悪魔がウチにおりまして・670
ウチにはクモがいる。
ナイフとフォークでごはんを食べてる悪魔が。
しかし器用に食べるものだ。
前にある2本の脚を使って道具を持っている。
その様子をじっと見ていたらクモが切り分けた豆腐ハンバーグを差し出してくる。いらんて。
「クモの分だから食べなさい」
クモが首を傾げ、自分の口に運ぶ。
そういえば、クモは豆腐を食べていいのだろうか。
「クモって食べられないものってあるの?」
お口についたデミソースを拭きながら上を見上げるクモ。
しばらく考えたあと手でバッテンを作った。
「好き嫌い無くて偉いねー」
わしわしと頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。
「ニンゲン!ボクもなんでも食べられますー!」
隣で同じく豆腐を食べていた悪魔が手を広げて主張してくる。
「なに?アンタも撫でて欲しいの?」
悪魔の頭に手を差し伸べるとぺんっと叩かれた。
「そんなわけ無いですー!ただ、褒めろー!」
承認欲求炸裂している悪魔の頭にスリッパを乗せて食べ終わった自分の皿を片付ける。
「いやぁ、始めは豆腐でハンバーグとは奇っ怪なことをすると思いましたが、なかなかイケるものですねっ」
「人の仔……いえ、先生!私にこの料理の作り方をご指導ください!」
なぜか来ていた羊夫婦のメシマズ嫁から再び弟子入りしてきそうになっている。
目を輝かせる神ちゃんの後ろで羊が大きくバツを作る。
OK、モコモコ。
「これ、作るの結構手間がかかるから……」
「ニンゲン!ウソ吐くなです!手抜きで簡単と言ってました!」
残念、モコモコ。
「それなら私も作れるわよねっ!あなた、あっちでも食べられるわよ!」
「そ、そうですね……」
遠くを見ている羊に向かってクモが前脚を合わせてなにかむにむに言っている。念仏かな?
「いやぁ、酒のつまみにいいですねぇ」
牛がニヤニヤしながらビール缶(2本目)のプルタブを開ける。
そのつまみ、絶対豆腐ハンバーグのことじゃないよね。
「ニンゲン殿、今後ハンバーグはこちらが良いです。やはり生臭よりも某の口に合うのです」
狐が心なしか頬を緩ませて訴えてくる。珍しい。
「ごんちゃん、たまに食べるから良いのです!これではさっぱりし過ぎます!」
食欲の化身が狐の要望を却下する。耳を垂らす狐。
「良いわよ、半々くらいでいい?」
ぱぁっと顔を明るくする狐。露骨に顔を曇らせる悪魔。
「悪魔、文句なんか付けたらオーナーさん怒るわよ?」
「豆腐!サイコー!」
ウチには悪魔がいる。
クモから呆れた目を向けられている悪魔が。




