悪魔がウチにおりまして・7
ウチには悪魔がいた。
いきなり理由も告げずに帰ってしまった悪魔が。
悪魔のいない久しぶりの休日、独りで趣味を満喫していた。
パフェの後にカラオケでアニソンを熱唱し、近くのモールに行ってトレンドを見て回った。
家に帰ってシチューノルマをこなすと、あの子が怖がって見れなかったホラー映画を堪能した。
自分の存在がホラーなのにそれを怖がる悪魔もどうなのだろう。
独りの時間は思ったよりも長く次の日日ごろの疲れをほぐすマッサージをしてもらい、しばらく行けなかったネコカフェで心もほぐしてもらう。
あの子、ネコは大丈夫なのだろうか。
動物同士が戯れる想像をする。
絶対ネコに追い回されて私の陰に隠れるんだろうな、ちゃんとネコに差し出してあげましょう。
くすくすと笑っていると足元にネコが近寄ってくる。
「ニンゲン、この子は危なくないのですか?」
おっかなびっくり撫でるあの子が簡単に想像できた。
あんたのほうが危ないでしょうに、そんなことを思いながら。
今朝やっとシチューを食べ切ったので今日からまた作らなければ。
ショッピングカートを手に取り、カゴを上下に嵌める。
必要な食材をぽいぽい放り込む。
米・肉・酒…あとは…。
ふと納豆特売に目が留まり、あの子好きだったと手を伸ばす。
「あれ…」
納豆を見る景色が歪む。泣いている?
そして今さら自分が無意識に入れた食材の多さに気付く。
カートに入れた量。とても独りでは食べきれない、誰かが居なければ必要の無い、量。
たったひと月。ひと月だ。ひと月しか一緒に居なかったのに、こんなにも存在が大きくなっていたなんて。
涙を拭い、戻すわけにもいかない冷蔵品の会計を済ませる。
この涙はしばらく、肉しか食べられないせいだ。
重いレジ袋を持って家に帰る。
家から明かりが漏れていた。消し忘れたんだろう、勿体ない。
「ただいまー」
「遅かったですね、先に頂いています」
いるはずのないあの子の声。自分の茶碗に山盛りに米を盛っている。
「なんで…」
「なんでってこんなに遅いなんて思わないじゃないですか、お腹ペコペコです」
「そうじゃなくって!連れて帰られて!それなのに、なんで…」
言葉が出ない。代わりに涙が止まらない。
「そうだ、報告が。健康診断、異常なしです!」
涙が引っ込んでしまった。
ウチには悪魔がまた居る。
たったひと月で人の心を蝕む、凶悪な悪魔が。