悪魔がウチにおりまして・687
ウチのベランダには牛が居る。
のんびりとタバコを吸っている牛が。
なんでウチで吸ってんねん。
アンタ1階登れば自分ちでしょうに。
「ヒトの家で吸うタバコの美味いこと」
ガラガラぴしゃんっ!
さて、掃除するかー。
『ニンゲンさん?カギを閉めるの無しじゃないですー?』
反省するまで開けません。
「ただいまですー!アレ?なんで牛さんが外で泣いてるです?」
「え、しつけは平等にしないとね?」
この悪魔だけぶん殴ってるわけじゃ無いことを知らせないと。
「牛さんのこと泣かせたニンゲンって、たぶん史上初です」
悪魔はタブレットを取り出すとすますまと何かを記入している。
「何してんの?」
「会社に報告を。歴史的瞬間ですので」
ちょいやぁ!あれれー?なぜかタブレットが真っ二つだぞぉ?
「ニンゲン!?せめて躊躇しろです!」
折れたタブレットを投げつけてくる悪魔。
『ミミさんー、報告よりカギ開けてー』
泣きながらコンコンと叩く牛。
「牛さん!面白いからしばらくそのままで!」
カギ閉めた私がいうのもアレだけど、アンタもアレだよね。
「ニンゲン?アレアレ言ってますが、言葉が出てこないですか?老化でみきゅっ!?」
おっと長い足が悪魔の頭にー!
「ニンゲン!話してる最中はアカンです!舌噛んだらどうするですか!」
噛んで無いからセーフセーフ。
『開けてー開けてー』
とんとんとん・つーつーつー・とんとんとん。
牛、モールス打つなし。
「ところで牛さん、何したです?ニンゲンがしつけって言ってる以上、それなりに悪いことしたのでしょう?」
待て、悪魔。つまりアンタは悪いことしている自覚を持っていたってこと?
『タバコ吸ってただけですー。臭い付かないように外で吸ってたのが仇になりましたー』
その気遣い、自分の部屋なら要らないのよ。
「それは牛さんが悪いですー」
悪魔、そのまま戻ってキッチンに向かう。
私が言うことでも以下略。
『ニンゲンさん、そろそろ実力行使しますよー、良いんですかー』
してみぃ、狐が飛んでくるぞ。
『良いんですね?……火事だぁ!』
とんでもないこと叫びやがった!?
『ふっふっふ……これで……アレ?』
牛の叫び声が響いても周囲は静かなまま。……あ。
「狐がさ、この家防音してるって言ってなかった?」
『あっ』
ウチのベランダには牛が居る。
この季節なら一晩明かしても風邪引かないでしょ。




