悪魔がウチにおりまして・710
ウチには悪魔が居る。
意外と騙されやすい悪魔が。
「ニンゲン!多櫛ーに乗りたいのです!」
悪魔が謎言語を発したけど?
「なんて言ったの?」
「ニンゲン、たくしいも知らないのですか?」
煽るようにアゴを突き出しているけど、それなら知っとるのよ。
「えっと、なぜ乗りたいのでしょう?」
「多櫛ー……それは乗ったらたくさんの櫛が襲い掛かってくるアトラクション……生き残れれば毛並みがとぅるんとぅるんになると聞きました!」
誰だー、こんなテキトーなこと教えたのー。
頭に浮かんだのは牛の姿、牛もちゃらんぽらんだからなぁ。
「ニンゲンさん、憶測で物を言うから冤罪が生まれるんですよー?」
のっそりとコンビニ袋を持った牛が入ってくる。
「入湯料」
「いつからここは温泉になったんです?」
騙されてはくれんか。
「ちなみにミミさん。多櫛ーのほかにヘルコプターという地獄との定期便もこちらにはありまして」
冤罪じゃなく、目の前で罪を重ねられた!?
「地獄は良いのですー。ぐっちゃんに頼めばガイドしてくれますし」
ぐっちゃん……あー、お歯黒妖怪!
悪魔の癖に地獄に知り合い居るの、異常でしょ。
「それで思い出せるあたり、ニンゲンさんもそこそこ異常度高いと……なんでもありませぇん」
牛がすっとジャーキーを差し出してきた。
まぁ、ギリギリ許しましょう。
「悪魔、タクシーは人力車みたいなものよ」
「ニンゲンさん、その喩えもバグってます」
長々説明するより良いでしょ。
「……なんですって?せっかく最近汗まみれの毛並みを整えようと思っていたのに……」
割と牛の説明したアトラクションだと尚汗まみれになりそうだけど。
「ミミさん、実は”リニア”という近付いてくる理容院が」
「さすがに騙されんですよ?」
牛をジト目で睨む悪魔。
こんな即だとさすがに気付くか。
「牛、あまりにも騙し方雑じゃない?」
「……よし、査定終了。ミミさんの警戒レベルは5段階中3ということで」
「みっ!?」
悪魔が短く悲鳴を上げる。
「う、牛さん!卑怯な!悪魔の心は無いのですか!」
なんかそれだと騙しそうよ?
「ミミさんもこの時期は気を付けないと。ボーナスは前回より良いので大丈夫です」
ウチには悪魔が居る。
「牛さん、ワンチャン、ワンチャン」
みっともなく縋りついている悪魔が。




