏いて檜の床を進まん……」
ウチの床、たぶんベニヤだよ。
「いきなり来てこんな格好でずっと戯言言ってるんですよー」
この前モデルを頼んだ割にお口が悪い悪魔ですこと。
「ニンゲンさーん!どうです?決まってます?」
こちらを見ると嬉しそうに駆け寄ってくるイモ虫。
トゥキーック!
イモ虫は放物線を描き、キレイにゴミ箱にストライクした。
「ニンゲン!いつからサッカーの才能に目覚めたですか!すげぇです!」
いやぁ、私の天才っぷりが憎い。
「みーが虫じゃなかったら傷害事件ですよ!?」
ゴミ箱から這い出してきたイモ虫。
大丈夫、アンタは虫だ。
「でー?イモちゃんなんで厨二ってるです?思春期ですかー?」
「黒歴史になりますっ!いや、普通に今10月なんでそろそろハロウィンでしょ?予行演習しに来たんですわ」
ウチに来るなですわ、友だち居ないの?
「ねぇ、ニンゲンさん。そのちくちく言葉って効く人に取り返しの付かないダメージ与えますよ?事件ですよ?」
『泣くよ?』
次元の壁越えてくるな、アンタはさっさと友だち作れ。
「ニンゲン、どうしたです?おっきな独り言なんか出して」
気にしなくていいよー、気にしたら負けだから。
「というわけでひと月後の練習済んだら森へお帰り。ここは危険よ」
「それは蟲違いじゃないですか!?」
今日のイモ虫の切れ味、好きだわ。
「まぁ、それはそれなんですけどぉ。実際コレが本題と言いますかぁ」
今までよかった切れ味と打って変わって、妙に歯切れが悪くなる。
「イモちゃん、どうしたですー?」
「んー、みーがここに居ることで結界になるんですよね」
けっかい?
「悪魔、このイモ虫に塩を」
「ニンゲン、イモちゃんはナメクジじゃないです」
今日は私のおつむがよわよわさんかもしれない。
「なーんか最近ざわざわしてるんですよー。みーがこうしていることで睨みになるとかならんとかならんとか」
ならないんじゃなくて?
「そうでしたかー。イモちゃん、冷蔵庫にぽんちゃんちのふかしイモあるから食べていいですー」
イモ虫、返事もせずに飛んでいく。そんなに良いことしたのか。
「一番狙われるの、ニンゲンですからー。イモくらい安いものですー」
ウチにはイモ虫が居る。
自分の体積より大きなイモを貪るイモ虫が。




