悪魔がウチにおりまして・668
ウチには悪魔がいる。
空を見上げている悪魔が。
「ニンゲン、なぜ空は赤いのでしょう」
夕方に差し迫ったベランダで汗をダラダラと流して毛を湿らせながらそんなことを聞いてくる。
「いいから手を動かすー」
この季節だ、暑い季節だ。
それなのにベランダにいる理由なんて、このアホウが焼き鳥食べたいって言い始めたからだ。
「ニンゲン焼き鳥食べたいです」「どこに買いに行く?」「七輪あるのに?」「この暑さで焼く気?」「美味しいものが好きです」「暑いよ?」「ビールが冷えてます」
こんなやり取りがあり結局、鶏肉焼いてるんだか、自分焼いてるんだかわからないことしてます。
「ニンゲン、あの雲はなぜ遠くまで聞こえるです?」
これは暑さにやられてるな、この子。
「それはですねぇ!……雲が、え?聞こえる?」
嬉しそうな顔で出てきた羊が一気に目を丸くする。
たぶん、空が赤い理由言いに来たんだろうなぁ。
「あれー、涼しいあっちでお仕事に切り替えた羊さんじゃないですかぁ?どうしましたー?担当呼ぶですかー?」
その召喚、私が止めます。
あの人出てくると収集付かなくなりそうなのよ。
「なぜ、そんなことで恨みがましい目を向けられねばならぬのですか。せっかく焼き鳥にピッタリな海洋塩を持ってきたというのに」
「いやぁ、さすが羊さんですー。この前買って来た古酒があるので後で飲みましょう」
手のひらを一瞬で回転させる悪魔。いつの間に古酒なんか買ってたのよ。
悪魔の提案に羊は角を掻く。
「……それ、ニンゲンさんの世界の物ですか?」
「ぎくっ」
ぎくって口に出す生き物、現実に居たんだ。
「羊、どういうこと?」
大きなため息を吐きながら羊は額に手を乗せる。
「こちらの世界にもあるんです。アルコール度数120%、歯を擦り合わせるだけで火の点くお酒が」
せめて物理は守って欲しいものである。
「でも!でも!焼き鳥には合うのです!」
「焼き鳥には合いますが、七味で爆発している事件は忘れてませんよね?」
それ、本当にお酒なの?
「悪魔、この家で飲むの禁……」
ちゅっどーん☆
えぇ……?誰が爆破したの……?
「ミミちゃん、ボクの家に送ってきたお酒について、お話が」
そこには頭の上から黒い煙を上げているモグラがいるのでした。
ウチには悪魔がいる。
「ニンゲンさん、もう1枚追加していいです?」
「ぎぶっ!ぎぶっ!」
膝の上に石畳を乗せられている悪魔が。




