悪魔がウチにおりまして・652
ウチには悪魔がいる。
キッチンで何か煮込んでる悪魔が。
「悪魔、この暑いのに……」
運の悪いことに換気扇がおさらばいしてて尋常じゃないくらい蒸すのに煮込む必要のあるシチューを作っているっぽい。
「賞味期限が短いのでー」
悪魔も食が絡まないとここまでの奇行には走らないか。
「何のシチュー?」
「コウモリですー」
食材の方も奇行でした?
「それ、美味しいの?」
「おや、ニンゲン殿。コウモリを食べたこと無いので?」
まさかの狐がフォローに回るとは。
「逆に狐ちゃん、食べたことあるの?」
「コウモリはちっかり煮込むとそれはそれは。そのためチチューは最高の料理なのです」
「ちちゅー」
狐の「し」が「ち」になるのはファッションなのは知っていたが、ちちゅーはあざとすぎるでしょ。
「……ニンゲン殿、家賃3ば」
「悪魔ー、コウモリ煮えたー?」
自分の機嫌で家賃増やすオーナーが居候している、それが我が家です。
「えへ、えへへ、コレが煮えたら、ボク、娘に会いに行くのです」
暑さで幻覚を見るんじゃない!
アンタ、娘どころか奥さんも居ないでしょ。
「ミミ殿ー、フラグを立てるのは最近流行りません。むちろ逆。立てたフラグを力技で折ることがトレンドです」
狐が妙なアドバイスを入れている。
暑さでおかしくなっているのは狐も同じようだ。
「ごんちゃん、分かったです。このシチューが煮えたら、ボクは結婚するのです」
おーい、元々居ない娘消すなー。
「ミミ殿、結婚相手をお探ちであれば我が社に祈祷の依頼を」
狐ー、営業するなー。
「ところでちちゅーはできまちた?」
視線がこっちを睨んでいるけど、気付いてはいけません。
「あとー2時間ー煮込めばー」
狐が蒸しているキッチンに入り、鍋を見て戻る。
この一瞬で毛はしっとりと濡れている。
「ミミ殿は暑さでやられてます。もう完成ちているので火を止めておきまちた」
「悪魔ー、水飲んでー」
いくら悪魔でもこの気温ではやられるのか。
「何を言ってるです、ニンゲン。ボクはさっきからコーラを飲んでます」
「狐ちゃん、捕獲」
「御意」
ウチには悪魔がいる。
「あ、お星さまが迎えに来てくれたですー」
完璧にやられている悪魔が。




