悪魔がウチにおりまして・655
ウチには悪魔がいる。
赤いヒーロースーツに身を包んだ悪魔が。
「ヴィランじゃないんだ」
「それ、ボクも思ってます」
思ってますーってことは自分の意思で着たわけじゃ無いのね。
「ニンゲン、このクソあちーのにこんなピッタリしたスーツ着ます?着ませんよね?着てる人ご苦労様です!」
変な次元に敬意を払ってる!?
「さっさと脱げばいいでしょ」
見てるこっちも暑いし。
「脱げるんだったら脱いでますー。脱げないのですー」
悪魔がくるりと背中を向けると、ファスナーにナンバーロックが繋がっていた。
桁数は4桁。当てずっぽうで開けるには時間がかかるやつ。
「そして起きたらこんな紙が」
悪魔が渡してきたのはクロスワードの書かれた1枚の紙。
どうやら、解けば数字が出てくるような気がする。
「悪魔、服破れば?」
「その手がありました!」
わざわざこの犯人の決めたことに従うことはありません。
謎解きなんかやってる時間は無いのです。
「ニンゲンー、破って欲しいのですー」
「できるわけないでしょ」
私のことなんだと思ってるのよ。
「自分でそれくらいできるでしょ?」
「ニンゲン、ボクこの服着てるんですよ?片手しか使えないのですよ?破れるものも破れんです」
あ、そっか。いくらコイツが力強くても両手で引っ張れない以上、服を破ることなんか……。
「ハサミ」
「忘れてました!」
コイツ、暑さで頭回ってない!
「ニンゲンー、切ってくださいー」
自分で切れないんかい。
キッチンからハサミを取ってきて……これ調理用のハサミだ。
「悪魔、食べ物に使うハサミしかないから切れないや」
「買ってきてください!ボク、この格好で外出たら恥ずか死しちゃいます」
なんだ、その死に方。
「羊、持ってない?小説家ってハサミ使うでしょ」
関連性は知らない、私が外に出たくないだけです。
「その手が!」
よし、頭緩くなってて助かった。
「……で、ミミ君がそんな恰好をしている、と」
ウチに来た羊は、笑いを噛み殺しながら悪魔のスーツを切っている。
「羊さん、笑いごとじゃないです!犯人を探さないと!」
羊はゆっくり悪魔にヒヅメを向ける。
「昨日、akumazonで買ってましたよ、酔った勢いで」
「すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ……」
思わず、聞かせるためのため息しちゃいましたよ。
ウチには、阿呆がいる。
もう、突っ込む気にもならんよ。




