悪魔がウチにおりまして・690
ウチには悪魔が居る。
ヘルメットをかぶった悪魔が。
「ニンゲン!キリキリ動くです!地震の時、助からないのです!」
「はいはーい」
今朝起きるなり、いきなり悪魔が決めて始まった避難訓練。
理由を聞いたら至極単純だった。
「今日は世界で防災の日と聞いたです!」
世界じゃないよ、日本だけだよ。
「悪魔が防災に関心があるなんて知らなかった」
「何言ってるですか!災害で死んでしまったら、ボクたちが回収できないじゃないですか!」
要するに利権の問題ですか。
「それは良いけど、どんな災害が来たと思ってるわけ?」
どうせコイツのことだから真っ当な災害じゃないんだろうなぁ。
「隕石が半径80キロに降り注いだ想定です」
「こっちに隕石は落ちてこないのよ」
厳密には落ちてるんだろうけど、アンタの地域みたく降り注ぐことは無い。
「なら地面からマグマが噴水するのは?」
「マグマって火山だけよ?」
火山地帯ならわからないけど、ここでは起きないかなぁ。
「それなら巨大なクモちゃんが襲ってきました」
ロフトから飛び降りてきたクモ、悪魔の頭をぶっ叩く。
ヘルメット越しに叩いたために痛かったようだ。
どうやらお気に召さなかったご様子で。
「クモちゃん!クモちゃんが襲うとは言ってません!悪しきクモが侵略してきたときのためです!霧の中からこんにちはしてくるかもなのです!」
そんな朗らかにモンスターから挨拶されたくないのよ。
それでもクモは納得していない様子。
「クモちゃん、あらゆることを想定しないといけません!もしかしてクーとモーが天使合体してインフェルノするかもしれないのです!」
そっか、コイツからしたら天使が異種になるのか。
「ミミ君、そろそろ現実に戻ってください?聞いていて恥ずかしくなってきます」
キーボードを叩いていた羊が顔を赤くしながら頭を振っている。
「羊さん!何が恥ずかしいのですか!」
「冷静に考えましょう。ニンゲンさんですよ?指で銃弾を掴むことのできるニンゲンさんですよ?」
羊、あとで玉石の上に座ろうね。
「そうでした。何が起きても生き残るニンゲンが訓練しても仕方ないですよね」
ヘルメットを脱いでため息を吐く。
ため息吐きたいのは私だよ!
「今日の訓練はこれで終了なのです!皆、解散!」
解散も何も、私とクモしか……。
そう思っていたらぞわりと雰囲気が変わる。
「……なんかいなかった!?」
「……あっ、な、なんでもないですよ!?」
ウチには悪魔が居る。
ねぇ、何居たの!?




