悪魔がウチにおりまして・679
ウチには牛が居る。
鉄板で肉を焼いている牛が。
「ヒトのウチで焼くお肉はなぜこんなに美味しいのでしょう」
帰れっ!人の家に脂臭さをまき散らしていくんじゃないよ!
「牛さーん!しかもいいお肉です!共食いはいけないのですー!」
「はふ……ミミさん、ボクは今辰田です。共食いと言えるのは竜田揚げだけなので無問題です」
ご飯に焼けた肉乗せてタレをしみしみさせるんじゃない!
「皆さんも食べます?このお肉、執行者さんからお中元で届きまして」
ウチの姉とどんな付き合い方してんだ!
「ウチには無いんだけど?」
「手紙読みます?」
牛はカルビをはむりながら封筒を差し出す。開いてるんですが?
「なになに……『メノー、お久ー。みんな忘れてないー?今オーストラリアに居るから牛肉送るねー。本当はカンガルー送りたかったんだけど検閲が厳しいみたいでー。近くに寄ったら顔出すわねー』……気のせいかしら?これってウチに届いたお肉じゃない?」
「どき」
肩をすくめながら肉を口に運ぶな!
「牛さん!?窃盗ですか!置き便強盗なのですかー!」
食べ物の怨みは恐ろしいのか、悪魔はどこからかガトリングガンを……やめなさい!
「とりあえず牛、正座」
「骨格上無理ありません?」
「2足歩行の異形が出来る言い訳じゃありません」
牛はしぶしぶ正座を……お茶碗、置け!
「いいですか、裁判官は私、検察は私、弁護士も私です」
「その裁判、終わってません?」
黙らっしゃい、前提として人の物盗ってるのよ。
「誤解ですよぅ。ここに届いた肉は冷蔵庫ですよぅ」
可愛くないから。そそくさと悪魔はキッチンに向かう。
「ニンゲン!ちゃんと肉は無事です!カルビ、タン、テール。よりどりみどりです!」
報告ご苦労、衛生兵。
ならばこそ、分からないことがある。
「なぜ、ウチで焼いてるのよ」
本当に匂い付けに来ただけならアンタも焼くわよ。
「執行者さん、おバカなんですかね。私の家に8キロ肉を送りやがったんです」
……うん、多いな?
「食べられると思います?なんなら私の家の冷蔵庫そんな大きくないんですよ」
「牛さん!つまりボクはタダ肉を食べられるということで合ってますか!」
キッチンから戻った悪魔はナイフとフォークを構えている。
はしたないからやめなさい。そしてクモ、マネするんじゃありません。
「良いですよー、腐っちゃいますしー」
……裏、ありそうに思うのは私の性格が悪いのかしら?
ウチでは焼き肉が始まる。
……明日は胃もたれとの戦いになりそうだ。




