悪魔がウチにおりまして・673
ウチには悪魔がいる。
油を大量にフライパンに注いでいる悪魔が。
「ニンゲン!最近アヒジョって無いのです!」
そんな動詞は無い。
やってることを見れば何をしたいのかわかるのだけど、日本語が不自由な異界生物に付き合う義理はありません。
「聞こえなーい、聞こえなーい」
「ニンゲン!アヒージョは嫌いですか!好みの食材を入れられるというのに!」
カロリーを考えろ。
「ちなみに何を入れる気?」
「クジラとナス、あとはシカです」
ねぇ、本当に作るのはアヒージョなの?
妙に豪華で微妙にズレてるんだけど。
「ちなみにライ麦パンも容易しました」
「そこはフランスパンにしない?」
ここまでニアミスすると絶対わざとに感じてしまう。
「ボク、フランスパン苦手なんですー。昔固い皮が歯茎に刺さったことがあってー」
本当に居候させてるのは悪魔なのか自信無くなってきた。
「ミミ君!アヒージョにエビを入れないとは何事ですか!」
話をややこしくしに来たんなら帰りな羊ー。
「羊さん、ごんちゃんエビアレルギーなのですー。煮ちゃうから全滅しちゃうのですー」
ナイス、悪魔。読者さん、絶対覚えてない情報だわ。
「くぅ……仕方ないのでヤマトイモを入れても?」
ネバネバになるだろー、やめろー。
「羊さん、それ千切りにして醤油垂らして、うずらの卵と刻みノリを乗せると最高になるのですー」
羊、頭を下げながら手に持ったイモを悪魔に差し出す。
たしか羊の方が年上だったよなぁ。
「というわけでニンゲン!イモの皮を剥くですー!」
「いやよ、お手手かゆかゆになるじゃない」
「……ニンゲン、可愛くないですよ?お年を考え……」
羊の制止も間に合わず悪魔の鳩尾がなぜか凹んでるんだよね。
「ニンゲンさん、私どもはヤマトイモは調理できないのです。ほら、ヒヅメでは滑ってしまうので」
「手だけ変化なさい」
「イエス……マム……」
なんでか俯いている悪魔がビクンビクンしながら額に手を掲げる。
「ミミ殿。どうちました?良いぼでえぶろーを貰ったみたいに痙攣ちて」
狐、絶対見てたでしょ。
「今夜、アヒージョだって」
狐は耳をピンっと立てる。
「おや、奇遇。今日取引先から良いホタテを頂きまちた」
ホタテのアヒージョ、良いわねぇ……。
カロリーのことはもう忘れましょ。
今夜はアヒージョをつつく。
「ワインがほちくなります」
狐、残念そうに日本酒を……どこに隠してたんだろ、そのお酒。




